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株式会社ポピンズホールディングス 代表取締役会長/日本女性エグゼクティブ協会 代表 中村紀子氏
1985年に、女性管理職のネットワーク「JAFE(ジャフィ)」を立ち上げた中村紀子氏。そこで見えてきたキャリア女性の実態が、中村氏を起業へと駆り立てた。そして1987年、現在の株式会社ポピンズホールディングス(以下、ポピンズ)創業。同社は現在に至るまで30年以上にわたり、いまだ赤字知らずという驚異の持続的成長を実現している。

「第1回:300人の女性管理職を集めたフリーアナウンサー」はこちら>

1980年代、管理職になるために女性が諦めたこと

――中村さんがJAFE(日本女性エグゼクティブ協会)を設立なさった1985年は、ちょうど男女雇用機会均等法が制定された年です。世の中の反応はいかがでしたか。

中村
ものすごく話題になりまして、設立して間もない頃に慶應ビジネススクールの髙木晴夫教授(当時)から「ぜひJAFEを研究対象にさせてほしい」というお話をいただきました。髙木教授は以前から、アメリカのウォールストリートで働く女性たちと日本の女性管理職との比較研究をしたかったそうなのですが、その材料がなかった。そこにJAFEができたので、会員を対象にアンケート調査をしたいとのことでした。興味があったので快諾しました。

すると、こんな調査結果が出ました。会員の中で一番上位の役職は部長で、ほとんどが課長や係長。平均年齢は42歳。そして既婚者は全体の35%だけで、そのうち子どもがいる人はさらに少数派。

その結果を見て、わたくしは「ん?」と思いました。要するに当時、ほとんどの女性は結婚や出産を諦めないと管理職になれなかったということです。でも男性は、結婚して子どもが生まれても当たり前に管理職になっていく。「これっておかしくない?」と。

画像: 1980年代、管理職になるために女性が諦めたこと

そう思ったときに、第1回でお話ししたわたくし自身の体験、3歳の娘の預け先に苦労したことがフラッシュバックしました。そして思い出したのが、イギリスにおける「ナニー」という職業、教育と保育を行う子育てのプロフェッショナルの存在です。

ナニーを育成・派遣することで、JAFE会員のような上昇志向の高い女性を子育ての面からサポートしたい。そう考えて、ジャフィサービス株式会社という名で事業をスタートしました。それが現在のポピンズです。

福祉ではなく、サービス業としての子育て支援を

――社会福祉法人ではなく、株式会社という形で起業したのはなぜですか。

中村
保育サービスを行っていた社会福祉法人の多くは、サービスのクオリティを高める努力をしていませんでした。当時の厚生省から決まった補助金を支給されていたので、関係機関から子どもが紹介されるのをただ待っているだけだったのです。

さらに、働く女性の子育てニーズに、国の福祉は寄り添っていませんでした。週3日間だけ子どもを預けて働きたいという方もいらっしゃれば、幼稚園・小学校受験の指導をベビーシッターに頼みたいという声もある。こうした多様なニーズに応えるサービスが必要だと、わたくしは感じていました。

顧客満足度が高い子育て支援をするためには、保育は福祉ではなくサービス業であらねばならない。株式会社以外の選択肢は一切考えませんでした。

創業以来、一度も赤字決算なし。その要因は、一にも二にも社員教育

――御社は創業以来30年以上、ずっと右肩上がりの成長を続けていらっしゃいます。

中村
ええ、ありがたいことに、一度も赤字決算をしたことがないのです。例えばナニーサービスに関しては、1993年に警視庁と初めて法人契約を交わしてから年々お客さまが増え続け、今では300以上の官庁や企業にご提供しています。

画像: 創業以来、一度も赤字決算なし。その要因は、一にも二にも社員教育

――いま振り返ってみて、成長し続けることができた要因は何だったと思われますか。

中村
それはもちろん、一にも二にも社員教育です。高いサービスクオリティを保つために、いかに価値観の共有を図るかを最も重視しています。長野県の蓼科にある当社の研修センターでの2泊3日の研修をはじめ、ナニー育成の高等職業教育期間であるイギリスのノーランドカレッジへの派遣など、とにかく社員教育には力を入れています。単に教育・研修の場を用意するだけでなく、何のためのマナー教育なのか、何のためのクレーム対応研修なのかまで社員一人ひとりにしっかりと理解・浸透させています。

例えば、入社して最初に目にする「プロ意識を高める8つの条件」というものがあります。これは、先ほどお話しした慶應ビジネススクールの髙木教授がJAFE会員に対して行ったアンケート調査の中の「たくさんいる女性の中でなぜ自分が管理職になれたのか」という質問への回答をまとめて8カ条にしたものです。言い換えると、仕事で成功する女性に共通の生き方。「目の前の仕事にベストを尽くす」「職場の協調関係を築け」などの言葉を、総務、人事、保育士など職種に関係なくすべての新入社員と共有しています。

お客さまから「子どもを預けるならポピンズでなくちゃ」というありがたいお言葉をいただけるのも、この社員教育の積み重ねによるものだと思います。

突如増えた競合他社。ポピンズの打ち手は、「第三者による評価」

中村
もう1つ、右肩上がりの理由があります。1999年に保育・介護サービスとしては国内で初めて認証を取得したISO9001(品質マネジメントシステム)。これも、今の成長につながっています。

――ISO9001と聞くと製造業のイメージが強いです。なぜ、保育事業の御社が取得しようと考えたのですか。

中村
ベビーシッター事業に、ベビー用品や人材派遣などの東証一部上場企業が続々参入して価格競争を仕掛けてきたからです。ただでさえ知名度のある企業が格安なサービスを提供し始めたので、それまで当社のサービスを高く評価してくださっていたお客さまも多くがそちらに流れていってしまいました。「いや、ポピンズのサービスはすごくいいんですよ」とアピールしたいところでしたが、自画自賛してもだれも認めてくれるはずがありません。

そこで、国際的な標準規格であるISO9001認証を取得することでポピンズのサービスが優れているということを第三者による評価で示したほうが、お客さまに対する説得力があると判断しました。

突然競合が増えるという危機に直面しても成長を続けることができたのは、そういった努力の結果です。ただ、残念なことにそれが報われないこともありました。

2008年、当社はある大学のキャンパス内に新設された保育所の運営委託公募に応募し、見事落札して運営を受託しました。その5年後にまた入札があったのですが、審査基準は価格だけ。落札したのは、いわゆる「1円入札」を仕掛けた企業でした。それまで5年間運営を担ってきたポピンズの実績はまったく考慮されず、ISO認証によってクオリティを維持してきた努力も評価されない。あのときは本当にがっかりしました。でも、それが保育の世界だったのです。

画像: 働く女性を支える30年の保育革命
【第2回】ポピンズが右肩上がりを続ける理由

中村紀子(なかむらのりこ)

テレビ朝日アナウンサーを経て、1985年にJAFE(日本女性エグゼクティブ協会)を設立。 1987年、株式会社ポピンズホールディングスの前身・ジャフィサービス株式会社を設立。現在、同社代表取締役会長。公益社団法人全国ベビーシッター協会副会長、厚生労働省女性の活躍推進協議会委員、2017 世界女性サミット(GSW)東京大会実行委員長などを歴任。第1回日本サービス大賞厚生労働大臣賞(2016年)、日経DUALベビーシッターランキング1位(2019年)など受賞多数。

「第3回:業界を切り拓き、規制を打ち破る原動力」はこちら>

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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