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ITを使い、ニーズとリソースのマッチングを図る「シェアリング・エコノミー」。現在は、この考え方が、世の中の課題を解決する際の1つのカギになっている。若きベンチャー企業家・工藤慎一氏率いるecbo(エクボ)が展開する「ecbo cloak」は、そんなシェアリング・エコノミーに基づく荷物一時預かりサービスだ。仕組み、展開の仕方ともに、独自性の高いサービスとして注目されている。はじめに、サービスの概要について聞いた。

ある旅行者との出会いがきっかけだった

人が移動する時、そこには荷物の移動をともなうケースがほとんどだ。旅行や出張では大小のスーツケースが必需品になるし、普段の買い物でもかさばる荷物を抱えることがある。そんな時「重い荷物をしばらく預けたい」と感じるが、コインロッカーはすべて使用中。荷物を気軽に預かってくれる場所や人も、街中でそう簡単に見つけることはできない。そんな状況を経験したことがある人は少なくないだろう。

必要は発明の母というが、「ecbo cloak」のビジネスモデルは、まさにこうした状況の解決をめざすもの。アイデアは、CEO 代表取締役社長・工藤慎一氏のこんな体験から生まれた。

「ある日、渋谷で外国人旅行者に声をかけられました。聞けば、『大型スーツケースを預けたいんだが、入るコインロッカーが見つからないんだ』と。以前から、街中のコインロッカーはなかなか空きがないことに気付いていたので、探すのを手伝うことにしました。ところが、駅周辺を40分ほどうろうろしたものの、結局見つけられず、その時は申し訳ない気持ちのまま別れてしまったんです。後で調べてみると、当時の渋谷にはコインロッカーが1,400個程度しかなく、そのうちスーツケースが入る大型のものは約90個しかないと。少なさに驚くと同時に、ここにビジネスの種があるのでは、と感じました」

画像: ある旅行者との出会いがきっかけだった

「ecbo cloak」がコインロッカー難民を救う

実は、このエピソードには、少しだけそれ以前の経緯がある。

当時、工藤氏は既に「モノの所有を、自由に」をスローガンとするベンチャー企業「ecbo」のCEOだった。ちなみに、社名のecboには「extra cloud box」の略であると同時に、人を幸せ(笑顔)にする=えくぼという意味も込められているという。同社は元々、オンデマンドで利用できる荷物の長期保管サービス「ecbo storage」を核としてスタートした企業。ただ、このサービスは、物理的な倉庫を持つことが前提となるため、コストやオペレーションの確立に多くの資金と時間が必要だったという。そこで工藤氏は、その後どのようにサービス展開をしていくか模索していたが、渋谷の件は、ちょうどそんな時に遭遇したものだった。

「渋谷に限らず、日本にはコインロッカーというインフラが足りていない場所が多いんです。連休など、人の移動が重なる時期はどこも満杯。これでは、インバウンドで外国人旅行者が増えても、荷物をすべて、常に持ち歩かなければいけない状況になってしまう」

コインロッカーも、駅などの施設の一時預かり所も、その性質上、ある程度広いスペースが必要になるため、そう簡単には新設できない事情がある。それなら、駅付近のカフェなど、既にある店舗や施設に協力してもらい、空きスペースを使って荷物を一時預かりするサービスを新たにつくれば、“コインロッカー難民”を減らすことができるのでは――。このひらめきが、そもそもの始まりだった。

「渋谷でコインロッカーを探したのが2016年の夏。即、リサーチと開発に着手し、10月にはテストサイトをつくって、2017年の1月にはサービスインですから、早かったほうだと思います」

当初、約100からスタートした荷物を預けられる店舗・施設は、現在は全国約1,000箇所に拡大。東京、大阪、京都、福岡などの大都市のほか、沖縄、北海道、愛媛などでもサービスを開始している。

画像: 荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」 「荷物を預けたい人」と「預かるスペースを持つ店舗・施設」をITでマッチングする

荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」
「荷物を預けたい人」と「預かるスペースを持つ店舗・施設」をITでマッチングする

利用者の7割が外国人 預けられる荷物は多様

発案からサービス化、成長に至るスピード感は、まさにベンチャー企業ならではといえる。なぜecbo cloakは、ここまで急速に市場に受け入れられたのか。工藤氏は、その理由は「利便性」「安全・安心」「付加価値」の3つに集約できると分析する。

1つ目の利便性は、「預けたい人」と「預かることができる場所」をITで結ぶという、サービスの仕組み自体に起因するものだ。利用者は、旅行や出張に出かける前にウェブサイトにて荷物を預けたい店舗・施設を検索・選択し、日時と荷物の個数を入力するだけでOK。予約制なので、現地に着いてからコインロッカー探しに苦労する必要はなくなる。旅行中の貴重な時間をムダにせずに済むようになるほか、その後の旅程を「手荷物がない状態」を想定して組むことも可能になる。決済も予約時にクレジットカードで済ませるため、店頭で小銭を用意する必要もない。

