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日立製作所 加治 慶光 篠倉 美紀/日立システムズ 畑田 尚美 藤井 俊一/元野球日本代表「侍ジャパン」監督 栗山 英樹氏
2023年7月21日、『サステナブルな地域創生とDX』をテーマに開催されたイベントの模様をお届けする。第4回は、引き続き「社会課題に向き合うマネジメントの知恵」をテーマに行われた第2部のトークセッション。モデレーターはLumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光、ゲストは元野球日本代表監督の栗山 英樹氏。そして日立製作所と日立システムズの3名が、それぞれの視点から地域創生を考えるディスカッション。その2では、日立システムズの女川プロジェクトを通じた地域の課題抽出と、その取り組みについての体験が語られた。

「第1回:夢をかなえるフィールド」はこちら>
「第2回:すべての基本は人作り」はこちら>
「第3回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その1」はこちら>
「第4回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2」
「第5回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その3」はこちら>

「デザイン思考」で取り組む女川プロジェクト

加治
それでは、この女川のプロジェクトについてもう少し深く掘っていきたいと思います。まずは女川町を注力地域として選ばれた背景について、もう少し解説していただきたいのですが、畑田さんいかがでしょう。

画像: 日立システムズ 畑田 尚美

日立システムズ 畑田 尚美

畑田
女川町は、東日本大震災の時の津波で甚大な被害を受けた町です。しかし、そこからの復興の過程で、町の皆さんは立場を越えて協力し合ってまち作りに取り組まれてきました。本当に驚異のスピードでまち作りを進めてきた中で、自治体や事業者の人たちが連携する下地が出来上がっていたことが大きかったです。復興の時には、他県や外国からのボランティアの支援も受けているので、町の皆さんが外の人に対してすごくウェルカムなマインドをお持ちでした。それが最大の理由です。

加えて、女川町はもともと1万人だった人口が一気に6,000人ほどに減少してしまい、少子高齢化も進んでいます。これは日本の将来を体現した課題先進地域ということでもありますので、それも理由のひとつです。

加治
栗山さんがお住いの北海道の栗山町にも、人口減少や高齢化といった課題はありますか。

栗山
そうですね、今畑田さんの話を聞いていて、同じ課題が栗山町にもあると思いました。例えば栗山高等学校という道立の高校があるのですが、今年学年が1クラスになるとその高校は廃校になってしまうということで、相談がありました。僕は自分のアイデアとして、「女子の野球チームを作ってみてはどうか」という提案をしました。野球も競技人口が減少しているという課題があるのですが、「お母さんが野球好きなら野球は廃れない」という僕の持論がありまして、そういうお願いをしました。

結果として女子野球の選手をめざす高校生が大勢入ってきてくれて、クラスも2クラスに増えてこの高校は廃校を免れたそうです。

加治
ありがとうございます。やはり栗山さんは、天性の「デザイン思考」をお持ちの方だということがわかりました。女川プロジェクトでも、この「デザイン思考」というものが重要だったということで、実際に日立が女川町に入っていく時の組織や体制についてもう少し具体的に教えていただけますか。

畑田
はい。こちらがプロジェクトの体制図です。現地メンバーは藤井さんをはじめとする3名と、私たち東京メンバー4名が連携して「デザイン思考」で仕事を進めようという体制なのですが、現地メンバー3名は「デザイン思考」の経験がありません。ですからデザインリサーチャーの坪井さんと篠倉さんに支援をお願いし、現地3名への「デザイン思考」の技術指導に入っていただきました。

加治
「デザイン思考」を身に付けているかいないかということが、このプロジェクトではそれだけ重要な要素になっているわけですね。

画像1: 「デザイン思考」で取り組む女川プロジェクト

畑田
はい、その通りです。

加治
では実際にこのプロジェクトはどんな進め方をしたのか。「デザイン思考」の先生でもある篠倉さん、教えていただけますか。

画像2: 「デザイン思考」で取り組む女川プロジェクト

篠倉
女川プロジェクトでは、自分たちの得意な技術やノウハウだけで提案をするような、ソリューションカットとは異なる進め方が必要でした。そのために私たちがベースにしたものが「デザイン思考」です。具体的にはスライドの左側の7つのステップが、今回の進め方になります。最初は、女川町にさまざまある課題の中で取り組むべきテーマを探ります。次に現場を深く正しく理解するというプロセスの中から課題を見つけ出し、それを解決するアイデアを考案してプロトタイプとして形にします。ユーザーとなる町民の方たちに、それが本当に受け入れられるものかを実際に使っていただいた上で問題点を確認し、さらにブラッシュアップしていく。これが女川プロジェクトの進め方になります。

私自身は人財育成の支援でレクチャーもさせていただきましたが、それだけでなくプロジェクトのメンバーとして参画し、一緒に汗をかいて、プロジェクトを実践しながらアドバイスを行ってきました。

女川プロジェクトの実践

加治
では現地でそれを実践されている藤井さんに、プロジェクトの具体的な話を伺いたいと思います。最初のステップとしては、現場に入って実態を理解する必要があるわけですが、その時のことを教えてください。

