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株式会社テンダ 社外取締役 厚生労働省 デジタル統括アドバイザー 八尋俊英氏/EY新日本有限責任監査法人 理事長 片倉正美氏
監査のDXが進むなか、求められる人財やチームマネジメントのあり方も大きく変わりつつある。必要なのは、分野ごとの専門性とテクノロジーの知見、双方に通じている人財だが、そうした人財は多くない。その際に、鍵を握るのがデジタル・ネイティブの若者と外部の力だと両氏は口を揃える。DXの本懐は、DXそのものではなく、あくまでも人が人にしかできないこと、新しいことにチャレンジするための余力をつくること。そうであれば、AIに仕事を奪われる人間の未来はきっと訪れないはずだ。

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「第5回:DX時代だからこそ人財を経営に生かす」

デジタル教育とチームマネジメント

八尋
前回お話があったように、DXが進むなかで、人財に求められるスキルも変わってきています。一方で、デジタルの力でより早く専門性を身につけられる時代にもなりました。

片倉
いまの若い人たちはすでにデジタル・ネイティブで、飲み込みもとても早いですからね。新しいツールの導入も、若手に任せて広めたほうが早い。そこで私どもでは、デジタルに通じた若手グループ向けと、監査に精通した中堅向けの取り組みとして、それぞれ少人数を選抜して、デジタルについての教育を行ったうえで、当法人の課題を見つけてデジタルで解決する方法をプレゼンテーションしてもらうことを進めています。

全メンバー向けのデジタル教育にも注力していて、私を含めた全員がテストを受け、それぞれの人の能力を測って、能力に応じた研修でITを学び、スキルアップを図る制度もつくりました。

これからは特に、専門性を持つことを前提としながらも、領域をまたがって学ぶことが不可欠だと思っています。つまり、監査の専門性とDXやAIの専門性、両方が必要で、会計士がテクノロジーを学び、データサイエンティストの方には会計を学んでいただき、それによってお互いが歩み寄って重なる領域を増やしていかなければならないと思っています。

画像: デジタル教育とチームマネジメント

八尋
チームマネジメントや組織のあり方も大きく変わっていくでしょうね。若手と中堅をどう組み合わせて、どういった権限でプロジェクトを進めていったらいいのか、いま、あらゆる企業が悩んでいます。

また、組織の権限規定やグループ分けを柔軟に組み換えたとしても、最終的にはリーダーが必要です。視野が広く、新人の対応にも長け、いざとなったらきちんと責任を取れるというリーダーが必要で、そうなると結局、DXも人次第という気がしています。人財育成がやはり鍵を握っているということですね。

DXを進めるために外部の力を借りる

八尋
人財が豊富な大企業であれば、監査にもDXにも通じている人はいるかもしれませんし、教育もできるかもしれませんが、小さな企業は人財確保が難しいですね。

片倉
おっしゃる通り、DXもわかって経営もわかっている人というのはなかなかいらっしゃらないので、その際には外部の力を借りるのも一つの手だと思います。

八尋
特に時間を買う場合には、コンサルタントをうまくお使いになればいいと思います。自社にDX人財が十分にいるのであればその必要はありませんが、DXはもちろん、地球環境問題への対応、コロナ禍後の事業環境変化といった大きな問題への対処は、時間を買わないかぎり、グローバル競争に勝つのは難しいですからね。

片倉
あと、自分たちで変に複雑なシステムをつくらないほうがよいということもありますね。

八尋
乗っかれるものには乗ってしまったほうがいいということですよね。例えばM&Aをうまく活用して、財務や人事については買収元の企業のシステムを活用し、自分たちは得意な研究開発に注力するという企業があってもいい。監査の側からのDXが進んでくると、むしろそうした動きが大きくなってくるように思います。

画像: DXを進めるために外部の力を借りる

人の能力を生かすDXへ

八尋
監査のDXを進めるなかで、とくに課題だと思っていらっしゃることはありますか?

