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次世代の消費スタイルとして、日本でも定着しつつあるシェアリングエコノミー。市場では宿泊場所やクルマ、個人のスキルなどをシェアするサービスが多数提供されているが、シェアウィングが提供するのは、各地に古くから存在する「お寺」の場と、そこで生まれる体験である。「お寺ステイ(OTERA STAY)」の概要を、代表取締役社長の佐藤 真衣氏に聞いた。

グローバル時代の宿坊をプロデュース

日本のお寺、神社には古くから「宿坊」と呼ばれる宿泊施設が存在する。元来は僧侶や氏子、参拝者のための施設だったが、近年は一般観光客を受け入れ、宿泊や朝の勤行(ごんぎょう)、座禅、写経などの体験を提供するところも増えている。一方、それらの体験を、より幅広い利用者に向けて提供するサービスが「お寺ステイ」だ。伝統的な宿坊と「お寺ステイ」、双方の違いはどのようなところにあるのだろうか。

「元来の宿坊は修行や参拝で訪れる団体向けであることが多く、快適さや楽しさを提供する場ではありません。一般的なイメージも、精進料理を食べて修行体験するといったもので、利用のハードルは高いと思います。お寺ステイは、そうした宿坊の固定概念を変えて、誰でも気軽に、楽しく泊まれるものをめざしています。私たちは、一連の体験をプロデュースすることで、お寺が親しみやすく身近な存在になるといいな、と考えています」

画像: 株式会社シェアウィング 代表取締役社長の佐藤 真衣氏(※取材はリモートで実施)

株式会社シェアウィング 代表取締役社長の佐藤 真衣氏(※取材はリモートで実施)

「現在の日本のお寺は、少子高齢化による後継者不足や檀家の減少に苦しんでいます。企業経営ほどインパクトがすぐに現れる世界ではありませんが、状況はゆるやかに悪化しており、既に廃寺寸前に追い込まれているお寺も少なくありません。この状況を何とかしたいという想いが、サービス立ち上げの背景にありました」

「また元来、お寺は教育や福祉、コミュニケーションの場であり、さまざまな新しいことが生まれる起点でした。文化や医術など、お寺が拠点となることで広まったものもたくさんあります。人と情報が出合う“地域のハブ”だったお寺が、歴史の流れのなかでどんどん廃れていく。それは地域の衰退と深く関わっており、何か私にできることがないか、と感じたのです」

“お寺が持つ場の力は今も生きている”と佐藤氏は言う。宿泊体験の提供を通じてその力を広くシェアする。心身とも健康になれる時間と空間をつくり、世界に向けて発信する。そこにお寺ステイの存在意義がある。

将来を見据えた無人の宿坊運営にも着手

2020年10月現在、シェアウィングは6つの宿泊施設(Temple Hotel)の運営に携わっている。

事業の特徴は、お寺の立地や規模に合わせて、ターゲットや、提供するサービスを柔軟に変えている点だ。例えば、第1号施設である飛騨高山の高山善光寺は、外国人観光客が多いロケーションのため外国人をメインターゲットに設定した。宿泊だけでなく、着物の着付け体験や精進料理など、日本の文化を体験できる魅力的なサービスを充実させ、海外に向けて発信している。現在まで、利用者の95%が外国人だという。

画像: Temple Hotel 高山善光寺

Temple Hotel 高山善光寺

「サービス開始の経緯もさまざまです。高山善光寺は『住職不在、檀家ゼロ』という困難な状況だったため、当社のスタッフが常駐する形でプロデュースしました。一方、身延山の端場坊、武井坊、熊野古道の近くにある大泰寺はもともと宿坊として運営されていたので、ブランディングや集客を当社が行い、宿泊者の対応はお寺が行う形式で提供しています。また、群馬県桐生市にある観音院と東京都港区にある正伝寺は、令和元年に新しく宿坊を立ち上げました」

なかでも面白いのが正伝寺だ。完全無人で宿坊を運営しているため、清算はクレジットカードで事前に済ませ、入退室は電子キーを使用。基本は宿泊のみで、勤行などの体験は、宿泊客ごとに希望があれば受け付けている。

「正伝寺は将来の宿坊の運営方法を模索する一つのモデルケースと位置付けています。全国には約77,000のお寺がありますが、今後は後継者不足など、住職不在のお寺が増えて宿坊の運営が困難になるお寺が多く出るでしょう。正伝寺のモデルがうまくいけば、地方のお寺存続の手助けができるかもしれません。実際、サービス開始以降、会社員の出張から家族旅行まで、さまざまな用途で利用いただいており、手応えを感じています」

縁をつないでくれたお寺に恩返しを

お寺ステイは宿泊で完結するわけではない。滞在中の体験や、そこから得られる学びを観光資源として、地域活性化につなげることをめざしている。そのために、お寺が直面する課題の抽出から解決方法の検討、ときには資金調達の支援までを行うのがシェアウィングの役目だ。

「もちろん、檀家さんが多くいるお寺もありますが、そうでないお寺も増えてきています。私たちは、お寺ステイ事業を通じて、全国のお寺を元気づけ、地域を活性化する役目を果たしていきたい。それによって、社会に“恩返し”をしていきたいですね」

画像: お寺という「場」を起点に、人の健康と幸せに貢献したい
【第1回】地域社会の“ハブ”であるお寺の活性化をめざす

佐藤 真衣

埼玉県浦和市生まれ。早稲田大学スポーツ科学科卒。学生時代のインターンシップを通じてベンチャースピリットに共感し、独立系ベンチャーキャピタルへ入社。ライフスタイル分野の投資先発掘、育成を担当。アロマ空間演出メーカーを経て、2006年、26歳でスパプランニングを行う(有)ホットマークを創業。2016年、シェアウィング株式会社を共同代表取締役として創業。お寺での体験を核としたシェアリングエコノミー事業を展開している。

「第2回:好機をつかむには、『勝てる場所で勝負する』」はこちら>

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