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株式会社テンダ 社外取締役 厚生労働省 デジタル統括アドバイザー 八尋俊英氏/EY新日本有限責任監査法人 理事長 片倉正美氏
2023年3月期の決算から、有価証券報告書で人的資本開示が求められるようになった。こうした非財務情報も含めて監査の対象にすれば、より適正に企業価値を評価できるようになる。だが半面、監査はいま以上に複雑さを増すことになるだろう。そこで重要な鍵を握るのがDXであり、AIの存在だ。あまたあるテクノロジーとデータから、何を選び、監査のDXに役立てていくのか。その見極めには、監査に精通した会計士とシステム開発者の密な連携が欠かせないという。

「第1回:使命は日本企業のIT利活用の促進」はこちら>
「第2回:初の女性トップとして改革に挑む」はこちら>
「第3回:DXに求められる競争と協調の両輪」はこちら>
「第4回:重要性を増す非財務情報にどう対応するか」
「第5回:DX時代だからこそ人財を経営に生かす」はこちら>

財務情報だけでなく非財務情報も保証していく

八尋
ChatGPTなどの生成AIの登場が象徴するように、今後、監査はAIの力で大きく進展していくと思います。どのような世界になると予想されていますか?

片倉
やはり監査で重要なのは異常点を見つけることであり、その際、過去の情報(データ)を参照しながら未来を読むことになります。このとき、データの中に財務情報だけでなく、非財務情報も加えることができれば、その企業の将来をより精度よく予測し、場合によっては軌道修正できるのではないかと思っています。

八尋
非財務情報は極めて重要なポイントですね。特にいま注目されているのが「人的資本」で、2023年3月期の決算から、有価証券報告書において開示が求められるようになりました。非財務情報についてはどのようにお考えですか。

片倉
結局は、企業価値をどう見るか、ということかと。極端に言えば、いままでは決算では財務数値だけを見ていたわけですが、それだけでは不十分です。本来、経営の資産というのは、人やブランド、さらには気候変動に対する対応や、将来への投資なども含めたものでしょう。そして、いまやそれらも開示し、投資家に説明することが企業の責任として求められている。私たち監査する側も、財務情報と非財務情報の橋渡しができているか、整合性がとれているかをチェックしつつ、他社と比較できるような開示の基準やルールをつくっていく必要があると思っています。

監査は、まさにそうした企業価値が適正な数値として表現されているかをチェックする役割を担っているわけで、最終的にはガバナンスの強化に行き着きます。だからこそ、監査でリスクを見つけたら、プロセス全体を見渡して、正していかなければならない。その際、膨大なデータを扱えるAIはますます重要な役割を担っていくと思っています。

画像: 財務情報だけでなく非財務情報も保証していく

異常値発見AIの精度を高める

八尋
現状は、異常値の発見をAIが担いつつあるということですが、どのように進化していくのでしょう?

片倉
異常値の発見では、すでにさまざまなノウハウが溜まっていて、会計士のノウハウや過去の不正の事例からパターンを見つけ出して、AIに学ばせています。

ただ現状は、AIが見つけてきた異常値はまだレンジが広いのです。そこをどんどん狭め、精度を高めていくためには、データをさらに集めて蓄積しなければなりません。また、すでに取り組みが始まっていますが、異常値が出た際に、その根拠やプロセスを示し、会計士側も理解できるような「説明可能なAI」を開発し、一部の手続きに導入しています。

AIによる異常値の検出という軸は変わりませんが、今後はその精度をより高め、RPAなども活用しながら、監査業務の半分くらいは自動化していきたい。その分、会計士は専門領域の判断やクライアントとの折衝などに専念できるようになればと考えています。

開発者と会計士のコラボで次世代の監査システムを

八尋
実際に技術を活用できるものにするためには、どんな場面で使えるのか、具体的にユースケースを示すことが肝要ですね。

画像: 開発者と会計士のコラボで次世代の監査システムを

片倉
おっしゃる通りです。技術がどんどん進展するなかで、何が監査に使えるのか、具体的なケースに照らし合わせて見極めなければなりません。すでにさまざまなテクノロジーの活用例があり、無数のデータがあるなかで、何を使っていくのか取捨選択が必要です。

このときにテクノロジーに強い人だけで開発に臨んでもうまくいかない。やはり、経験を積んだ会計士が開発者をサポートしていかなければ、いい監査システムはつくれないと思っています。

八尋
テクノロジー人財を呼び込むことも大事ですね。

片倉
現状は、「監査法人にAIの専門家やデータサイエンティストが活躍する場なんてあるの?」と思われているのではないでしょうか。監査の世界にテクノロジー人財を呼び込むためには、一般のバックオフィスのキャリアプランとは違ったキャリアフレームワークを示していかなければならないと思っています。そのための新人事制度の導入などに取り組んでいるところです。(第5回へつづく)

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

「第5回:DX時代だからこそ人財を経営に生かす」はこちら>

画像1: 監査のDXから見える企業と社会の未来図
【第4回】重要性を増す非財務情報にどう対応するか

片倉正美(かたくら・まさみ)
EY Japan マネージング・パートナー/アシュアランス EY新日本有限責任監査法人 理事長

EY のメンバーファームであるEY新日本有限責任監査法人の理事長であり、EY Japanにおけるアシュアランスサービスをけん引するマネージングパートナーでもある。
1991年同法人入所後、IPOから米国上場するグローバル企業に至るまで、多くの日本企業の監査に従事。テクノロジーセクター、中でもソフトウエア、電子部品産業に対する深いナレッジを持つ。
2005年から2年間、経済産業省商務情報政策局にて課長補佐として日本のIT政策の立案に携わった後、政府の委員を歴任するなど幅広い経験を有する。

画像2: 監査のDXから見える企業と社会の未来図
【第4回】重要性を増す非財務情報にどう対応するか

八尋 俊英(やひろ・としひで)
株式会社テンダ 社外取締役、厚生労働省 デジタル統括アドバイザー

東京大学法学部卒業。ロンドンスクールオブエコノミクスにて法律修士号、ロンドン市立大学コミュニケーション政策センターにて修士号取得。
1989年に日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に入行。1997年、ソニー株式会社にて出井社長直下に新設された通信サービス事業室に参加。事業企画室長、合弁子会社COO等を経て退社。2005年、経済産業省に社会人中途採用1期生として入省。商務情報政策局情報経済課企画官、情報処理振興課長、大臣官房参事官 兼 新規産業室長を経て2010年退官。その後、シャープ株式会社にてクラウド技術開発本部長、研究開発本部副本部長等を経て2012年退社。
2013年、株式会社日立コンサルティング 取締役に就任し、2014年には代表取締役 取締役社長に就任。2023年3月退任、現在に至る。

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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