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「Hitachi Academy Open Day 2024」の先行イベントとして、日立アカデミーは2024年10月10日に社内イノベーションネットワーク「Team Sunrise」とのコラボイベントを開催した。その模様をまとめた採録記事の第5回は、佐藤雅彦の講演「『応援からはじめるイノベーション』企業における社員同士の利他とは」をお届けする。自身が代表を務める社内イノベーションネットワーク「Team sunrise」の活動を紹介し、活動における挫折と成長を通じて学んだ「利他的思想」について説く。

「第1回:伊藤亜紗氏講演「漏れる利他(前編)」」はこちら>
「第2回:伊藤亜紗氏講演「漏れる利他(後編)」」はこちら>
「第3回:矢野和男講演「ウェルビーイングは利他から(前編)」」はこちら>
「第4回:矢野和男講演「ウェルビーイングは利他から(後編)」」はこちら>
「第5回:佐藤雅彦講演「『応援からはじめるイノベーション』企業における社員同士の利他とは」」
「第6回:「利他」とは違いを受け入れ、うまくやっていくための知恵」はこちら>

利他のつもりが孤立を招いた経験

私からは「Team Sunrise」の活動、それを支えてきた利他的精神についてお話しします。
私は日立製作所の研究所でオープンイノベーション推進室におり、皆さんが点したアイデアの種をブラッシュアップして事業化につなげることを業務としています。

そして、業務を越えた「利他」の活動として行ってきたのが、イノベーションを育てる社内ネットワーク活動Team Sunriseです。2006年の設立から18年、登録者数は約2500名となり、日立グループ内の事業所など30拠点にいる約60名の窓口のメンバーを中心にネットワークを形成しています。最初は勉強会という形でスタートしたこの活動ですが、グループ内での仲間づくり、ハッカソンやアイデアソン、文化祭、他社も含めた交流会などのイベントも行うようになり、日常的にもコミュニケーションをとっています。

画像1: 利他のつもりが孤立を招いた経験

活動の一つが「日立オープンイノベーション・ハブ」というもので、グループ内のアイデアや技術の種をうまくマッチングさせてインキュベーションする機会を増やす取り組みです。例えば、ウェブサイトで皆さんの活動を紹介したり、今回のような交流の場を設けてつながりを広げたりしており、そうした活動を継続することでオープンイノベーションのエコシステム形成をめざしています。

18年のあいだには活動が低迷した時期もありました。2010年頃のことですが、日立の課題を検討、分析してソリューションをつくろうという取り組みのなかで、課題を探しているつもりが、いつの間にか日立の粗探しのようになってしまったのです。

私たちも当時は若かったので、「若手社員が日立の大企業病を治します」というようなメッセージを掲げていました。そのことに反感を示す人もいましたが、一方で外部の方々や、幹部のなかにも賛同、応援してくれる人がいたことで、図に乗ってしまったんですね。次第に過激な発言が増えていき、どんどん孤立していくという結果を招いてしまいました。

会社のためを思い、言われたことに従うだけのイエスマンにはならないように行動しているうちに、いつの間にかアウトローになってしまい挫折したわけです。当時は、「私たちは身を削って利他していただけなのに」とネガティブな感情も抱きました。

画像2: 利他のつもりが孤立を招いた経験

最近「越境人財」が注目されているように、企業や組織の枠を越えて新しい風を取り込むことは大切です。ただ、私たちは組織から活動範囲の分解をするだけで、それらがバラバラになったままだったのです。分解するだけでなく、それらを「再結晶化」して新しいものにつなげなければ、会社のために活かすことはできないということを学びました。再結晶化できなければ、それは越境人財ではなくただの「越権人財」だということです。「会社のために」という利他の気持ちは大切ですが、それを成果につなげることをきちんと考えなければいけないのです。

画像3: 利他のつもりが孤立を招いた経験

さきほどの伊藤先生の講演でも「利他の毒」という言葉がありましたけれど、人のために何かを行うことで、喜ぶだろう → 喜ぶはず → 喜ぶべきというふうに、期待 → 相手を支配するという思考になってしまったのが問題であったのだと思います。「こんなに利他しているのに」という自己犠牲的な感覚があったから、出発点は「愛情」だったものが「苦痛」に変わってしまうということに気づかされました。

画像4: 利他のつもりが孤立を招いた経験

日立のなかにストリートをつくる

もう一つ気づいたのは、人のために何かをする、応援するという行為が何らかの見返りを期待した互恵的なものであることも多い一方で、そうした行動原理では動かない、純粋に利他を行う人が会社のなかには確実に存在するのだということです。自分以外の誰かが保有する資源、つまり他人の才能を自分以外の誰かの喜びに活かすことを自然とできる方々です。

Team Sunriseの活動が、挫折からの低迷期を経てまた盛り上がってきたきっかけというのが、そうした方々による、いわゆる「推し活」でした。「うちの部署にこんな才能のある人がいるので、ぜひ皆で応援して欲しい」というふうに、プロデューサーとなって「新事業のたけのこ」を探し、育てる人が活動を盛り上げてくれたのです。実は、私たちの30拠点の窓口を担当している方々こそが、そのような純粋な利他的行動ができるプロデューサーであり、その方々の「推し活ネットワーク」がTeam Sunriseの活動を支えています。

画像1: 日立のなかにストリートをつくる

今はVUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代だとよく言われます。けれども、そもそも人間が知りうることのできる情報は限られていて、そのなかで最高最善の判断を合理的に行っているだけなのですよね。そう考えると、いつの時代もVUCAなのではないでしょうか。

伊藤先生も「ストリート」という言葉に触れてくださいましたけれど、私たちは、情報が限られた状況下でもできるだけ多くの情報に触れられるようにする、社員の誰もが自由にパフォーマンスを発揮できるストリートのような場を日立の中につくりたいと考えました。本日のイベントもまさにそのストリートの一つです。誰もが自由に自分の活動を紹介して、それを誰もが自由に応援でき、その活動の成長を促すような場があれば、そのなかでイノベーションの種が育つのではないかと期待しています。

画像2: 日立のなかにストリートをつくる

人生は思ったとおりにならないものですが、逆に「思った以上」ということもあるはずで、不確実だからこそ希望が持てるのではないかと思います。VUCAをむしろチャンスと捉え、従業員がいつでも新事業の種を生み出せるような日立のケイパビリティをつくりたいという思いで続けているのが、私たちTeam Sunriseの活動です。それは「応援」という身近な「利他」で日立従業員の「思った以上」をつくっていく活動であると思っています。(第6回へつづく

「第6回:「利他」とは違いを受け入れ、うまくやっていくための知恵」はこちら>

画像1: イノベーティブ組織の「利他」との向き合い方~人のつながりで、予想以上のわくわくを~
【第5回】佐藤雅彦講演「『応援からはじめるイノベーション』企業における社員同士の利他とは」
「推し活」のネットワークで「思った以上」をつくりたい
画像2: イノベーティブ組織の「利他」との向き合い方~人のつながりで、予想以上のわくわくを~
【第5回】佐藤雅彦講演「『応援からはじめるイノベーション』企業における社員同士の利他とは」
「推し活」のネットワークで「思った以上」をつくりたい

佐藤 雅彦(さとう まさひこ)
株式会社日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 イノベーションプロジェクト統括センタ オープンイノベーション推進室 チーフストラテジスト
日立製作所にて、情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。本社IT戦略本部、研究開発グループ主任研究員などを経て、2023年より現職。研究開発戦略の立案やオープンイノベーションの推進を担っている。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」代表。

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