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「Hitachi Blockchain PoC環境提供サービス for Hyperledger Fabric」とは?
ーー日立は、2017年5月にブロックチェーン技術の利用環境を提供するクラウドサービス「Hitachi Blockchain PoC環境提供サービス for Hyperledger Fabric」を開始しました。これはどういうものなのでしょうか?
長
第2回で、ブロックチェーンの普及には、さまざまなユースケース、つまり適用事例を積み上げることが重要だというお話をしましたが、まさにこのサービスは、さまざまな業種のPoC(概念実証)、つまり仮説検証を行うための基盤です。
お客さまが、ブロックチェーンを試してみたいと思っても、オンプレミス(自社運用)で実施するにはコストや技術的な要因がネックになって、なかなか実施に踏み切れないケースがあるでしょう。そこで、日立としては、極力コストを抑え、ヘルプデスク機能も提供しながらお客さまをサポートしつつ、さまざまなかたちでPoCを実施して、ブロックチェーンへの理解を深めていただきたいと考えています。その結果を踏まえて、本運用への移行まで我々がサポートしていきます。
山田
ここで使われているのが、我々も参画しているHyperledger(ハイパーレジャー)のフレームワークであるFabric v1.0です。実はFabricに関しては、旧バージョンから合意形成の仕方を変更しています。以前は、PBFT(Practical Byzantine Fault Tolerance)というものを採用していましたが、それがエンドースメントというものに替わりました。全ノード(端末、参加者)が参加していっせいに合意形成を行う仕組みから、ノード群を分割して、それぞれ並列に合意形成とプログラム実行ができるようになりました。これにより、単位時間当たりの処理速度を大幅に向上しています。
また、プライバシーに関しても、従来の全ノードが閲覧可能な状態から、特定のノードだけで合意形成を行える仕組みに変更しました。このように、スケーラビリティ、プライバシーの両面において、以前のバージョンから使い勝手を改善しています。なお、Fabric v1.0は、テスト用のα版が公開された後、今年7月に正式版がリリースされました。これを受けて、我々も本格的にサービスを開始しました。
クラウドサービスでは、アイデアが出た段階ですぐにつくって試せるので、非常に有用です。ぜひ、広くご活用いただければと思います。
ブロックチェーンの適用の拡張に向け、社内体制を強化
ーーこうした動きに向けて、社内の体制も整えているのでしょうか。
長
はい。ブロックチェーンの適用範囲は金融に限った話ではないので、金融ビジネスユニット以外にも、社内にワーキンググループを組成して情報を共有し、各ビジネスユニットのフロントのメンバーが、直接、お客さまと対話できるような体制づくりを進めています。
お客さまに対しては、まず先述のクラウドサービスなどを活用した実証実験のご提案をさせていただき、実際にアプリケーションが必要になったときには、フロントメンバーとともに開発を進めます。そのため、現在、社内でトレーニングセッションを用意して、定期的に開催しているところです。
山田
社内での関心も非常に高く、研究開発グループ主催のトレーニングセッションは告知したとたんに満員になってしまったほどです。そのため、開催回数を増やして対応しています。
これは、HyperledgerのFabric上でアプリケーションをつくることに主眼を置いたワークショップで、ブロックチェーンの特徴である分散システムや合意形成という、従来にはない概念について学ぶというものです。ブロックチェーン特有のプログラミングが必要であり、その手法を周知させます。
長
正直、ようやくここまで来たか、という感じですね。私は社内で、以前からブロックチェーンの重要性を訴えてきましたが、これまでは仮想通貨のイメージが強く、金融以外に活用できるというイメージがなかなか広がらなかったのですが、ここへ来て、一気に関心が高まりました。
山田
事業部にお客さまからさまざまな問い合わせが来るようになったことが大きかったと言えます。そうした状況に押されて、ブロックチェーンは金融だけのテクノロジーではない、という理解が社内でも広がっています。
適用事例の決定打が、世の中への普及を促進する
ーーブロックチェーンへの関心も高まり、技術課題も一つずつ解決されているようではありますが、今後、一般に普及していくためには、どのようなブレークスルーが必要だと思われますか?
