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株式会社 日立製作所 執行役副社長 德永俊昭/建築家 妹島和世氏
茨城県日立市出身の世界的な建築家 妹島和世氏。同じく日立市出身で、高校も後輩の日立製作所 執行役副社長 德永俊昭。地元の偉大な先輩として、妹島氏の作品や活躍を見続けてきた德永が待望した対談。最終回となる第5回のテーマは、一人称で働くということについて。

「第1回:日立育ちの偉大な先輩」はこちら>
「第2回:グローバルというフィールド」はこちら>
「第3回:豊かさの多様性」はこちら>
「第4回:他人事と自分事」はこちら>
「第5回:一人称で働く」

水戸一高のカルチャーショック

德永
金沢21世紀美術館と同じように、日立市における日立駅や日立市新庁舎も、街全体を活性化する存在です。

妹島
日立は変化していますけれど、やっぱり私には、小さいころに見た工場の屋根が連なっている景色が印象に残っています。

德永
はい、忘れることのできない風景です。

妹島
今ではめずらしいからか、時々社宅の話を聞かれることがあって。社宅というのはみんなが同じところに勤めておなじところに住んではいるのですが、日本中から人が集まってきているから、方言が混じり合うような違いもある世界なんですよね。

德永
ある種の多様性ですよね。ただ、そこでの暮らししか知らなかった私が高校で日立から水戸に通うようになると、「世の中には自分の想像をはるかに超える人間がいるんだ」ということを知り、大きなショックを受けましたが。

妹島
私も。

德永
そして大学で東京に行くと、さらに大きなショックが…。

妹島
本当にそう。やっぱりそういう意味では守られた世界だったんですよね。友達やご近所のお父さんお母さんもみんな知っていて、みんな同じような生活をしている。そんな場所でした。

画像: 水戸一高のカルチャーショック

德永
おっしゃる通りです。水戸一高には、先輩の作家である恩田陸さんの小説『夜のピクニック』で有名になった「歩く会」という行事があります。これは毎年、全校生徒が二日間をかけて70キロを歩くという伝統行事です。妹島さんも体験されましたよね。

妹島
はい。3年間の歩ききったあの経験は、いまでも私の誇りです。

德永
とにかく夜通し生徒全員がへとへとになって歩くだけなのですが、その間に人生とは何か、世界はどうしたといった根源的な話をしたりしながら、ただ全員でゴールをめざす。あの経験は、今でも私の人生観に大きな影響を及ぼしています。

妹島
あの過酷な経験が、修学旅行の代わりですからね。

德永
私はここ数年アメリカの西海岸で仕事をしていたと言いましたが、アメリカのさまざまな都市に水戸一高の同級生たちがいるんです。その同級生たちとオンラインで懇親会をしたのですが、現地で活躍している女性達が何人もいるんです。妹島さんのグローバルでのご活躍もそうですが、水戸一高出身の女性たちは視野が広くて昔から世界に目が向いていたんだと実感しました。

妹島
私の場合は、お声がけいただいたのがきっかけですが、世界に目を向けること、世界を知ることは大事ですね。

これからの取り組みについて

德永
最後になりますが、妹島さんの今後のお仕事についてお聞きしたいと思います。

妹島
具体的には、香川県高松市の瀬戸内海に面した『新香川県立体育館(仮称)』の工事がはじまります。渋谷のスクランブルスクエアは第Ⅰ期で東棟が開業しましたが、私が設計を担当するJR渋谷駅や東急の中央棟と西棟、ハチ公広場や井の頭線を含めた第Ⅱ期の工事も動き出していまして、これができると渋谷の街がいろいろなレベルでつながることになります。

德永
ワクワクするようなビッグプロジェクトです。

妹島
確かに大きな仕事ですが、今日お話しましたように、外から見るだけではなく自分がその環境の中に入り込んで、内と外をつなぎながらみんなが関われる場所をつくる。そこが重要というのは、大きくても小さくても同じだと思っています。

例えば2010年の「家プロジェクト」から関わらせていただいている岡山県の犬島では、コンポストのトイレをつくったり、外から見たデザインだけではなくて、本当に重要なのは循環だということを経験から実感しました。それは、これからの仕事にも生かしていきたいですね。

画像: これからの取り組みについて

德永
ありがとうございます。私たち日立製作所の人間も一人ひとりが社会をつくる当事者であるという意識を持って、一人称で課題と向き合って仕事をしていくことができたら、こんなに素晴らしいことはないと、今日お話しさせていただいて強く感じました。妹島さんは、どんなにハードルの高いお仕事でもそれを最大限に楽しまれています。それは本当にうらやましいことだし、私たちがお手本にすべきことだと思います。

日立は、ITとOT(Operational Technology)の両方を掛け合わせることができる存在です。その特徴を生かしながら、私たちもさまざまな人や組織との協創によって社会の持続可能性に貢献していきたいです。

妹島
私は、以前日立の方々と西武鉄道の特急車両「Laview(ラビュー)」でお仕事をさせていただきました。そのときに、日立は信号などの運行の制御など、鉄道に関するシステムを全部つくっていて、必要に応じてつなぐことができるということに驚かされました。

それと山口県下松(くだまつ)市にある笠戸工場に行くと、職人の方が叩いたり削ったりガンガンと手作業をされていて、そこで新幹線やイギリスの鉄道車両が作られていく。私たちが目にすることのない鉄道を動かすシステムと、私たちが目にする実際の車両づくりの両方が行われていて、それが共存して循環している。

手仕事と、デジタルテクノロジーの最先端がつながっていて、有機的な動きができるのが日立だとそのとき感じたんです。とても感銘を受けました。これからに期待しています。

德永
ありがとうございます。今日は偉大な先輩と一緒にこういう形でじっくりとお話をさせていただき、本当にうれしく思っています。妹島さんが日立市をはじめ世界中にたくさんの価値を提供されているように、私たち日立グループも、日本、そしてグローバルで新しい価値を提供していきたいと思います。これからも、いろいろな局面でぜひともご指導をお願いいたします。

妹島
こちらこそ、よろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。

撮影協力 公益財団法人国際文化会館

画像1: 一人ひとりが参加し、つながることができる社会へ
【第5回】一人称で働く

妹島和世(Kazuyo Sejima)
1956年茨城県生まれ。1981年日本女子大学大学院家政学研究科を修了。1987年妹島和世建築設計事務所設立。1995年西沢立衛とともにSANAAを設立。2010年第12回ベネチアビエンナーレ国際建築展の総合ディレクターを務める。日本建築学会賞*、ベネチアビエンナーレ国際建築展金獅子賞*、プリツカー賞*、芸術文化勲章オフィシエ、紫綬褒章などを受賞。現在、ミラノ工科大学教授、横浜国立大学名誉教授、日本女子大学客員教授、大阪芸術大学客員教授。主な建築作品として、金沢21世紀美術館*(金沢市)、Rolexラーニングセンター*(ローザンヌ・スイス)、ルーヴル・ランス*(ランス・フランス)などがある。 
* はSANAAとして

画像2: 一人ひとりが参加し、つながることができる社会へ
【第5回】一人称で働く

德永俊昭(Toshiaki Tokunaga)
1990年、株式会社 日立製作所入社、2022年4月より、代表執行役 執行役副社長 社長補佐(金融事業、公共社会事業、ディフェンス事業、サービス・プラットフォーム事業、社会イノベーション事業推進、デジタル戦略担当)、デジタルシステム&サービス統括本部長/日立デジタル社 取締役会長。

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