Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
日立製作所 加治 慶光 高野 晴之 枝松 利幸 建築家 坂 茂氏
2023年12月15日、『サステナブルな地域創生とDX』をシリーズテーマに日立製作所主催の2回目のイベントが開催された。ゲストは、建築家 坂 茂(ばん しげる)氏。イベント採録の第5回目は、日立製作所で社会課題の解決と取り組んでいる2人のパネリストを交え、Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光の進行で行われたトークセッションの後篇。地域創生の当事者ならではのリアルなディスカッションが展開した。

「第1回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(前篇)」はこちら>
「第2回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(後篇)」はこちら>
「第3回:「動都」の持つ可能性」はこちら>
「第4回:地域創生の実際(前篇)」はこちら>
「第5回:地域創生の実際(後篇)」

“提供”ではなく“共に作る”

加治
高野さんの方から、地域創生には“場”“連続性”“時間軸”という課題があり、今後ビジネスとして持続させるためにどうマネタイズするかが問われるというお話が出ました。講演で坂さんが指摘されていましたが、日本政府もスーパーシティやデジタル田園都市国家構想などいろいろと手を打ってはいるものの、なかなか具体的に進んでいかない。やはり地域創生はまだまだこれからであるということだと思います。坂さんは、地域の方たちの中に入っていく時に、何か特別に意識されていることはありますか。


やり過ぎないようにしています。例えば仮設住宅が与えられたと思ったら、人は不具合などが起きればもう不満を言うだけになるのです。しかし、一緒になって作る経験を共有すれば、何か問題が起きても自分たちでメンテナンスしたり、増築したりと自律的に行動を起こしてくれます。やっぱり被災された人たちの尊厳を守るために、ただモノを提供するだけの支援は良くないと思います。

例えば2023年2月、トルコで大地震が起きました。この時、解体になった熊本の仮設住宅を日本政府がトルコに寄付したのです。しかし僕が現地に見に行くと、とんでもないことになっていました。トルコ政府はトルコの仮設住宅よりも日本から来たものの方が居心地が良すぎて不公平が起きるということで、政府関係者と軍関係者の家族にだけこの仮設住宅を提供していたのです。日本側は何の調査もせずに寄付したので、結局税金を使ってトルコの特権階級に仮設住宅を提供しただけになってしまいました。

ですから、いいものを贈るだけの支援は役に立たない。場所や状況を自分の目で調査し、ちょうどいいモノを完成品で提供するのではなく、一緒に作る。それが重要だということです。

画像: 日立製作所 加治 慶光

日立製作所 加治 慶光

画像: 建築家 坂 茂氏

建築家 坂 茂氏

“土の人”と“風の人”

加治
2つ目のトピックは、サステナブルなまちづくりです。僕は地域創生を実践する時、“土の人”と“風の人”という役割があるということを枝松さんから教わりました。サステナブルなまちづくりのきっかけとして、この言葉について説明してもらえますか。

枝松
地域創生でよく使われる“土の人”というのは、その土地を守って種を育てていく人、その土地に根ざした人を指す概念です。一方で“風の人”は、種をその土地に持ってくる人。新しい考え方ややり方という種をまいて、また次へと向かう人のことです。

これまで私のようなコンサルタントというのは、期間を決めて課題を一緒に解決して去る“風の人”の立場でした。しかし地域の水道インフラの仕事をするようになってから、私たちも“土の人”になること、“土の人”を育てることが必要だと考えるようになりました。

画像: 日立が取り組んでいる浄水場と設備

日立が取り組んでいる浄水場と設備

このスライドは、実際に弊社が業務受託している浄水場のものです。日本は高度成長の時に全国津々浦々に立派な水道インフラを作っていて、すでに設備はあるのです。しかしそれが経年劣化している上に、もうかつてのような需要もないという時に、ではこの設備をこれから誰が何のために利用するのかを自治体や住民の方たちと一緒になって考えなければ、設備をどう改善すればいいのかわかりません。

ですので、地域のジョイントベンチャーの会社を一緒に作るなど、地域の人たちと外の人たちをつなぐ仲間づくりや人の育成も私たちの仕事になってきています。コンサルタントという仕事も、“風の人”だけでなく“土の人”にならなければ地域の課題は解決できない。そう思うようになりました。

加治
ありがとうございます。坂さんの講演の時に、仮設住宅の前で坂さんと写真を撮られている皆さんの顔がすごく幸せそうで、建築にはこういう力があると改めて感じました。坂さんはさまざまな地域と関わり合ってこられていますが、ご自身がここに骨をうずめたい、“土の人”として一生ここで暮らしたと思ったことはありませんか。


