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加治 慶光 株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal / 入山 章栄氏 早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 / 森正勝 株式会社 日立製作所 イノベーション成長戦略本部 本部長
2024年10月28日、「両利きの経営から考えるDX デジタルとデザインで導くイノベーション」をテーマに日立製作所主催のイベントを開催した。ゲストは早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄氏。Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治慶光、日立製作所 イノベーション成長戦略本部 本部長 森正勝、入山氏の3名で行われたトークセッションを採録した第4回では、日立の変革についてのディスカッションが展開した。

「第1回:世界の経営学から見るDXへの視座(前編)」はこちら>
「第2回:世界の経営学から見るDXへの視座(後編)」はこちら>
「第3回:社会イノベーションへの日立の取り組み」はこちら>
「第4回:日立の変革」
「第5回:第2次デジタル競争というチャンス」はこちら>

2050年からのバックキャスト

加治
ここからは3人でディスカッションをしていきたいと思います。入山先生は先ほどの森さんのプレゼンテーションをお聞きになって、どんな感想を持たれましたか。

入山
僕が講演でお話しさせていただいた「知の探索」と「知の深化」を、日立はすでに実践されていると思いました。しかもR&Dの方が営業と一緒になって、お客さまと課題解決に取り組まれている。両利きの経営がすでに実践されていて、だから日立は社会イノベーションでこれだけの成果をあげているのだと改めて思いました。


ありがとうございます。

入山
2050年の未来からのバックキャストは僕も大賛成で、イノベーションに必要な知の探索で未来の世界を描いて、それに向けて自分たちに何ができるかを考えることは、グローバル企業はお作法のようにやっています。しかしそれを日立内で行い、浸透させるのは大変だと思いますがいかがでしょう。

画像: 2050年からのバックキャスト


私たちはお客さまから、未来の世界について聞かれることがありました。その未来に向けての必要な技術へと落とし込むことで、より具体的な道筋が示せるようになりました。

例えば先ほどお話したカーボンニュートラルであれば、1つの方法は水素などの新しいエネルギーを作る研究であり、もう1つは資源循環を変えるために石油精製由来ではないものを作る研究です。未来からのバックキャストでこうした道筋を具体化できたことは、日立のめざすイノベーションの共通理解につながったと思います。

入山
確かに先ほどの森さんのお話は、すごく具体感がありました。

加治
日本の企業は、未来への方向が定まってすでに動き出している企業と、まだその方向が定まっていない企業があります。森さんは、気候変動に対する具体的なアクションも起こされていますが、それは入山先生がおっしゃっていた知の探索を行う企業としての目標がはっきりしているからだと思います。社会イノベーションはもちろん、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)やウェルビーイング(社会と個人の良い状態)という方向性が日立の中で定まっているから、具体的なプランが立てられるのではないでしょうか。

社会イノベーションの浸透

加治
社会イノベーションという目標は、日立の経営が危機的な状態に陥った時に出てきたものです。この目標づくりと組織に浸透させていったプロセスについて、入山先生はどうお考えですか。

入山
これは経営学的にいろいろな見方ができると思いますが、ひとことで言うと川村さん(※)だと思います。僕はお会いしたことはありませんし、なぜあのタイミングで舵取りをまかされたのか詳しくは知りません。ただ、とにかくこれからの日立は社会イノベーションなんだと全社員にメールを出し、毎日のように言い続けたと聞いています。経営者が目標を浸透させるためには、トップが根気強く発信することがとても重要です。

※ 川村隆:元日立製作所取締役・代表執行役会長兼執行役社長。2009年のリーマンショックによる経営危機の時の舵取りを行った。著書に、『ザ・ラストマン』など。

例えばソニーの社長が平井さん(※)になった時、これからのソニーは感動だということで、それを言い続けた。グローバルでも「KANDO」という言葉を使って、朝起きた時から感動、ご飯を食べても感動、ドアを開けたら感動、それぐらい言い続けてこの目標を浸透させたそうです。