片倉
クライアントから「データがない」と言われてしまうことですね。たとえあったとしても、同じグループ会社でも違うシステムを使っていて、簡単には統合できないこともあります。その場合、出てきたデータをすべてクレンジングしなければ、ツールに投入はできません。

そのためにも、まずは企業側のデジタル化を監査の側から後押ししていくことが重要だと思っています。さらに今後、クライアント側のデータベースに私どもが常時接続できるような環境が整備できると、ツール自体をそこに置かせてもらって、自動的に分析して、エラーがあればこちらに報告がきて、すぐに修正をしてもらう、というリアルタイムでの対応も可能になってくると思います。

八尋
決算まで待たなくても、その前に異常点を洗い出すことが可能になるわけですね。

片倉
そうです。企業側も早めにアクションが取れますし、決算前におかしなところを潰しておいて、早く決算を締めることもできる。実際に、ビジネス環境がスピードアップしているなかで、決算発表をもっと早くしてほしいというニーズもあります。そうした社会のニーズに応えるためにも、常時接続によるリアルタイムの対応は重要だと思っています。

八尋
一方で、現状を大きく変えようとすると、保守勢力の抵抗に遭うのが常です。

片倉
クライアントには、DXは私ども監査にとってメリットがあるだけでなく、企業のガバナンスの強化に役立つということを理解していただくよう努めています。

むしろ大変なのは内部のほうで、新しいシステムを導入しようとすると、最初は慣れないので嫌がる人が多い。その際、チームのなかにITに長けた若い人がいると、スムーズに進みます。また、ツールを導入したチームにはプロアクティブポイントを付与して、賞与に還元するといった取り組みもしているのですが、特に若い人から好評です。

一番大切なのは、DXそのものではなく、DXで効率化すれば、人間でなければできないことに集中できるようになる、ということなんですね。新しい分野への挑戦や非財務分野の基準やルールづくりなど、世の中が監査業界に求めていることにいち早く適応できるよう人財を揃えておく。そのために、テクノロジーの助けが必要だと思っています。人間にしかできないことがある以上は、完全なデジタル監査が実現した先に会計士が不要になる、ということにはならないと思うのです。

八尋
おっしゃる通りですね。私自身も新天地でめざすDXは、まさに人の能力を生かす取り組みです。コロナ禍を経たいま、特に、日々の暮らしや健康などかけがえのない、身近で、なくてはならない社会インフラをDXで支えていけたらと思っています。ともによりよい方向に社会を変えていきましょう。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

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「第5回:DX時代だからこそ人財を経営に生かす」

画像1: 監査のDXから見える企業と社会の未来図
【第5回】DX時代だからこそ人財を経営に生かす

片倉正美(かたくら・まさみ)
EY Japan マネージング・パートナー/アシュアランス EY新日本有限責任監査法人 理事長

EY のメンバーファームであるEY新日本有限責任監査法人の理事長であり、EY Japanにおけるアシュアランスサービスをけん引するマネージングパートナーでもある。
1991年同法人入所後、IPOから米国上場するグローバル企業に至るまで、多くの日本企業の監査に従事。テクノロジーセクター、中でもソフトウエア、電子部品産業に対する深いナレッジを持つ。
2005年から2年間、経済産業省商務情報政策局にて課長補佐として日本のIT政策の立案に携わった後、政府の委員を歴任するなど幅広い経験を有する。

画像2: 監査のDXから見える企業と社会の未来図
【第5回】DX時代だからこそ人財を経営に生かす

八尋 俊英(やひろ・としひで)
株式会社テンダ 社外取締役、厚生労働省 デジタル統括アドバイザー

東京大学法学部卒業。ロンドンスクールオブエコノミクスにて法律修士号、ロンドン市立大学コミュニケーション政策センターにて修士号取得。
1989年に日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に入行。1997年、ソニー株式会社にて出井社長直下に新設された通信サービス事業室に参加。事業企画室長、合弁子会社COO等を経て退社。2005年、経済産業省に社会人中途採用1期生として入省。商務情報政策局情報経済課企画官、情報処理振興課長、大臣官房参事官 兼 新規産業室長を経て2010年退官。その後、シャープ株式会社にてクラウド技術開発本部長、研究開発本部副本部長等を経て2012年退社。
2013年、株式会社日立コンサルティング 取締役に就任し、2014年には代表取締役 取締役社長に就任。2023年3月退任、現在に至る。

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