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日立製作所 研究開発グループ 森正勝/日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal / シナモンAI 取締役会長 加治慶光
日立の研究開発グループは今年、研究者やデザイナーとの対話を通じ「問い」について考えるウェビナーをスタートさせた。2021年8月5日に配信された第3回の対談テーマは「社会システムを変えていくDX(デジタルトランスフォーメーション)とはいかなるものか?」。日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principalを務め、AI関連のスタートアップの会長でもある加治慶光を迎え、研究開発グループの森正勝との対談を3回にわたってお送りする。

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「第1回:社会課題の解決に、DXはどう関係するのか?」
「第2回:なぜ「越境して接続する場」が重要なのか?」はこちら>
「第3回:社会イノベーション事業における、DXの役割とは?」はこちら>

社会課題とDXの密接な関係。キーワードは「VUCA」

丸山
対談のナビゲーターを務めさせていただく、日立製作所 研究開発グループの丸山幸伸です。前回の対談では、社会イノベーション事業の核となるビジョンをどうつくり、どう実行していけばよいのかをディスカッションしました。今回のテーマは、「社会システムを変えていくDXとはいかなるものか?」。映画会社の宣伝部長や自動車メーカーのマーケティング責任者、内閣官房官邸国際広報室の参事官など幅広い分野でさまざまな役職を歴任し、現在は日立のLumada Innovation Hub Senior Principalを務める加治慶光を迎え、研究開発グループの森正勝との対談をお送りします。

加治
本日はよろしくお願いします。ご紹介いただいたLumada Innovation Hubは、イノベーションの創出をめざしてお客さまやパートナーと日立をつなぎ、知恵を結集する「協創活動のハブ」空間として今年4月にオープンしました。わたしは、その運営やコンサルティングサービスの提供、人財育成を担っています。また、日立での仕事と並行して、人工知能に関連するプロダクトやコンサルティング開発を提供するシナモンAIというスタートアップの経営にも携わっているほか、鎌倉市のスマートシティ推進参与としてSDGsや地方創生、技術革新などに関する政策提言を行い、戦略的連携の推進に関わっています。


日立製作所 研究開発グループの森正勝です。本日は、DXをいかに社会課題につなげていくかという視点で、経験豊富な加治さんからいろいろ教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

画像: 左から、森正勝、ナビゲーターの丸山幸伸、加治慶光。対談は東京駅に隣接するLumada Innovation Hub Tokyoで行われた。

左から、森正勝、ナビゲーターの丸山幸伸、加治慶光。対談は東京駅に隣接するLumada Innovation Hub Tokyoで行われた。

丸山
では1つめのトピックに参ります。「社会課題の解決に、DXはどう関係するのか?」。まずは加治さんのお考えをお聞かせください。

加治
DXと社会課題は非常に密接に関わっており、この2つを結び付けるキーワードが「VUCA(※)」です。突如現れたスタートアップによる既存産業の破壊、だれもが予想だにしない政治的な変化、深刻な気候変動による大災害の発生、そしてCOVID-19の世界的な感染拡大。これらはすべてVUCAの象徴と言えます。

※ Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧模糊)の頭文字を取った、先行きの見えない社会情勢を示すビジネス用語。1990年代に軍事用語としてアメリカで生まれた。

画像: 社会課題とDXの密接な関係。キーワードは「VUCA」

ところで、SDGsの前に「MDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)」があったのをご存じでしょうか。2000年から2015年までに人類が達成すべき8つの目標を掲げたものですが、SDGsとの最大の違いは「現在実現できること」を前提としたフォアキャスティング型のアプローチだったことです。

これに対してSDGsは「未来の理想を実現するために何をすべきか」を考えるバックキャスティング型の発想です。当然、現在の段階で人類ができることと、SDGsで掲げられた「理想」との間にはギャップが生じます。このギャップこそがイノベーションを大量生産するしくみであり、SDGsに掲げられた17のゴールは、VUCAの時代において世界がめざしていくべき方向を示したビジネスアイデアのリストと言えます。そして、そもそもイノベーションとは何かを考えたときに、我々の前にヒントとして現れるのがDXなのです。

理想と現実のギャップを埋める、デジタルの力


我々もかつては、めざすべきゴールがすでに見えており、そこにキャッチアップしていくというロードマップ型の研究を進めてきました。ところが近年は社会が複雑化し、そもそも何が問題なのかわからないことが多い。2015年から取り組んでいるお客さまとの「協創」では、まずは問題を見つけるところからスタートします。まさにバックキャスティング型のアプローチで、お客さまとともにビジョンをつくるのです。

画像: 理想と現実のギャップを埋める、デジタルの力

SDGsの場合、「地球を救う」がビジョンでしょう。近年、日本では「100年に一度」の大災害が毎年発生するという確率論的におかしなことが起きています。これはまさに気候変動であり、国の違いを超えて地球レベルで取り組んでいくべき社会課題です。

では、それに対して企業はどうアプローチしていけばよいのか。先ほど、理想と現実とのギャップというお話がありました。ギャップが生じるのは現状の社会のしくみに無理があるからです。気候変動の問題に例えると、資源循環の新たなスキームを構築するなどの解決手段が考えられます。そこで活躍するのがAIです。いろいろなデータをAIで分析すれば、生活者のさまざまなインサイトが見えてくる。それをもとに、生活や仕事の仕方を変えるしくみを生み出せれば、理想と現実のギャップを埋められるはず。それをデジタルの力でサポートするのが、DXの神髄なのではないでしょうか。(第2回へつづく)

「第2回:なぜ『越境して接続する場」が重要なのか?』はこちら>

画像1: 問いからはじめるイノベーション-Vol.3 社会のしくみを変えるDXとは。
【その1】社会課題の解決に、DXはどう関係するのか?

加治 慶光(かじ よしみつ)
日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 取締役会長、 鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

画像2: 問いからはじめるイノベーション-Vol.3 社会のしくみを変えるDXとは。
【その1】社会課題の解決に、DXはどう関係するのか?

森 正勝(もり まさかつ)
日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 統括本部長。1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめたのち、日立ヨーロッパ社CTO 兼欧州R&Dセンタ長を経て、2020年より現職。博士(情報工学)。

画像3: 問いからはじめるイノベーション-Vol.3 社会のしくみを変えるDXとは。
【その1】社会課題の解決に、DXはどう関係するのか?

ナビゲーター 丸山幸伸(まるやま ゆきのぶ)
日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーションセンタ 主管デザイン長。日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ㈱に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人材教育にも従事。2020年より現職。

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