長
何よりも重要だと思うのは、決定的な適用事例を一つでも早く世に問うことだと思っています。それさえ見出せれば、同様の考え方で他の業界のビジネスや業務に適用できる、つまりn倍化が可能だと思っています。当然、すべてが一気にブロックチェーンに置き換わるわけではなく、さまざまな実証実験や小規模システムの経験を積み重ね、それらを連動させることで徐々に規模を拡大していくというアプローチになると思います。
山田
同感です。もっとも、決定的な事例を見つけるまでには苦しむのではないかと思います。ビットコインがあまりに強力なので、それに匹敵するようなものを見つけるというのは、なかなか難しい。また、技術の普及というのは、新たなテクノロジーの開発だけで実現できるわけではなく、既存の技術の組み合わせや法制度の整備、社会の受容など、さまざまな要素が必要であり、トップダウンとボトムアップの両輪で進めていく必要があるでしょう。
一方で、日立は幅広い事業を展開しており、それらを掛け合わせたり、連携させたりすることで、日立ならではの独自のサービスを生み出すことができると思っています。
Society 5.0の実現を支えるブロックチェーン
長
今、政府が科学技術政策の基本方針である「第5期科学技術基本計画」の柱として「Society 5.0」を掲げています。これは、世界に先駆けた超スマート社会の実現により、必要なモノ・サービスを必要な人に適宜提供することで、社会のさまざまなニーズにきめ細やかに対応することをめざすものです。まさにこのSociety 5.0の実現に、ブロックチェーンとスマートコントラクトが使えるのではないかと考えています。
その際、従来のしくみをいかにブロックチェーンに置き換えていくのか、というのが大きな課題になります。まずはスモールスタートで始めていくとして、今後、さまざまなシステムがブロックチェーンに置き換えられるようになったときにこそ、幅広い事業を展開する日立の強みを生かせると思います。
たとえば、近年、適用事例の一つとして注目を集めるのが、エネルギー分野です。個人の家庭や事業所などにおいてソーラーパネルなどで発電した電気を売買し、さまざまなかたちで資金化しようとする動きが出てきていることはご存知でしょう。そのプラットフォームにブロックチェーンを活用する動きがヨーロッパを中心に始まっています。エネルギー分野というのは、まさに日立が進める社会イノベーションの一つであり、需給のマッチングにスマートコントラクトを活用するなどして、よりよい仕組みづくりに貢献したいと考えています。
ブロックチェーンの普及のカギは顧客協創にあり
ーーブロックチェーンというのは、新しい技術だけに、やはり実際に動かしてみないとなかなかイメージできないところがありますね。そういう意味でも、やはり実証実験やお客さまとの対話が、非常に重要だと思いました。
山田
そうですね。お客さまからも、書籍などで読むだけでは技術のイメージがなかなかつかめないので、議論をしながら進めていきたいというご要望をいただいています。そういった意味で、ブロックチェーンというのは、アプリケーションの開発担当者が、直接、顧客の企画部門や業務サイドの方と対話できる珍しいテクノロジーであり、我々としても大変やりがいを感じています。
また、日立にはそのための協創のしくみがあり、東京社会イノベーション協創センタにおいて、デザイナーやサービス工学の専門家も交えて、課題抽出や解決策を検討する顧客協創方法論「NEXPERIENCE(ネクスペリエンス)」による取り組みを展開しています。
長
従来、山田のような研究者が、ビジネスの場に出てきてお客さまと直接ディスカッションをするということはあまりなかったのですが、ブロックチェーンに関しては、まさにそのプロセスが不可欠なんですね。技術の中身が理解できない人間が、お客さまとの対話の席で、「いったん社内に持ち帰って」などとやっていては、ビジネスチャンスを喪失してしまいます。
ブロックチェーンによるサービスの創出には、まさにお客さまと一緒につくり上げていく協創が欠かせません。ぜひ、さまざまな業種・業態の皆さまに関心を持っていただき、ともに新たな価値をつくり上げていけたらと願っています。
(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)
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