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地下資源ではなく、「地表資源」が支える未来へ
――昨年、御社は創業50周年を迎え、「自然と美しく生きる」というスローガンを掲げました。どんな意味が込められていますか。
石坂
実はこのスローガンのひとつ手前に、「自然と共生する、つぎの暮らしをつくる」という弊社の使命があって、そこから「自然と美しく生きる」に発展していくのです。
この使命とスローガンは、社員みんなで知恵を出し合い、これまでの弊社の活動から導き出した言葉です。50周年を迎えるにあたってCI(コーポレート・アイデンティティ)プロジェクトを立ち上げ、社内で何度もワークショップを開きました。どんな言葉なら、石坂産業だけでなくこれからの世の中にとっての旗印としてふさわしいか、議論を重ねました。そうやって社員が自分たちで練り上げたアイデアを、ワークショップでプレゼンテーションしあい、最終的に決まったのが「自然と美しく生きる」という言葉なのです。
同じタイミングで、弊社のロゴマークも新しくしました。
ロゴを構成する縦のバーは、アルファベットの「I」を意味します。これはISHIZAKAの「I」でもあり、わたしたち一人ひとりを意味する「I」でもある。そして、これからの弊社は持続可能な社会に向けた研究開発や環境教育に力を入れていくんだという思いから、カラーはGreenを基調にしました。わたしたち石坂産業の活動が、世界中の一人ひとりの行動へと波紋のように広がり、Greenな世界へとつながっていってほしい。このロゴマークには、そんな願いが込められています。
――これからの御社は研究開発にも力を入れていく、というお話がありました。現時点で具体的なビジョンはありますか。
石坂
弊社が使命として掲げる「つぎの暮らしをつくる」。つまり、これから50年先、わたしたちが何をやる会社でありたいか。それを考え抜いた結果、単に廃棄物を処理するだけの事業から脱却して、次のステージではエネルギーを供給する産業をめざしましょうという結論にたどり着きました。
わたしたちが今動かしている産廃処理プラントには、負の財産がいっぱいあります。廃棄物もそのひとつですし、稼働する設備から排出される風、そして振動。そういった負の財産を、エネルギーに再生させたい。そして最終的には、地下資源ではなく「地表資源」、つまり地表にあるすべてのものをエネルギーに変え、それによって支えられる未来づくりをめざしていこうじゃないか、と考えています。
それができたら、面白くないですか? 専門知識をお持ちの方なら、きっとワクワクすると思うのです。ただ、弊社には専門のスタッフがそろっていません。それに、社員が部署単位でしか動かないような組織がなかなか成長できないように、自社だけで取り組んでも限界があります。そこで、「オープンラボ」をつくる構想があるのです。
――これから一緒に研究する人を集めるという段階ですか。
石坂
そうですね。研究棟はまだないですが、実際に産学官連携で一緒に研究させていただいている方もいらっしゃいます。
なにしろ、これまで弊社に見学に来られた方だけでも、通算で10万人近い数になります。なかには、環境教育の専門家や、企業研修として見学に訪れる方も多くいらっしゃる。そういった方々の知を結集したら、きっとすごいことになると思うのです。弊社には産廃処理の現場がありますから、そこをいろいろな分野の方のアイデアを試すテストプラントにしてほしい。石坂産業にとっての利益を生み出すだけの装置ではなく、社会の課題を解決する場になってくれたらいいなと考えています。
40年前に造られた建物の廃材を受け入れるとわかるのですが、その頃のコンクリートって非常にシンプルなんです。でも、今、建設資材に使われているコンクリートは非常に複雑。いろいろなものが混ざっているのです。その分、処理のコストもかかります。ということは、40年後の未来にとって負担になるかもしれないものを造っているということになります。その現状を変えたいのです。要らなくなっても資源化しやすい、環境に負荷をかけないものづくりが当たり前になるような世の中に変えていきたいですね。
フィンランドに学ぶ、「環境教育」と「幸せ」
――御社は海外との交流も盛んで、例えば昨年の2月には、フィンランドのラハティ郡と友好の覚書を交わしています。海外の自治体と交流する狙いは何ですか。
石坂
