一橋ビジネススクール教授 楠木建氏/法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授 米倉誠一郎氏
気心の知れたお二人による、2022年新春対談。話はレノン&マッカートニーからカトマンズの図書館へとライク・ア・ローリングストーンしていきます。

「第1回:ビートルズというイノベーション。」はこちら>
「第2回:世界共通語。」はこちら>
「第3回:バルマーの部下が見つけた宝物。」
「第4回:イノベーターのオーラ。」はこちら>
「第5回:クラシック界のイノベーター。」はこちら>

※本記事は、2021年10月28日時点で書かれた内容となっています。

楠木
米倉さんはジョン・レノンとポール・マッカートニー、どちらがより好きかと聞かれたら、どっちなんですか。

米倉
僕はベースだからポール・マッカートニーですけど、やっぱり強烈なビートルズの根幹を成していたのはジョン・レノンだと思います。

楠木
でも、この二人が揃ってこそのイノベーションということは、間違いないでしょう。ジョン・レノンだけだったら、ビートルズの音楽はここまで支持を得ることはなかっただろうし、ポール・マッカートニーだけでも、同じことが言えますよね。

米倉
二人の力が必要だった、それは間違いないでしょう。『パワー・オブ・トゥー』(※)という本も出ていますけどね。異質な二人の才能がイノベーションを起こすというのは、例えばマイクロソフトもビル・ゲイツとスティーブ・バルマーがいなければ今日のようにはなっていないはずです。

※『POWERS OF TWO二人で一人の天才』:ジョシュア・ウルフ・シェンク著

画像1: 2022年新春放談 “音楽とイノベーション”-その3
バルマーの部下が見つけた宝物。

楠木
ビル・ゲイツとスティーブ・バルマーは、ハーバード大学で同じ寮に暮らしていたそうですね。2人は何から何まで対照的。ビル・ゲイツがマイクロソフトをはじめるときに、一緒にやらないかとスティーブ・バルマーに声をかけた。でも、スティーブ・バルマーは断ります。ビル・ゲイツに、「何で断るんだ」と聞かれると、「よくわからないけど、君と一緒にいると必ず不幸になる気がする」とスティーブ・バルマーが言ったそうです。結局は一緒にやることになるわけですが、これは僕のスキな話なんですけどね。

米倉
いい話だね(笑)。マイクロソフトのある人から聞いた話だと、二人が会社に来ると、とにかく社内に緊張が走るそうです。今は、スティーブ・バルマーは絶対に会社に来ないけれども、ビル・ゲイツはしょっちゅう来るそうです。ただし、研究所だけ。彼は本当にテック・オタクなんですね。スティーブ・バルマーは辞めた人間は会社に来てはいけない、という主義らしい。一方、ビルは新しい技術やソフトに子どものように興味があるらしいよ。

楠木
アメリカ企業と日本企業を対比して、アメリカの企業のマネージャーやリーダーは、合理的で分析的で冷静。それに対して日本は、おじさんが怒鳴り散らしているというイメージがあったりしますけど、実はどこの国も変わりませんよね。

米倉
うん、そう変わらないと思う、「営業は根性だ!」というところは。30代でマイクロソフトの国際部門のマネージャーになったジョン・ウッドという人がいるんです。『マイクロソフトでは出会えなかった天職』という本を書いた人なのですが、彼はスティーブ・バルマーの下で働いていたとき、毎日があまりにもハードだった。彼いわく、スティーブは本当に大声で怒鳴ったらしい。そこで休暇のときくらいはネパールとかピースフルなところに出かけたくなり、実際に出かけたそうなんです。

カトマンズでのトレッキングでたまたま訪れたネパールの山奥の小学校で、図書館に案内された。女の子が鍵を開けた部屋の中には、ダニエル・スティールの恋愛小説、ウンベルト・エーコの分厚いイタリア語の小説、モンゴル語のガイドブックといったバックパッカーが置いていった、読むことのできない数冊の本が大切にしまってあった。

これを見たジョン・ウッドはカトマンズに戻ると、インターネットカフェからアメリカの友人に、「とにかく本を送って欲しい」「知り合いにも声をかけて、本を送って欲しい」とメールを出します。旅の途中で家に電話すると、父親が「送られてきた本で家中があふれかえっているぞ」。ジョン・ウッドはこの経験から、途上国に本を送り、図書館をつくる運動『ルーム・トゥ・リード』(※)という途上国の教育を支援するNGOを立ち上げ、世界中に図書館をつくり、学校をつくっています。

※ ルーム・トゥ・リード:ジョン・ウッドにより2000年に創設された、開発途上国の子どもの人生を、読み書きの習得と、男女平等の教育機会から変えていくことをめざすNGO。

楠木
イイ話だなあ。ずいぶん詳しいですね。

米倉
一応ソーシャル・ピープルだからね。(笑)なぜ詳しいかというと、『ルーム・トゥ・リード』のチャリティに招待されてジョン・ウッドと会ったことがあるんだよ。(ドヤ顔)本人の口から、スティーブ・バルマーの下で働いていたころのハードワークとか緊張感、そこから解放されたくてカトマンズに出かけ、そこで人生が変わったという話を聞いたんだ。(第4回へつづく)

「第4回:イノベーターのオーラ。」はこちら>

画像2: 2022年新春放談 “音楽とイノベーション”-その3
バルマーの部下が見つけた宝物。

米倉 誠一郎(よねくら・せいいちろう)
法政大学大学院 イノベーション・マネジメント研究科 教授、一橋大学 名誉教授。
1953年東京生まれ。一橋大学社会学部および経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学Ph.D.(歴史学)。2008年より2012年まで同センター長。2012年よりプレトリア大学ビジネススクール(GIBS)日本研究センター所長を兼務。2017年より一橋大学名誉教授・『一橋ビジネスレビュー』編集長、法政大学大学院教授。2020年よりソーシャル・イノベーション・スクール(CR-SIS)学長。

画像3: 2022年新春放談 “音楽とイノベーション”-その3
バルマーの部下が見つけた宝物。

楠木 建(くすのき・けん)
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

お申し込みはこちらまで
https://lounge.dmm.com/detail/2069/

ご参加をお待ちしております。

楠木健の頭の中

シリーズ紹介

[特集]ポストコロナの社会とビジネス

破壊の先にある創造へ――。「グレート・リセット」後に求められる社会とビジネスのあり方を、各界の有識者の言葉から探ります。
※グレート・リセット:2021年夏に開催される予定の次回世界経済フォーラム年次総会、通称ダボス会議におけるテーマ

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

八尋俊英日立コンサルティング社長を導き手とし、新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

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