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株式会社 日立製作所 小幡未央・出口興亮・多田克己/日立チャネルソリューションズ株式会社 横山高士
社会課題を解決するイノベーションを起こすことが、企業と社会のサステナビリティにつながる。では、どうすればイノベーションを起こせる人材が育つのか。多くの企業が、いまだにその答えを見出せていないのではないだろうか。日立の情報通信部門では、社員のイノベーションマインドの醸成を目的にしたサステナビリティ推進活動「社会イノベーション事業体験ワークショップ」を、2016年度からNPO法人クロスフィールズとともにブラッシュアップを重ねながら毎年実施してきた。2021年度に参加した社員への取材をもとに、日立の次世代を支える彼らのマインドの変遷を追った。

「第1回:『レバレッジポイント』までの回り道」
「第2回:『社会課題を解決するビジネスアイデア』という難題」はこちら>
「第3回:ビジネスアイデアの先に、見えてきた景色」はこちら>

新興国の課題を解決するビジネスアイデア

「社会イノベーション事業体験ワークショップ」とは、新興国の社会課題を解決するビジネスアイデアを、日立の社員4人で構成されたチームが3カ月かけて企画立案するというもの。2021年度はインドネシアの環境問題をテーマに、3チームが活動した。そのうちの1チーム、小幡未央・出口興亮・多田克己・横山高士の4人に取材した。

深掘り不足からのスタート

2021年9月、インドネシアで活動する社会起業家を講師に招き、全員参加による初回の全体セッションが開催された。環境問題をはじめとする現地の社会課題についてレクチャーを受けた社員たちは、その後1カ月間、環境問題を構造的に捉えるためのリサーチに努めた。まだまだビジネスアイデアの方向性を決める段階ではないのだが、4人は早くも農業問題をテーマに設定。営業職として保険会社にITシステムの提案を行っている小幡未央がこう振り返る。

「もともとメンバーそれぞれが強い関心を持ち、身近で自分事化しやすいのが農業問題でした。なかでも4人に共通していたのが、日本でも起きている後継者不足や農作物の安全性への問題意識でした。農業問題という切り口で、農作物が作られてから消費者に届くまでのプロセス全体を洗い出し、どんな課題が潜んでいるかリサーチを進めました」

画像: 日立製作所 小幡未央

日立製作所 小幡未央

農業問題をテーマに据えて、走り出した4人。しかし、掘り下げ方が足りていなかった。10月に行われた2回目の全体セッション。ワークショップの講師の一人であり、バリ島で活動する社会起業家の濱川明日香氏(※)から「農業という視点はよいけれど、環境問題にどうつながるのですか?」と指摘され、メンバーは答えに窮してしまう。

一般社団法人Earth Companyの共同創設者・代表理事。同法人は、アジア太平洋地域の社会起業家の支援事業をはじめ、日系企業の社員を対象とした研修プログラムや、地球環境に配慮したエシカルホテルを運営している。

「レバレッジポイント」を見つけ出す

働き方改革の事業創出に携わっている多田克己が語る。

「自分たちが実現したいことを先に考えてしまっていました。農業に関わる環境問題には、そもそもどのようなものがあるのか。まずはそこを掘り下げ、見えてきた問題の因果関係を整理したうえで、レバレッジポイント(※)を探るべきだと気づかされました」

※ 小さな力で大きなものを動かす梃子の原理になぞらえ、ある1つの問題を解決すると、関連するさまざまな状況が改善されること。

画像: 日立製作所 多田克己

日立製作所 多田克己

4人は再びリサーチをかけ、改めておのおのが気になったインドネシアの環境問題に関するトピックを持ち寄って議論した。森林火災や耕作機の排気ガスによる煙害、地下水の枯渇がもたらす土壌への負荷、農薬による土壌汚染、収穫物が輸送時に腐ることで起こるフードロス……。問題はどれも深刻だった。そのなかでもインドネシア社会への影響度が高い問題は何か、チームとして取り組むべき問題を絞り込むのに時間を割いたという。そのときのチームの様子を、システムエンジニアとして鉄道業界向けのソリューション開発に携わっている出口興亮が語る。