フィンランドは環境先進国ですから、彼らから環境教育を学びたいというのがひとつめの理由です。例えば、ごみ問題への対策。フィンランドは日本と違って、法律で飲料メーカーにごみの回収が義務づけられています。それを当たり前のことととらえる国民のモラルが醸成されているのです。そして、弊社が覚書を交わしたラハティ郡では、弊社と同水準のリサイクル化率98%を達成し、さらに99%に届こうとしています。処理技術の面でも彼らに学べることは多いはずです。
それともうひとつのねらいとして、日本人の幸福度をもっと引き上げたい。日本と同じくらいの国土面積に、北海道くらいの人口しか住んでいないフィンランドですが、国連の「世界幸福度報告書2018」によると幸福度ランキング世界1位。そして日本は54位。この差は何なのか。人口が減り続ける一方で自殺者が後を絶たない日本で、人が満足して生きていくためのヒントを、この交流で見つけたいと考えています。
社長就任から16年。産廃処理業界は変わったのか
――石坂さんというと、自社を改革することで産廃処理業界そのもののイメージを塗り替えたという印象があります。ご自身では、業界が変わったという手応えはありますか。
石坂
弊社のおかげだなんて思っていませんが、いくつか変わった点はあると感じています。
社長になって間もない頃、プラントとは別に社屋を建てようとしたら同業者の方々に笑われました。「きれいな社屋を建てても利益は出せないぞ」と。でも今、この業界で社屋を持つのは当たり前になりました。
同じ頃に新しい機械を導入しようとなって、その先行事例として中部地方の同業者に見学を申し込んだところ、「企業秘密だ」と断られました。でも、産廃処理事業は商圏が発生地点から50km圏内と規定されている地産地消のビジネスです。他社に真似されてもかまわないとわたしは考え、その後、同業者にもプラントを公開することにしました。
弊社では2011年に、日立建機株式会社さまと共同開発した電動ショベルカーを業界に先駆けて導入しました。見学に来られた九州の同業者がそれをご覧になって同じ機種を導入することになり、弊社が日立建機株式会社さまからお礼を言われた、なんてこともありました。
電動ショベルカーの導入にあたっては、通常の油圧式のショベルカーに比べて2倍のイニシャルコストがかかりました。それでもなぜ導入したかというと、排出されるほこりの量が少なくなることで、労働環境が格段に改善されるからです。それを実際に目にした同業者が、先行投資する価値があると判断し、「うちも電動ショベルカーを導入しよう」となった。おそらく経営者の皆さん、投資した分をしっかり回収できるかどうかで悩まれると思うのです。そこに先行事例を弊社が見せることで電動ショベルカーの導入が進めば、業界全体の労働環境がよくなり、イメージアップにつながりますよね。
関東以外から見学に来られた同業者のなかで、「わたしたち、将来、石坂をめざします!」っておっしゃる方もいらっしゃいます。そういう言葉をいただくと、弊社の存在意義って実は大きいのかなって思います。やっぱり同業者の皆さんにも、「世の中をきれいにしている」というプライドを持って働いてほしいのです。そのくらい、価値のある仕事だから。
弊社は父が創業した会社ですが、わたしは産廃処理がどんな仕事なのか、入社するまでわかっていませんでした。20歳で入社して初めて現場を見学したときに、「すごいな、この人たち」と思いました。当時は今のような天井付きのプラントではなく、露天での作業でした。雨が降ろうが風が吹こうが、真夏だろうが、みんなほこりまみれになってごみの選別をするのです。それを見て、「この人たちが評価されるような会社にしなきゃいけない」って思いました。
社長が「もっとやれ!」と思った瞬間
――社長になられてから今まで、石坂さんにとって一番うれしかったことは何ですか。
石坂
やっぱり…社員が「働くのが楽しい」と言ってくれたときですね。逆に、会社に対して不満を言っているのを耳にすると、ハートブレイクします。そういうことは今でも毎日のようにありますよ。
おそらく、ほとんどの経営者の方は満足なんて得られないんじゃないですか。会社が成長するタイミングでは必ず何かしらクリアすべき問題があるはずですし、経営者はそこに気づかなくてならない。会社の状態に100%満足してしまったら経営者としての自分は終わりだと、わたしは思っています。
弊社にはいろいろな性格の人間がいて、みんな自己主張が強い。そういう組織を一致団結させていくのはかなり大変ですが、そういう人間が集まったからこそ、新しいしくみを生み出せるんじゃないかなと思います。社員同士がああでもない、こうでもないって議論しているのを見ると、「いいなあ。もっとやれ!」って思います。
