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日立製作所 谷口伸一/一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 中石和良氏/日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ 宮崎克雅
2023年2月28日、日立 研究開発グループによる「協創の森ウェビナー」で実現した、一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 代表理事の中石和良氏、日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ ラボ長の宮崎克雅、日立 研究開発グループ サーキュラーインダストリー研究部 部長の谷口伸一による鼎談。最終回では、さまざまなステークホルダーを巻き込みながらサーキュラーエコノミーを実現するための、社会のあり方について論じた。

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「第2回:サーキュラーエコノミーとは何か」はこちら>
「第3回:サーキュラーエコノミーの実現に向けた、社会のあり方」

多様なステークホルダーをどうリードするか

丸山
先ほど宮崎さんから、サーキュラーエコノミーの実現のためには、めざすべき方向性をステークホルダー間で共有することが大事だというお話がありました。こういった活動をマルチステークホルダーで進めるときに、だれがどう全体をリードするのかが非常に重要になると思います。

谷口
先ほどの議論でもありましたように、大きなビジョンや大義は社会全体で共有すべきです。他方、地域によって調達できるものも違うでしょうから、地域の経済事情や特性をいかに生かすが大事になります。ビジョンのもとに、例えばアジアや日本といったそれぞれの経済圏のエコシステムの中で経済がきちんと循環する。そこでのルールなり標準的な考え方なりが、国際協調できちんと成り立っていく姿が望ましいと思います。

丸山
その場合、各国の自律的な行動をまとめていく方法や道具立ても必要になりそうです。

宮崎
各国がある程度納得できるルールの設定が必要です。ただ、ルールがすべてを縛るわけではなく、その上で各地域の特性を生かしながらサーキュラーエコノミーを成立させることが肝要です。また、不利益を被ってしまうステークホルダーが出てこないよう、各ステークホルダーが「サーキュラーエコノミーを実現しよう」という思いを持ち、いわゆる自律分散型で行動するようなしくみも求められます。

画像: 日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ 宮崎克雅

日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ 宮崎克雅

丸山
中石さんは欧州をはじめとする海外の動きにも精通していらっしゃいます。例えばドイツの「インダストリー4.0」では政府がイニシアチブをとり、中国の「中国製造2025」も政府がリードしています。日本でも仮にそれらに近しい動きがあったとして、さまざまなステークホルダーの取り組みをどうやって調和していけばよいのでしょうか。

中石
これはある種の国際競争なのです。EUは、グリーンとデジタルを掛け合わせた「欧州グリーンディール」という産業政策により、アメリカや中国の産業との差別化を図ろうとしたわけです。

2010年頃までは、資源産業と工業、そして情報産業という3つの産業が世界で隆盛を極めていましたが、その中心はアメリカと中国であり、そこに欧州はありませんでした。そこで欧州は「デジタル工業」という新たな産業領域を興すことで、国際競争力を付けようとしました。その先陣を切ったのがドイツであり、さらに2019年にEUは正義や倫理というキーワードを包含する「グリーン&デジタル」という産業を最上位に据えた「欧州グリーンディール」政策を打ち出し、さまざまな具体的戦略のもとで他国との差別化を図っています。当然ながら、施策を進める中でさまざまな課題が顕在化しましたが、それらを一つずつクリアしながらEUは活動を拡大し、実績を上げてきました。

画像: 一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 中石和良氏

一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 中石和良氏

丸山
解くべき課題がグリーンとデジタルの二足のわらじになったことで、作ったルールを世界のスタンダードにしようという競争と、作ったしくみの有意性を争う競争、この2つがない交ぜになっているということでしょうか。

中石
ええ。ですが、そこがEUの得意とするところで、域内の企業に有利なデジュールスタンダード(※)の策定とデジタルの標準化を一気に行ったのです。

※ 標準化団体によって定められた標準規格。

企業がサーキュラーエコノミーに取り組まなくてはいけない理由

谷口
デジタライゼーションという大きな潮流において産業のデジタル変革が進む一方、グリーントランスフォーメーション(※)も起きています。こういったいくつかの流れがある中で、緩やかなトランスフォーメーションを起こしていくことが大事なのだと思います。すでに市場に出てしまっている製品について突然「設計を変更します」というのも現実的ではありません。それを回収して、先ほど申し上げた5Rという循環経済に乗せるための道筋を示していく。一方、新しいプロダクトの設計においては、それに適したビジネスモデルと、新しい設計のあり方を強調していく。この2本立てで、これからのモノづくりに臨むべきだと考えています。