ないです。僕は今のお話を聞いていて、自分はつくづく“風の人”だと思いました。僕は一カ所にずっと居続けることができない、世界中を移動していないといられないタイプの人間です。

加治
実際に年間何カ所ぐらい移動されますか。


コロナ禍の前までは15年間、1週間置きに東京とパリを毎週往復していました。その合間にニューヨークへ行き、ロンドンへ行くという感じでした。ハーバード大学で教えていた時には、東京1週間、パリ1週間、ボストンとニューヨークを1週間ずつ行ったり来たりで、毎月世界を1周するという時もありました。

加治
いや、それは根っからの“風の人”ですね。まだまだお話したいことはあるのですが、時間が来てしまいました。最後に皆さんからひとことずつ感想をいただければと思います。まずは高野さんからお願いします。

高野
今日は地域の課題を解決するための貴重な学びをいただきました。そして、私たちも地域創生を持続可能なビジネスにするために、まだまだいろいろなチャレンジが必要だと改めて思いました。ありがとうございました。

枝松
今日の坂さんのお話で、パーマネントに残るかどうかは使う人が決めることだという言葉が心に残りました。作って終わり、渡して終わりではなく、そこから地域が活性化するような仕事をしていきたいと思います。本日は貴重な機会をいただきまして、ありがとうございました。

加治
坂さんからも一言いただけますでしょうか。


今日は講演だけでなく、全然違う分野の方々とディスカッションできて勉強になりました。僕は社会貢献なんて大上段に構えるものではなく、人それぞれが自分の好きなことでできると思っています。避難所へ行けば、床屋さんだった人が髪を刈っていたりします。有名なバイオリニストの五嶋みどりさんは、声を掛けると「1時間練習させてもらえるなら、私はどこででも弾きます」と言って、世界中の避難所で演奏されています。それぞれ自分の好きなことで何か人の役に立てば、それが社会貢献なのだと僕は思います。

加治
ありがとうございます。手段の目的化という言葉があります。われわれはどうしても収益を出すことを目的にとらえがちですが、それは人がより良く暮らすための手段です。私たちは、いつの間にか手段の目的化に縛られている。ひたむきに目の前の仕事に取り組まれている坂さんの姿勢から、この呪縛に気づかせていただけたことは大きな収穫でした。坂さん、本日はありがとうございました。

画像: “土の人”と“風の人”
画像1: サステナブルな地域創生とDX
【第5回】地域創生の実際(後篇)

坂 茂(ばん しげる)

1957年東京都生まれ。クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)で建築を学び、東京、パリ、ニューヨークに事務所を構える。紙管を使った建築や、木材を使った革新的な構造で知られている。代表作はポンピドー・センター‐メス(2010年)、紙の大聖堂(2013年)、大分県立美術館(2014年)、ラ・セーヌ・ミュジカル(2017年)、富士山世界遺産センター(2017年)、SIMOSE(2023年)。1995年、NGO「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」を設立し、世界各地での災害支援に数多く貢献したことからプリツカー建築賞(2014年)、マザー・テレサ社会正義賞。

画像2: サステナブルな地域創生とDX
【第5回】地域創生の実際(後篇)

加治 慶光(かじ よしみつ)

株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

画像3: サステナブルな地域創生とDX
【第5回】地域創生の実際(後篇)

高野 晴之(たかの はるゆき)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部 ウェルビーイングソサエティ事業創生本部 本部長
1997年日立製作所に入社。公共・社会システムやスマートシティ領域にかかる業務に従事しつつ、グループ会社や国土交通省への出向などを経験。入社以来、一貫して新事業創生・新規領域開拓につとめ、現在はSociety5.0の社会実装に向けた、将来価値基点にもとづく社会課題解決型事業の創生に取り組む。

画像4: サステナブルな地域創生とDX
【第5回】地域創生の実際(後篇)

枝松 利幸(えだまつ としゆき)

株式会社日立製作所 デジタルビジネスプロデューサー/業務改革コンサルタント
2006年日立製作所に入社。日立総研、日立コンサルティングへの実習や出向を経て、社内SNSの活用やナレッジマネジメントのコンサルタントとして活動。その後、ロジカルシンキングとデザインシンキングを組み合わせた顧客協創活動による業務改革を、インダストリーや公共、社会を含む複数分野における顧客向けに実践。現在は、複数の事業分野に跨るデジタルトランスフォーメーションの実践と取りまとめ業務に従事。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.