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株式会社テンダ 社外取締役 厚生労働省 デジタル統括アドバイザー 八尋俊英氏/EY新日本有限責任監査法人 理事長 片倉正美氏
片倉氏は、英国INvolve社の「Heroes Women Role Model List」の「Top 100 Women Executives List」部門において、2020 年より3年連続でトップ10入りを果たした功績が評価され、「INvolve Role Model Lists」に日本人で初めて殿堂入りした。まさにキャリア女性のロールモデルとして、世界中から注目される存在である。自身のキャリアを形成できたのは、持ち前のチャレンジ精神もさることながら、後押ししてくれた上長の力も大きかったと片倉氏。理事長就任後は、在宅勤務キャンペーンを皮切りに、常識にとらわれない改革を実行していくことになった。

「第1回:使命は日本企業のIT利活用の促進」はこちら>
「第2回:初の女性トップとして改革に挑む」
「第3回:DXに求められる競争と協調の両輪」はこちら>
「第4回:重要性を増す非財務情報にどう対応するか」はこちら>
「第5回:DX時代だからこそ人財を経営に生かす」はこちら>

ダイバーシティ&インクルージョンに公平性を

八尋
前回、日本の監査法人においてパートナー、つまり経営責任を負う会計士に占める女性の割合が少ないというお話がありました。その理由はなぜだと思われますか?

片倉
公認会計士は、比較的ジェンダー格差の少ない職業だと思います。ただ、「インポスター・シンドローム」と言われるように、女性のほうが自分を過小評価しがちなんですね。それはこの業界に限りません。新しいことにチャレンジする機会があっても、「もうあと一年勉強してから」とか「自分には無理なんじゃないか」などと思いがちです。

八尋
コンサル業界の若い世代だと、すでに男女比が半々になっていますが、それでも、女性から「昇進を1年遅らせてほしい」という申し出はよくあることです。だから、その女性の上長に対しては、そのことをネガティブに評価しないようにと言ってきました。「いま」か「未来」かの差であって、平等に評価してください、と。女性のほうが比較的慎重なだけなんですね。

片倉
よくわかっていらっしゃいますね。いま、D&I(Diversity & Inclusion:多様性と包摂性)から、DE&Iへ、すなわちEquity(公平性)、Fairnessを含むことが求められています。「1年待ってください」と言われたら、上長はチャンスを潰すのではなく、その人の状況を見ながら、「じゃあ、待ちましょう」、あるいは「君は1年待つ必要はない、いますぐでも大丈夫だよ」と言って、チャレンジを促してほしいと思います。

八尋
わがままなわけではなくて、計画性ゆえですからね。

片倉
国民の約半数を占める女性という大切な財産が埋もれたままというのは、企業にとってももったいないことです。

八尋
そうした意味では、厚生労働省が女性活躍推進に優れた企業に「えるぼし認定」や、子育てサポート企業として優良な企業に「くるみん認定」を行っているのは、非常に大事な取り組みだと思います。日立コンサルティングはいずれの認定も受けていました。

画像: ダイバーシティ&インクルージョンに公平性を

片倉
EY新日本監査法人も同様です。変えていかなければならないことにしっかり取り組み、「くるみん」に関してはさらにその上の「プラチナくるみん」の取得をめざしています。改革を促す際に、制度設計による効果はきわめて大きいと思っています。

「業界を変えたい」という思いで理事長へ

八尋
理事長就任の際は、ご自身で立候補されたのですか?

片倉
私どもはパートナーシップの会社なので、理事長は必ず立候補でなければならないのです。

ただ、少し迷ったのも事実です。実は、私のキャリアのなかで、自分から「これをやりたい」と言ったことはなくて、いい上司に恵まれて、「次はこういうことをやってみたら?」と常に新しいチャレンジを促されてきたんですね。私自身も新しもの好きで、「面白そうだからやります!」という感じでキャリアを積んできました。

ところが、理事長だけは自分で手を挙げなければいけない。女性が立候補すると、しゃしゃり出るみたいで嫌な女と思われるかな、と躊躇したのです。

八尋
日本社会特有の空気を読んで?