※ 脱炭素社会の実現に向けた取り組みを通じた、経済社会システム全体の変革。GX。

画像: 日立 谷口伸一

日立 谷口伸一

丸山
社会がこれから進むべき方向と経済やモノづくりを結びつけて考えることが、サーキュラーエコノミーの取り組みに求められている、と。

中石
そもそも企業がなぜサーキュラーエコノミーに取り組むべきかを考えたときに、次の図に示す企業価値強化(B)とリスク軽減(D)はもはや当たり前の動機です。この2つを達成した上で、サーキュラーエコノミーをきっかけに事業イノベーション(A)を起こそう、コスト削減(C)を達成しようという事業戦略を考えていくことが大切です。今や、どの企業もサーキュラーエコノミーに取り組まなくてはいけないとわたしは考えています。

画像: 企業がサーキュラーエコノミーに取り組まなくてはいけない理由

宮崎
サーキュラーエコノミーを実現する上で、サイバーフィジカルシステムをはじめとするデジタルの技術を用いることは非常に効果的です。ただ、1つ忘れてはいけないのは、サーキュラーエコノミーを実現するのはあくまでもフィジカルワールドで活動している人たちだということです。つまり、我々が主体的に取り組まなくてはいけない。デジタルの力を使いながら、その動きをアクセラレートしていけたらと思っています。

谷口
地球規模で捉えたときに、ある部分では最適になったけれど、ある部分では不最適になってしまった――そういうことが起こらないように、大きなビジョンを持ってサーキュラーエコノミーに取り組まなければいけないことを、本日の皆さんのお話から改めて認識しました。サーキュラーエコノミーの実現に向けたお客さまの取り組みに、日立の技術で貢献していきたいです。

丸山
今回お話を伺って、サーキュラーエコノミーを概念にとどめるのではなく、実行に移していくフェーズに来ていることを実感しました。我々には、サーキュラーエコノミーに「取り組む」の一択しかない。そう受け止め、あらゆる形でさまざまな組織との対話を進めていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

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「第3回:サーキュラーエコノミーの実現に向けた、社会のあり方」

画像1: サーキュラーエコノミーがめざす社会と経済
【その3】サーキュラーエコノミーの実現に向けた、社会のあり方

中石和良(なかいし かずひこ)
一般社団法人サーキュラーエコノミー・ジャパン 代表理事
松下電器産業(現パナソニック)などで経理財務・経営企画業務に携わったのち、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)を設立。 2018年にサーキュラーエコノミー・ジャパンを創設し、2019年に一般社団法人化。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラーエコノミー」の認知拡大と移行に努めている。著書に『サーキュラー・エコノミー 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ新書,2020年)。

画像2: サーキュラーエコノミーがめざす社会と経済
【その3】サーキュラーエコノミーの実現に向けた、社会のあり方

宮崎克雅(みやざき かつまさ)
国立研究開発法人産業技術総合研究所 日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ ラボ長
1993年、日立製作所 入社。機械研究所、日立研究所において、主に発電プラントの設計および供用期間中の構造健全性評価に関する研究開発に従事。2001年から1年間、米国コーネル大学にて、原子炉内構造物の余寿命評価技術の開発に従事。また、研究成果の社会実装の観点で、米国機械学会をはじめとした国内外の関連委員会において規格基準活動を推進。2018年からは材料イノベーションセンタ、生産・モノづくりイノベーションセンタ 主管研究長として、モノづくりに関する研究開発の取りまとめに従事。2022年10月、産総研内に日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボを立ち上げて、ラボ長に就任、現在に至る。博士(工学)。

画像3: サーキュラーエコノミーがめざす社会と経済
【その3】サーキュラーエコノミーの実現に向けた、社会のあり方

谷口伸一(たにぐち しんいち)
日立製作所 研究開発グループ 生産・モノづくりイノベ-ションセンタ サーキュラーインダストリー研究部 部長
2004年に博士号取得後、日立製作所に入所。基礎研究所、生産技術研究所において、マテリアルサイエンスの知見を活用してヘルスケア関連の計測機器開発に従事したのち、計測・材料プロセス分野の研究ユニットリーダを務める。その後、研究開発グループ技術戦略室勤務を経て、産業ソリューション強化PJリーダー、加工・検査研究部長を歴任し現在に至る。フィジカル技術とデジタル技術を融合するサーキュラーエコノミープロジェクトをリードしている。

画像4: サーキュラーエコノミーがめざす社会と経済
【その3】サーキュラーエコノミーの実現に向けた、社会のあり方

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーションセンタ 主管デザイン長
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。

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