「第1回:『レバレッジポイント』までの回り道」はこちら>
「第2回:『社会課題を解決するビジネスアイデア』という難題」はこちら>
「第3回:ビジネスアイデアの先に、見えてきた景色」
3カ月間を走り抜けた4人の現在地
2021年の9月上旬から12月中旬にわたってインドネシアの環境問題に向き合ってきた4人。彼らのイノベーションマインドはどう育まれたのか。まずは、ソフトウェアの品質保証業務に携わる横山高士が語る。
「収益性を考慮しながら社会イノベーション事業を起こすことの大変さを学び、普段の業務でもコスト面を強く意識するようになりました。また、環境問題について調べれば調べるほど新たな発見があり、改めて世界の広さ、奥深さを思い知りましたし、解決したい社会課題への情熱こそ社会イノベーション事業のモチベーションになるということを、農業問題に携わる関係者へのインタビューから実感しました。特に、インドネシアでカカオ栽培の支援を行っている製菓用チョコレートメーカーは、大変なご経験を実に明るく話されていて、まったくつらそうに聞こえない。仕事とはこうあるべきだと思いました」
鉄道会社のシステム設計に携わるエンジニアの出口興亮も、仕事に取り組む際の視野が広がったと強調する。
「一つひとつのシステムを見るのではなく、事業全体を俯瞰し、長期的な視点から社会課題を意識するようになりました。それまではお客さまのご要望にどう応えるかにとらわれ、納期までのスパンで物事を考えることが多く、目先の作業内容にどうしても意識が行きがちでした。また、これからはお客さまから依頼されたシステムをつくるだけでなく、社内の他の部署や外部の企業とも連携して、お客さまに『この技術を使えばこんなことができます』と提案していく力が求められると思います。そういったシーンに、ワークショップで学んだことが活かせると思います」
保険会社向けの営業を担当している小幡未央は、「社会イノベーションを起こすにあたって、自分の心が何に突き動かされたかを常に意識してほしい」という講師の濱川明日香氏からの指摘が大きな気づきにつながったと語る。
「普段の業務では、自分がどう考えるかよりも、組織としてどう動けば一番効率的なのかを優先していたことに気づきました。この3カ月、侃々諤々と議論を重ねるなかで、自分の意見を発信し、それに対してメンバーからリアクションをもらうことで自分の考えがさらに深化していく面白さを何度も実感しました。世の中の事象を自分事として捉え、自分の心が動くポイントを大事にして、積極的に発信しながら普段の業務に取り組んでいこうという姿勢に変わりました。
これまでは主にお客さまの情報システム部門に対してシステム構築の案件をご提案してきたのですが、もっと視野を広げてお客さまも気づいていない課題をつかみ、新しい価値を提案していけたらと考えています。お客さまにどういった価値を提供できるのか、仮説を立てて考えるプロセスの土台を、このワークショップを通じて自分のなかに築けたと思います」
働き方改革の事業創出に携わる多田克己は、ワークショップが終了するとすぐ、所属部署で新事業の企画化に着手した。3カ月間の活動を通じて、利益を生みつつ社会課題を解決する事業を生み出すためのコツをつかんだと言う。
「他社と協創し、一緒に労力をかけ、利益もシェアする。そうすればパイが増え、他社も日立も成長できる。さらに、他社の価値観も取り込むことで、日立だけでは考えつかなかったアイデアが生まれることもある。自分だけでビジネスアイデアの創出に取り組んでいたら、先入観や、いかに日立の技術を活かすかという従来のビジネスの思考に縛られたままでした。日立だけで何でもやる“自前主義”の考え方から、わたし自身が脱却し、協創することの本質を理解することができました」(多田)
部署と職種の違いを超えて、チームを組む意義
ミーティングのたびにメンバーの意見をスライドにまとめ上げるとともに、議論を後回しにしていた話題を掘り起こし、自分なりの仮説をメンバーに投げかけ、より深い議論を生むきっかけづくりをした、多田。
暴走しがちな議論にブレーキをかけ、次回のミーティングの設定や中間発表、最終プレゼンまでにそれぞれが行うべき作業の割り振りなど、冷静かつ計画性を持って活動の進行を支えた、小幡。
最後まで難航した事業のマネタイズの部分を整理するなど、ビジネスアイデアの全体像を描き、個々が強い思いを込めて持ち寄ったアイデアをつなげ、ロジックを組み立てていった、出口。
丹念なリサーチでトピックを深掘りし、ビジネスアイデアに説得力を持たせる貢献を果たすとともに、メンバー間で意見が衝突するたびに調整役を買って出ることで、活発に意見をぶつけ合える土壌を作った、横山。
それぞれによるメンバー評だ。
部署も職種も異なる4人によるチーム活動における工夫や面白さを彼らは次のように語る。
「海外業務での経験から、どんな意見であっても、否定せずにまずは受け止めて話を聞くように努めました。めざすゴールは一緒と感じていたので、みんなの思いを受け止めてアイデアをまとめていくプロセスを学ぶことができました」(横山)
「年齢の上下を意識せず、しり込みすることなくフラットに意見を言い合うことができたのは、このチームならではだと思います」(小幡)
「1つのシステムをしっかり作り込むという仕事柄、業務では意見が発散しないように努める傾向がありました。職種が違えば意見も異なる、しかしそのなかから素晴らしいアイデアを生み出すことができるという、貴重な経験ができました」(出口)
「エンジニアは技術を、営業はコストを重視するといったように、キャリアが違えば価値観も異なることを改めて実感しましたし、日立のなかにこんなに面白い社員がいるのだと発見できたのも大きな収穫でした」(多田)
このワークショップで企画立案したビジネスアイデアを、彼らはどう育てていくのか。最後に、多田がこう明かしてくれた。
「これからはよりいっそう、環境問題をはじめとする社会課題への取り組みが企業に求められます。社会的なコンセンサスをとりながら、社会をより豊かにするアイデアの事業化に向け、今後も取り組んでいけたらと考えています」
キャリアも価値観も異なる仲間と出会い、ビジネスアイデアの創出に挑んだ社員たち。ステークホルダーと協創しながら、社会課題起点でイノベーションを起こすという本業だけでは味わえない刺激的な体験をしたことで、それぞれがイノベーションマインドを育んだ3カ月だった。
小幡未央(こばた・みお)
株式会社 日立製作所 金融システム営業統括本部 金融営業第三本部 企画員
保険会社担当の営業としてシステム構築案件を中心に提案している。
出口興亮(いでぐち・こうすけ)
株式会社 日立製作所 社会システム事業部 交通情報システム本部 企画員
システムエンジニアとして鉄道会社向けのソリューション開発に従事している。
多田克己(ただ・かつみ)
株式会社 日立製作所 IoT・クラウドサービス事業部 働き方改革ソリューション本部 技師(主任)
エンジニアとして金融分野のシステム開発を経験したのち、働き方改革関連の事業創出に携わっている。
横山高士(よこやま・たかし)
日立チャネルソリューションズ株式会社 品質保証本部 コトづくり品質保証部 技師(主任)
ATM関連のソフトウェアの品質保証業務に携わっている。
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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