片倉
ええ。でも、私は人気取りで仕事をしているわけではないし、ずっとこの業界を変えていきたいと思っていました。女だからなんて言っている場合じゃないと思い直しました。そもそも、下の世代の女性には「ためらわずにどんどんチャレンジしなさい」と言っておきながら、自分が手を挙げないのは違うだろうと。

画像: 「業界を変えたい」という思いで理事長へ

八尋
とてもいいタイミングで理事長になられたと思います。2019年頃から、業界を含めて、世の中が目まぐるしく変わっていきましたからね。

片倉
世の中が変わるということは、企業にとってはビジネスリスクが増えるということでもあります。うまく乗り切らないと損失が出る。損失が出れば、それを隠したいという思いが働いて、結果、不正や間違いが増える。監査を担当している私どもからすると、危ない時代になってきたと感じています。

そのなかで、これまでのように人間が帳簿をめくってパソコンに打ち込んでいたら、すべての不正は見つけられないだろう、と。あるいは、漏れなく不正を見つけようとするなら、会計士が昼夜を問わず働かなければならない。そういう状況を変える時期に来ていると感じていました。だとしたら、いままでトップになったことのないような人が思い切ったことを言ったほうが、みなさん、聞いてくれるんじゃないかなって。

八尋
しがらみのない改革というのはとても大事ですね。

コロナ禍前から手がけていたインフラ強化が功を奏す

八尋
その後に訪れたコロナ禍は、DXをさらに推し進めるチャンスでもありました。

片倉
2020年の年明け早々から(法人全体として)在宅リモートワークに切り替えたのですが、実は、前年に理事長に就任した折、女性を含め、誰もが働きやすい環境を整備しようと、在宅勤務のキャンペーンを打っていたのです。そのときは、「監査なんてクライアント先に行くか、オフィスに出てこないとできるわけがない」と総スカン状態でしたが、コロナ禍になった途端、皆、家にこもって仕事するようになった。やれば「できるじゃない」って(笑)。

特に、功を奏したのは、2018年の東京ミッドタウン日比谷への本社移転を機に、ペーパーレスを徹底していたことでした。従来、監査では紙の「調書」に記入して綴じていたんですね。大企業なら、部屋いっぱいに調書の山が積み上がるほどです。

これに対して、EY新日本監査法人では、2014年から全世界共通の監査プラットフォームEY Canvas(全世界12万人以上のEYメンバー、35万人以上のクライアントユーザーが使用)の導入を進めていて、このデジタル・プラットフォームに調書を収納することができていました。2020年に開催予定だった東京オリンピック・パラリンピックで出社できないことを見越して、テレワークのインフラを強化していたことも幸いしました。第3回へつづく

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

「第3回:DXに求められる競争と協調の両輪」はこちら>

画像1: 監査のDXから見える企業と社会の未来図
【第2回】初の女性トップとして改革に挑む

片倉正美(かたくら・まさみ)
EY Japan マネージング・パートナー/アシュアランス EY新日本有限責任監査法人 理事長

EY のメンバーファームであるEY新日本有限責任監査法人の理事長であり、EY Japanにおけるアシュアランスサービスをけん引するマネージングパートナーでもある。
1991年同法人入所後、IPOから米国上場するグローバル企業に至るまで、多くの日本企業の監査に従事。テクノロジーセクター、中でもソフトウエア、電子部品産業に対する深いナレッジを持つ。
2005年から2年間、経済産業省商務情報政策局にて課長補佐として日本のIT政策の立案に携わった後、政府の委員を歴任するなど幅広い経験を有する。

画像2: 監査のDXから見える企業と社会の未来図
【第2回】初の女性トップとして改革に挑む

八尋 俊英(やひろ・としひで)
株式会社テンダ 社外取締役、厚生労働省 デジタル統括アドバイザー

東京大学法学部卒業。ロンドンスクールオブエコノミクスにて法律修士号、ロンドン市立大学コミュニケーション政策センターにて修士号取得。
1989年に日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に入行。1997年、ソニー株式会社にて出井社長直下に新設された通信サービス事業室に参加。事業企画室長、合弁子会社COO等を経て退社。2005年、経済産業省に社会人中途採用1期生として入省。商務情報政策局情報経済課企画官、情報処理振興課長、大臣官房参事官 兼 新規産業室長を経て2010年退官。その後、シャープ株式会社にてクラウド技術開発本部長、研究開発本部副本部長等を経て2012年退社。
2013年、株式会社日立コンサルティング 取締役に就任し、2014年には代表取締役 取締役社長に就任。2023年3月退任、現在に至る。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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