画像: 日立システムズ 藤井 俊一

日立システムズ 藤井 俊一

藤井
やはり女川町の人からすると、最初は「日立システムズって何をしに来たんだろう」と構えてしまうところがありましたので、私たちはまず皆さんが集まる飲食店で一緒にお酒を飲み、お祭りなど地域のイベントをスタッフとしてお手伝いするなど、日常的なコミュニケーションをとりながら徐々に顔を覚えていただくところからはじめました。

加治
確かに最初の印象作りというか、距離感を縮めるのは簡単なことではないと思います。そこから課題を決めるまでは、いかがでしたか。

藤井
私たちはあえて仮説を持たずにスタートしましたので、まずは地域の方に直接お話を伺うことから始めました。そして体験もしてみたくて、漁師さんにお願いして漁の体験をさせていただきました。その時に「海の豊かさというのは山から来るんだよ」という話を伺って、確かにここは海と山がすぐ近くにあって密接につながっていることを知りました。

「それなら、次は山へ行って見よう」となり、山に詳しい方に案内していただいて山に入ってみました。女川町は水産業で発展してきている町ですが、町の面積の約8割は山林なのです。しかし、山林に対してまちの人たちの関心が薄く、スギやヒノキなどの人工林が、手入れされずに薄暗い森となって点在している現状が見えてきて、「解決すべき課題は山にありそうだ」と思うようになり、取り組むテーマを「山林」に決めました。

加治
テーマを山林に決めた。次は解決すべき課題を見つけ、解決策のプロトタイプを作るというプロセスに入っていかれるわけですね。

藤井
はい、私たちは現地をつぶさに見るために、山に詳しい複数の方にご案内いただいてお話を聞いたり、山林所有者や山林整備のプロフェッショナルの方にインタビューするなどリサーチを行い、現状理解をしました。

画像1: 女川プロジェクトの実践
画像2: 女川プロジェクトの実践

現状を理解したら、課題を整理してその課題を解決するアイデアを抽出しますが、そこはワークショップ形式で意見を出しあいました。その中からいくつかいいアイデアをピックアップし、それを簡易的に形にして実際に町の人に触ってもらいながら率直な意見を言っていただき、その意見をブラッシュアップに生かすということを行いました。

画像3: 女川プロジェクトの実践

加治
栗山さん、これが女川プロジェクトの概要になりますが、どんなふうに感じられましたか。

栗山
これまでの説明を聞かせていただいて、「デザインってそういうことか」と思いました。「栗の樹ファーム」でも、球場の裏の森を誰がどうやって手入れをするのか、そのお金は誰が出すのか、伐採した木はどうするのか。そんな課題が身近にありますが、それを解決するのもデザインだということですよね。

藤井
はい、そうです。そこにはやりたくてもできない原因があるわけで、表面的に見えている問題をさらに掘り下げて、解決すべき課題を見つけていくということが「デザイン思考」だと思います。

画像4: 女川プロジェクトの実践

「第5回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その3」はこちら>

画像1: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】 社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2

栗山 英樹(くりやま ひでき)

1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、1984年にヤクルトスワローズに入団。1989年ゴールデングラブ賞を獲得。1990年に現役を引退した後は解説者として活躍するかたわら少年野球の普及に努め、2002年には名字と同じ町名の北海道栗山町に同町の町民らと協力して少年野球場「栗の樹ファーム」を開設。2004年からは白鷗大学でスポーツメディア論などの講義を担当した後、2012年からは北海道日本ハムファイターズの監督としてチームを2度のリーグ優勝に導き、2016年には日本一に輝く。2021年、野球日本代表監督に就任。2023年、WBCで優勝。現在、北海道日本ハムファイターズプロフェッサー。

画像2: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】 社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2

加治 慶光(かじ よしみつ)

株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、 鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

画像3: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】 社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2

篠倉 美紀(しのくら みき)

株式会社 日立製作所 DesignStudio Lead Design Reasercher 日立製作所にて、情報システムや建築機械等のデザインリサーチに従事。2017年、建設機械向けIoTクラウドソリューションを事業化。2019年より、顧客協創活動でデザイン思考を実践するとともに、人財育成を推進。2022年より、女川プロジェクトに参画。

画像4: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】 社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2

畑田 尚美(はただ なおみ)

株式会社日立システムズ 金融事業グループ 事業企画本部 戦略企画部 部長代理
2004年より金融業界向け営業活動に従事。2017年より日立製作所のデザイン思考特別業務研修に参画。2019年より金融事業グループの事業戦略立案に従事。2021年より地域創生タスクフォースを運営、女川プロジェクトの立ち上げを担当。2022年より女川プロジェクトを開始、リーダーとしてプロジェクトを推進。

画像5: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】 社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2

藤井 俊一(ふじい としかず)

株式会社日立システムズ 金融事業グループ 事業企画本部 戦略企画部 部長代理
2001年日立システムズに入社後。約21年間金融業界向け営業活動に従事。2021年、女川プロジェクトにおけるメンバー募集に立候補。2022年より宮城県女川町に移住し、女川プロジェクトを推進中。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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