※ 平井一夫:日本の実業家。元ソニー株式会社社長兼CEO、ソニーグループ株式会社シニアアドバイザー、一般社団法人プロジェクト希望代表理事。

ただ、日本の企業では素晴らしい方がトップになっても、任期が短いことが問題です。僕は本当に優秀な経営者であれば長く続けるべきだと思うのですが、任期という制度がある。しかし日立は、社長が交代しても社会イノベーションという方向感はまったくブレていません。中西さん、東原さん、小島さん、皆さん同じことを話される。そこが幹部の間でうまく共有される仕組みがあって、トップを選ぶときに指名委員会がそれをすごく大事にしているのでしょう。しかしコーポレート・ガバナンスで、トップが代わると目標まで変わってしまうことはたびたび起きます。

日本のミドル層への期待

加治
入山先生が言われるように、トップのリーダーシップが重要だということはよくわかります。私はそれと同時に今の日本では、ミドル層の人たちのボトムアップ型のトランスフォーメーションというものが起こりやすい、そんな状況もあるように思います。例えばそれなりの規模の企業は、ミッションやビジョンが非常に似通ってしまっています。カーボンニュートラルのような誰もが納得できるビジョンが横並びになっている時、企業のユニークネスというのはむしろミドル層や現場から出てくる可能性があると思うのです。

画像: 日本のミドル層への期待

入山
それは面白い。僕はそういうふうに考えたことはありませんでしたが、言われてみればそうですね。

加治
ここへきて日本の経営者の間に、人口が減って国内だけではやっていけなくなるというコンセンサスができました。中国の競争力が日本を脅かしていることもわかってきて、本気でグローバルに出なければ、いずれは立ち行かなくなる。これまで国内で成長していくことが合理的だったわけですが、今ではその殻を破りつつあると思います。

さらに東京証券取引所がプライム市場を作ったことで、いきなり世界からの目が厳しくなりました。「役員会のダイバーシティはどうなっている」とか、「サプライチェーン上の人権問題は大丈夫か」といったことを厳しくチェックされる、そういう時代に突入してしまった。それはつまり日本の企業が、グローバル基準へと生まれ変わった瞬間だったのではないでしょうか。

入山
なるほど、そうかもしれません。

加治
本格的な成熟期を迎えたこの国で、本当に差異を作れるのは現場やミドル層が強い日本の組織ではないか。私たちはそう考えて、こういうセッションを積極的にやっています。

入山
すごく良くわかります。それは加治さんがおっしゃる通りだと思います。(第5回へつづく

「第5回:第2次デジタル競争というチャンス」はこちら>

画像1: 両利きの経営から考えるDX デジタルとデザインで導くイノベーション
【第4回】日立の変革

入山 章栄(いりやま あきえ)
早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に就任。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。
専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に多く論文を発表している。著書の『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』、『世界標準の経営理論』はベストセラーとなっている。近著は『宗教を学べば経営がわかる』池上彰・入山章栄 共著。

画像2: 両利きの経営から考えるDX デジタルとデザインで導くイノベーション
【第4回】日立の変革

森 正勝(もり まさかつ)
株式会社日立製作所 理事 イノベーション成長戦略本部長
1994年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、日立製作所に入社。システム開発研究所にて先端デジタル技術を活用したサービス・ソリューション研究に従事した。2003年から2004年までUniversity of California, San Diego 客員研究員。日立製作所 横浜研究所にて研究戦略立案や生産技術研究を取りまとめた後、2018年より日立ヨーロッパ社CTO 兼 欧州R&Dセンタ長。2020年、日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部長 兼 東京社会イノベーション協創センタ長。2023年より現職。博士(情報工学)。

画像3: 両利きの経営から考えるDX デジタルとデザインで導くイノベーション
【第4回】日立の変革

加治 慶光(かじ よしみつ)
株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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