「現在、ユーザーの7割は外国人。まさに、私が渋谷で会ったようなツーリストのニーズが浮き彫りになったかたちといえます。荷物の種類はさまざまで、大型スーツケース以外にも、折り畳み自転車、スキー板やスノーボード、なかにはサーフボードを預けたお客さまもいました。このように、店舗・施設側のスペースさえ許せば、コインロッカーに入らない荷物を預けられるのも、ecbo cloakが便利と感じていただけているポイントのようです」

一方、日本人ユーザーでは、旅行はもちろん、仕事の出張や就職活動で荷物を一時的に預けたいというニーズや、育児中の女性がベビーカーを一時的に預けるといった普段使いのニーズが目立つという。

コミュニティづくりで安全・安心を担保

2つ目が安全・安心だ。自分でカギを保有するコインロッカーと比べた場合、ecbo cloakにセキュリティ面の不安を感じる人がいるかもしれない。預ける人にとっては、預け先の店舗・施設は信頼できる場所なのか。預かる側にとっては、怪しい荷物を放置されるといったトラブルはないのか。そうしたネガティブ要素は「サービスイン前の段階で極力払拭した」と工藤氏は説明する。

「お手本にしたのが、私が大学時代からインターンとして働いていたUberの仕組みです。そこでは、シェアリング・エコノミーには利用者と提供者、双方の信頼関係で成り立つコミュニティが不可欠だということを学びました。そこでecbo cloakの利用者には、登録段階で氏名、電話番号、クレジットカードなどの個人情報を要求します。また店舗や施設にも、必ず人の目の届くところで荷物を預かってもらえるか、衛生面の不備はないかなど、独自の厳しい審査基準でスクリーニングを行うようにしています」

加えて、荷物を万一破損・汚損してしまった場合などに備え、大手損保会社とのコラボレーションによる独自の保険も用意。サービスの安全・安心を徹底的に追求している。

「荷物を預けたまま取りにこないケースは今のところありません。予約時に決済されるので、料金未払いもない。さらに今後は、利用後に相互評価するシステムも実装し、問題を起こしたユーザーや、店舗・施設が自然に淘汰される仕組みをつくっていく予定です。関わるすべての人が安心できるコミュニティづくりを進めることが、このサービスの命だと思っています」

サービスに関わる人同士に新しい価値を生む

そして最後の3つ目が、単に「荷物を預ける/預かる」だけでなく、プラスアルファの付加価値を生み出す仕組みであることだ。

これについては、実際の例を挙げるのが分かりやすい。例えば飲食店の場合、荷物を預けたついでに、その店で飲食する人は約3割に上る。またマンガ喫茶なら、荷物を預けてちょっと休憩する人も少なからずいるという。つまり店舗・施設側にとっては、従来はお金を払って集客していたのが、ecbo cloakに登録することで「荷物預かり料金を支払ってもらいながら、本業の集客もできる」状態になるのだ。

画像: ecbo cloakを介して新しいビジネスチャンスが生まれている

ecbo cloakを介して新しいビジネスチャンスが生まれている

「ecbo cloakに登録している店舗・施設には、美容院や和装屋さんなどもあります。これについて、特に中国・東南アジア圏からの旅行者などは、預けたついでにヘアメークをしたり、着物を着て写真撮影をしたりするケースも多いようです。このように、これまで想定していなかった属性の顧客が来店するようになれば、サービスの新たな魅力が掘り起こされるということも増えていくでしょう。『モノ消費からコト消費へ』という世界的な潮流にも棹さして、今後はより幅広い業態の店舗・施設にメリットを感じていただけるようになっていくはずです」

ある時工藤氏が調べたところでは、日本のコインロッカーは1964年の東京五輪に合わせて設置が始まり、約50年が経過した現時点で約22万個あるそうだ。一方、サービス開始1年ちょっとのecbo cloakは、2017年末時点で既に預かり可能個数「3万個」を超えている。このサービスは、既存のインフラを大きく超える可能性を秘めている――。そのことが、工藤氏の目にははっきりと見えている。

画像: 工藤慎一 1990年にマカオで生まれ、小学校から日本で暮らす。日本大学経済学部卒。在学中からUber Japan株式会社でインターンを経験、さまざまなサービスのローンチや実証実験などに携わる。2015年6月、ecbo株式会社を設立し、オンデマンド収納サービス「ecbo storage」をβ版運営開始。2017年1月に荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」を立ち上げる。

工藤慎一
1990年にマカオで生まれ、小学校から日本で暮らす。日本大学経済学部卒。在学中からUber Japan株式会社でインターンを経験、さまざまなサービスのローンチや実証実験などに携わる。2015年6月、ecbo株式会社を設立し、オンデマンド収納サービス「ecbo storage」をβ版運営開始。2017年1月に荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」を立ち上げる。

「後編:論理的思考と情熱で、さらなる便利を追求」はこちら>

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