Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
日立製作所 研究開発グループ 鈴木朋子/三菱UFJリサーチ&コンサルティング 吉高まり氏
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの吉高まり氏と日立製作所研究・開発グループの鈴木朋子による対談、最終回。「トランジション」という言葉の本来の意味を踏まえ、企業や自治体がとるべき考え方、日本ならではの強みについて語っていただいた。

「第1回:COP26と環境ファイナンスの世界潮流」はこちら>
「第2回:ロードマップを描くための視点」はこちら>
「第3回:トランジションを描くために」

求められるのは、コミュニケーションとエンゲージメント

丸山
最後のトピックに参ります。カーボンニュートラルを実現するためのトランジションを描くために、企業や自治体はどんなことに配慮すべきでしょうか。

吉高
そのトランジションという言葉はもともと、2015年にパリ協定が採択されたときにILO(国際労働機関)が「Just Transition」という言葉を用いたのが始まりです。つまり、サステナブルな社会への「公正な移行」をめざすべきである。無理に移行すると弱い立場の方々に悪い影響を及ぼしてしまう。雇用と経済を適切に維持しながら、あるべき社会へスムーズな移行をめざすという意味なのです。単純に再生可能エネルギーをたくさん購入しましょう、というスタンスではありません。

では、どのようにして脱炭素社会を実現していけばよいのか。そこはやはり「learning by doing」になると思います。学びながら、調整しながら、強靱でフレキシブルなトランジションをしていく。今できる・できないと考えるのではなく、「こういうストーリーでわたしたちはミッションを達成したい」という思いを言語化し、コミュニケーションしていくことが重要だと思います。

画像1: 求められるのは、コミュニケーションとエンゲージメント

カーボンニュートラルを達成するにはもちろん資金も技術も必要ですが、やはり最後は人だと思うのです。人を動かすという点では、先ほどお話に出たMRVのしくみを整備するにも、第三者からの技術やアドバイスが欠かせません。さらに近年では、単にお金を貸すだけでなく、コンサルティングを提供する金融機関も増えています。自社だけで取り組むのではなく、このような外部とのエンゲージメントを深めていくことが今後いっそう求められると思います。

鈴木
先ほど吉高さんがおっしゃっていたバックキャスティングの考え方がこれからは必要です。2050年に、どんな社会を実現したいか。脱炭素さえ達成できていれば人類は幸せ、というわけではないと思うのです。もしかしたらそれで雇用を失う人が出てくるかもしれない。そういうことが起こらない社会、脱炭素を達成しながらも幸せな未来像を描かなくてはいけないと思います。そこに至るパスウェイはおそらく複数あって、そのときどきの意思決定を、測定可能かつ透明性を担保されたデータに基づいて判断できるようにする。それが我々日立に求められている姿勢であり、今日何度かお話に挙げたMRVを可能にするシステムであったりソリューションであったりを提供していくべきだと、改めて思いました。

画像2: 求められるのは、コミュニケーションとエンゲージメント

協創できるという国民性

丸山
要するに、脱炭素社会の実現は全世界が一緒になって取り組むべきことだと。例えば地政学的に大きな変化が起きたときに、あるべき未来を実現するためにどう方向転換すべきかといった判断は、人間にゆだねられている。測定可能なデータと人間の公正さを問う判断力が重要になってくることを、お二人のお話から感じました。

また、環境施策は政府だけに頼るべきものではないと思います。吉高さんにお示しいただいたサステナブルファイナンスのように、社会的インパクトを重視する金融機関や投資家の方々、産業、自治体などがみんな一緒になって、公正な判断力をもってカーボンニュートラルへ突き進んでいく。そういう施策をどうやってつくるのかが、まさにトランジションのパスウェイの描き方になるのではないでしょうか。

吉高
おっしゃるとおりですね。昨年COP26に参加して思ったのは、もっと日本は自信を持って発信していいのだと。協創という取り組みができるのが日本の強みだとわたしは思うので、企業や自治体などと金融機関がパートナーとなることで、新たな価値をつくっていけるはずです。今日はリスク面について多くお話ししましたが、本来はリスクをチャンスに変えるのがビジネスだと思います。これからの日本に期待します。

丸山
本日はサステナブルファイナンスと環境技術それぞれの観点からお話しいただき、トランジションの実現に向けてクリアすべき課題が鮮明になりました。お二人とも、ありがとうございました。

画像1: 脱炭素社会へのトランジション実現へ―その課題と金融の役割―
【その3】トランジションを描くために

吉高まり(よしたか まり)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト。米国ミシガン大学環境・サステナビリティ大学院 科学修士。慶應義塾大学大学院政策・メディア科非常勤講師。博士(学術)。IT企業、米投資銀行、世界銀行グループ国際金融公社(IFC)環境技術部などを経て、2000年、三菱UFJモルガン・スタンレー証券に入社。クリーン・エネルギー・ファイナンス部を立ち上げる。気候変動分野を中心とした環境金融コンサルティング業務に長年従事し、政府、機関投資家、事業会社などに向けて気候変動、SDGsビジネスやESG投資の領域についてアドバイスなどを提供。2020年に三菱UFJリサーチ&コンサルティングに入社し現在に至る。三菱UFJ銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券を兼務。

画像2: 脱炭素社会へのトランジション実現へ―その課題と金融の役割―
【その3】トランジションを描くために

鈴木朋子(すずき ともこ)
日立製作所 研究開発グループ 技師長。1992年、日立製作所に入社。以来、水素製造システム、廃棄物発電システム、バラスト水浄化システムなど、一貫して脱炭素・高度循環・自然共生社会の実現に向けたシステム開発に従事。2018 年、顧客課題を起点とした協創型事業開発において事業拡大シナリオを描くビジネスエンジニアリング領域を立ち上げ、現在は社会課題を起点とした研究開発戦略の策定と事業化を推進する環境プロジェクトをリードしている。

画像3: 脱炭素社会へのトランジション実現へ―その課題と金融の役割―
【その3】トランジションを描くために

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員教授。

Linking Society

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.