「『結局のところ、情熱を持てることでないと、社会イノベーション事業を続けることはできない』。講師の濱川明日香さんからそうアドバイスをいただいて、自分たちが心を動かされるものは何か、ショッキングだったことは何かをポイントに、一つひとつの問題を吟味しました」

画像: 日立製作所 出口興亮

日立製作所 出口興亮

メンバーで分担して一つひとつの問題を掘り下げ、さらにそれらの因果関係を整理した。共通項として浮かび上がったのが、貧困に苦しむ零細農家がやむを得ず行っている、違法な焼き畑農法だ。一部の先住民族が行っている伝統的な焼き畑農法であれば、環境への負荷を抑え、むしろ持続可能な農業を実現できる。しかし、自然保護区の森林を焼いてしまう、森林が回復する前に焼いてしまうといった違法な焼き畑が後を絶たない。

「実は、焼き畑がトピックの1つに挙がった段階で、ひと悶着ありました」

そう明かすのは、ソフトウェアの品質保証業務に携わっている横山高士だ。

画像: 日立チャネルソリューションズ 横山高士

日立チャネルソリューションズ 横山高士

「焼き畑であれ稲作であれ、人為的に環境を破壊して成立するのが農業なのではないか。『焼き畑による環境破壊はNGだが、稲作による環境破壊はOK』というロジックの根拠を押さえておかないと、新たに別の問題を生むだけではないか。そんな意見が挙がり、そもそも伝統的な焼き畑を悪と捉えてよいのかどうかで議論が紛糾しました」(横山)

その後、違法な焼き畑について深く調べていくなかで、伝統的な焼き畑農法は現地の土壌に適した持続可能な農業であることがわかった。その一方で、零細農家が経済的な理由から違法な焼き畑農法を進めていった結果、森林減少などの環境負荷を高めているという実状も見えてきた。

「零細農家の暮らしがよくなれば、いろいろな問題が解消されるはず。『零細農家による違法な焼き畑農法を減らす』というレバレッジポイントに、ようやくたどり着きました」(横山)

こうして、チームの方向性が定まった。(第2回へつづく)

「第2回:『社会課題を解決するビジネスアイデア』という難題」はこちら>

画像1: イノベーションマインドの育て方――インドネシアの環境問題に挑み、獲得した視点。
【第1回】「レバレッジポイント」までの回り道

小幡未央(こばた・みお)
株式会社 日立製作所 金融システム営業統括本部 金融営業第三本部 企画員
保険会社担当の営業としてシステム構築案件を中心に提案している。

画像2: イノベーションマインドの育て方――インドネシアの環境問題に挑み、獲得した視点。
【第1回】「レバレッジポイント」までの回り道

出口興亮(いでぐち・こうすけ)
株式会社 日立製作所 社会システム事業部 交通情報システム本部 企画員
システムエンジニアとして鉄道会社向けのソリューション開発に従事している。

画像3: イノベーションマインドの育て方――インドネシアの環境問題に挑み、獲得した視点。
【第1回】「レバレッジポイント」までの回り道

多田克己(ただ・かつみ)
株式会社 日立製作所 IoT・クラウドサービス事業部 働き方改革ソリューション本部 技師(主任)
エンジニアとして金融分野のシステム開発を経験したのち、働き方改革関連の事業創出に携わっている。

画像4: イノベーションマインドの育て方――インドネシアの環境問題に挑み、獲得した視点。
【第1回】「レバレッジポイント」までの回り道

横山高士(よこやま・たかし)
日立チャネルソリューションズ株式会社 品質保証本部 コトづくり品質保証部 技師(主任)
ATM関連のソフトウェアの品質保証業務に携わっている。

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