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毎週月曜日に配信されている、楠木建の「EFOビジネスレビュー」。その中で載せきれなかった話をご紹介する、アウトテイク。これが、めちゃめちゃ面白いです。

僕が小学校4年生まで暮らした南アフリカでは、年に1回、日本人会(日本人駐在員のコミュニティ)が行う、みんながドレスアップして出席するディナーパーティーがありました。

当時、南極越冬隊の人が南極へ行く前に、最後の補給のために南アフリカのケープタウンに立ち寄る際、経済活動の前線でがんばっているヨハネスブルグの日本人にもお土産を持ってきてくれていました。それは何かというと、前の年の「紅白歌合戦」と「男はつらいよ」の16ミリフィルムです。毎年それが届くと、日本人会はホテルのボールルームで、ディナーパーティーを開催し、「紅白歌合戦」と「男はつらいよ」の上映会を行います。日本から遠く離れたヨハネスブルグで生活する日本人コミュニティにとっては、それが一番の楽しみでした。

日本人会の中には、南アフリカへ来て10年間、1回も日本に帰っていません、という家族もいました。上映会で、「紅白歌合戦」で美空ひばりが歌う姿、そして「男はつらいよ」の寅さんの姿を観ると、日本が恋しい大人たちがみんな泣くんです。日本を知らずにアフリカで育った僕は、そういう大人を見ていて、思うところがありました。大変な苦労をしてまでこんな遠いところに来て働く日本人というのは、なんて外向きな、アグレッシブな民族なんだと思っていたんですね。

その頃、南アフリカの「グローバル二等兵」たちが集まったときに使われていたジョークを紹介します。

当時の日本人は、知らない土地での商売ということもあって、足元を見られたり、うまいことやられちゃうわけなんです。「なんか日本人というのは商売が甘いなぁ。やっぱり、商売は中国人じゃないか。華僑は、もう昔から自分たちの力で切り拓いてきた人たちだから、日本人は到底かなわない」と。それを聞いた華僑の人はこう言います。「いや、そうは言うけれども、華僑だってユダヤ商人には負けるよ、なにせ経験が違うから」と。それを聞いたユダヤ商人は、「いや、そうは言うけどユダヤ商人も、インドの印僑にはまるでかないません」と。それを聞いた印僑の人たちは、「いや、それでも唯一われわれがまるで歯が立たない商売人がいて、それはレバシリだ。レバノン、シリアの人たちは、歴史的にも古い商業経済の地で鍛えられてきた人たちなので、彼らこそ世界最強だ」と。そしてレバシリの人に、「あなたたちが世界最強だそうですね」と聞くと、「その通り。しかし、われわれにもたったひとつ、勝てない民族がある。それは、束になったときの日本人だ」っていう落ちです。

ようするに、敗戦国日本から遠く離れた異国に徒手空拳で出て行って、なんとか細々と商売をしている。でもわれわれは束になったときは強いんだぞっていう話なんです。これは幼心にもうまくできてるなって思いながら、聞いていました。当時の日本人グローバル二等兵の心情を、よく表していると思います。

画像: 世界最強の商売人。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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