リサイクル化率100%、そして永続企業へ
――この16年で、社員数はどのくらい増えましたか。
石坂
社長に就任した2002年は65名、今は170名以上ですから、2倍以上に増えました。今、どの業界でも人手不足ですが、ありがたいことに弊社は人財を確保できています。設備投資による労働環境の改善、そして会社としてのビジョンの共有ができているからだと思います。
――これからさらに、会社を大きくしていくのでしょうか。
石坂
拡大経営をやらざるを得ないフェーズは、遅かれ早かれ来ると思うのです。でも今は、徐々に徐々に大きくなっていければいいな、と。
弊社の創業者である父が社長時代にめざしていたのは、とにかく「会社を継続させること」でした。それで、わたしが社長になるときに「“継続”といっても、父はいったい何年会社を続けたいんだろう?」と思って、日本企業の寿命を調べてみたのです。
そうしたら、会社を興しても7~8割が10年以内に倒産していることがわかりました。「100年続けるのは難しいんだな」と気づいたときに、じゃあ2代目社長がやるべきことって何なんだろう? 少なくとも、わたしの代で上場できるレベルまで会社を大きくしたとしても、そこに価値は無いなと。ビジネスが成熟しないまま、社員が成長スピードについていけないまま会社を大きくするというケースもありますが、社員のほとんどが非正規雇用やアルバイトでは意味が無いと思ったのです。
入社する前、わたしはアメリカに短期留学していました。そのとき、スピーカーメーカーのBOSEの創業者がこんなことを話しているのを観ました。「わたしは上場には興味が無い。いい音楽を、できるだけ生の音に近い状態で伝えられるスピーカーを作ること、そして、そのための適切な研究開発環境を用意するのがわたしの使命だ」って。それを聞いて、かっこいい!と思いました。アメリカでは上場こそが経営者にとってステータス、会社の価値として評価されるのに、彼は興味が無いと言い放ったのです。
そのことを、自分が社長になるときに思い出しました。父も使命を感じてこの会社を始めたのだと。父は東京湾に埋められるごみを見て、このままじゃだめだ、ごみを100%リサイクルできる会社が必要だ、という思いから石坂産業を興したのです。わたしは、その使命を継いだだけのことです。弊社の使命を社員みんなで共有して、リサイクル化率100%の実現に向かって突き進んでいく。弊社がそういう会社であり続ければいい、とわたしは思っています。
J-CSV提唱者の視点
名和 高司 氏(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 特任教授)
最近、資本市場ではESG投資が注目されている。しかし、石坂産業のような非上場企業にとっては、このような動向は直接関係がないはずだ。それにも関わらず、同社は環境にも社会にも大きな価値を提供することを自社のミッションとして貫いている。これを、サステイナビリティ社会を提唱するジョン・エルキントンの「トリプルボトムライン(TBL)」という観点から、読み解いてみよう。
第一のボトムラインは地球(Planet)だ。地球環境を有限な資源ととらえ、いかに環境負荷を最小限にとどめるかが求められる。石坂産業は産業廃棄物(「地表資源」)のリサイクルという本業に加えて、里山再生を手掛けることにより、地球との共存をめざしている。
第二のボトムラインは人々(People)。従業員や住民に対する配慮が求められる。石坂産業は働きやすい職場づくりを心掛けるとともに、環境教育を通じて、子どもたちに自然とともに生きることの尊さを体験する場を提供している。
第三のボトムラインは利益(Profit)。同社は自動化などへの設備投資や適正価格での取引を行うことによって、利益を伴う持続的な成長を実現している。
PlanetとPeopleを社会価値、Profitを経済価値と読み替えると、石坂産業は産廃処理という静脈産業におけるCSV先進企業といえよう。同時に、コミュニティにしっかり根差して、未来の地球と未来の世代が美しく共存することの価値を作り上げようとしている姿は、J-CSVが向かうべき方向を示唆している。
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
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