3年近くも続いているパンデミックによって、アパレル産業も大きなダメージを受けている。だが、シタテルは、2020年は落ち込んだものの、2021年には大きく業績を回復している。その原動力となったのは、社員の踏ん張りと、既存のアパレルブランド以外のD2C(Direct to Consumer)やDNB(Digital Native Brand)といった、インターネット時代をリードする企業の存在。JAXAを始め、出版社やエンタメ企業は、なぜシタテルに信頼を寄せるのだろうか。

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「第3回:コロナ禍でのレジリエンス力 非アパレル企業とのコラボ戦略が冴える」

2021年にはコロナ禍でもリカバリーする

数多くのメディアから取材を受け、さまざまな賞も獲得してきている「シタテル」。代表取締役CEOとして、河野氏はどのような将来を描いているのだろうか。

「経産省のアクセラレーションプログラムとして採用されていましたし、資金調達を含めた事業のランディングからは順調というところもあります。ただ、まだスピードが足りません。2020年はコロナ禍で市場自体も落ち込み、20-30%のマイナス成長でした。ですが、2021年は社員全員でリカバリーしようと努力した結果、大きく業績を回復して、レジリエンスがある組織に成長しました」
と、手応えを口にする。

D2CやDNB企業から絶大な信頼、宇宙船内服も開発

「ポテンシャルがあるのは、個人のデザイナー、クリエイター、インフルエンサーなどが発信するD2C(Direct to Consumer)の企業。彼らはコアなファンとのエンゲージメントを高めるために、感度の高いオリジナリティ溢れる製品を作りたいという願望を持っています。しかし、実際の生産となると対応してくれる工場にコネクションがありません。そこで、弊社がずっと開拓してきたサプライヤーのネットワークを活用していただけるのです」(河野氏)

また、IP(知的財産)を持った非アパレル企業が若年層を中心に展開する、いわゆるDNB(Digital Native Brand)のsitateru CLOUD利用も伸びている。DNBは、熱狂的なブランド体験をあらゆるデジタルテクノロジーを駆使して展開する。それだけに、既存のアパレルとのコラボには飽きたらない魅力を同社に感じているのだろう。さらにブランド自体に「ものづくり」の知見が足りなくても、シタテルがそれをサポートしてくれる。在庫を持たず、短期間で企画・生産ができるのもこの上ないメリット。このジャンルでは、講談社、ゲーム・エンタメ業界のアカツキ、そして、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などが、シタテルを頼りにしている。

「IPに紐づいたお客様は、服への出費とは捉えず、自分の好きなキャラクターへの投資、あるいはロイヤリティという意味で消費しているように見えます。一過性の購買行動ではなく、LTV(LIFE TIME VALUE)を感じているようです」

画像: スノーピークと共同開発した宇宙船内服が2022年からISSで着用予定

スノーピークと共同開発した宇宙船内服が2022年からISSで着用予定

シタテルは、さらにJAXAと連携を深めている。2020年7月から、JAXAの「THINK SPACE LIFE アクセラレータープログラム」にインキュベーションパートナーとして参画。国内初の「宇宙と地上双方の暮らしをアップデートする衣服」の企画・開発をしてきた。アウトドアブランドのスノーピークとコラボして作り上げた宇宙船内着が審査を通過し、今年から、ISS(国際宇宙ステーション)で着用される予定だ。

熊本への思いと、サステナビリティを両立したい

シタテルは創業以来、熊本本社・東京支社の体制を続けている。「ビジネスをやるなら東京」という声が届くこともあるが、河野氏は2拠点を大切にしていくことを心に決めているようだ。

「アメリカで感じたことですが、IT、つまりクラウドやインターネットによって場所や環境に依存しないビジネスができるようになりました。ただ、生まれ育った熊本は住環境も含めて魅力がありますし、近隣エリアには工場も多く、双方向、ダイレクトなフィードバックも肌感で確認出来ます。距離によって機会を失うことがなくなったいま、地方だから都市だからと意識しすぎないことが重要だと感じています。地域を越えて、地方のどんな場所であっても、またグローバルに活用できるシステムを提供したいのです」

画像: 熊本・東京の2拠点もサステナブルへの思いから

熊本・東京の2拠点もサステナブルへの思いから

本社には、東京・名古屋という都市部からのIターンも、熊本出身のUターンの人材もいる。「弊社を通して、熊本を知っていただきたいですし、地方でも活躍できる人材は多く、場所に依存することなく、共にビジネスを育んで行きたいと思ってます」と、河野氏は静かに微笑みながら、サステナビリティについて切り出した。

「創業当時はあまり打ち出されていない言葉でしたが、SDGsは人類のテーマであり、サステナブルであることは、企業経営に直結していると思っています。規模に関わらず、企業の成長と社会性が一貫していないと、企業は存続できないと感じています」

アパレルが抱える在庫を解消し、適切な量だけを受注生産する体制を構築してきた背景には、自社の経済的な利益と、社会問題の解決を両立させるという思いがあるのだ。

さらに、「すべてのステークホルダーに、それは幸せか?を問いたいです。なぜなら、アパレル産業に関わっている、服を企画したブランド、販売、生産した工場や生地メーカー、その他にもサプライチェーン上に関わる全ての人の心理を考えてみると、様々な人が関わり、時間をかけて出来た多くの衣服が、実態として廃棄され続く限り、関係者の幸せ指数が上がることはありません。現代においては、消費者の意識も同じです。人の営みとして、本質的な部分を変えていきたいという思いが、私の仕事の原動力になっています」

それを実現する日のために、河野氏はいまも熊本、東京間を往復し、全国を飛び回るのだ。

画像: アパレル産業が抱えるボトルネックをプラットフォームで解放する
【第3回】コロナ禍でのレジリエンス力 非アパレル企業とのコラボ戦略が冴える

河野 秀和(かわの ひでかず)
メーカー、金融機関を経て独立。経営支援事業や衣服のカスタマイズ事業を行い、VC主催のアクセラレーションプログラムにより、サンフランシスコ/シリコンバレーでITビジネス、スタートアップ企業の経営戦略、グローバル戦略、ファイナンス戦略等見識を深める。2014年シタテル株式会社を創業。経済産業省「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」委員やISS(国際宇宙ステーション)船内着のゼネラルディレクター、熊本大学非常勤講師など熊本と東京を拠点に活動。

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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