「第1回:運用改善サービス『HARC』の誕生」はこちら>
「第2回:クラウド運用の健康診断」
「第3回:運用の成熟度は、運用者の成熟度」はこちら>
「第4回:HARCのカスタマージャーニー」はこちら>
「第5回:HARC活用事例:オリックス銀行」はこちら>
運用部門の現状
――現在クラウド運用部門の人たちは、どのような課題を抱えているのでしょう。
酒井
私は国内のさまざまな業種の企業とHARCを通してお付き合いをさせていただいていますが、共通している課題は3つあります。第1に、インシデントが起きやすい運用になっていることです。AWSやAzure、Google Cloudといった大手のクラウドサービスは、年間数千件のアップデートを行うと言われています。そのスピード感についていくことは片手間でできることではありません。アップデートに対応しないままサービスを展開していることで、重大なインシデントが発生しやすい状態にある企業が多いです。
第2に、運用部門の疲弊です。情報システムの運用部門は、メインフレーム時代から何か起きたら大問題で、何も起きないのが当たり前という世界です。何か起きた時にはいつどこにいても対応しなければならない、バージョンアップは頻繁にある、開発部門からは次々に新しい要求が入るといった環境で、慢性的な人手不足に陥り、疲弊しているケースが多いです。
第3はコストです。大手のクラウドサービスは、手間をかけて対策すればコストは下がるのですが、何もしなければ上がっていくという構造になっています。アメリカで起きていたのは、インシデントや不具合の対策に追われるようになって、クラウドのアップデートの対策ができなくなり、コストが上がってしまうという課題でした。この問題が今日本でも起きています。
これらの課題は、オンプレミスを前提にした組織や人、ナレッジのままクラウドを運用していることが原因になっている場合が多いです。例えば開発が先行して作ったクラウドの業務アプリの運用を、パブリッククラウドの知識や経験もないまま任される。それが積み重なると、どこから手をつけたらいいのかわからなくなっていきます。
岡部
お客さまと話をしていると、目的を明確にせずに、むやみに今あるサービスをクラウドに移行しているケースが多いです。それではクラウドに適した運用やアーキテクチャーなどのベースができていないので、さまざまな問題が起きやすい状態になってしまいます。
マチュリティ・アセスメントサービスとは?
――運用課題の解決のために、最初に行うマチュリティ・アセスメントサービスについて教えてください。
酒井
マチュリティ・アセスメントサービスは、日本語で言うと成熟度の評価・分析です。私はこれをクラウド運用の「健康診断」だと説明しています。お客さまのクラウド運用改善に取り組むためには、お客さまの現在の状態を正確に把握する必要があります。健康診断で例えるなら、血糖値はどうなのか、血圧は高いのか低いのか、体脂肪はどうなのかといった検査をするのと同じように、私たちはお客さまのクラウド運用を入念にチェックさせていただき、課題を抽出していきます。岡部のチームが提出するレポートは、第三者の専門家による子細な評価・分析としてこれまでお客さまから高い評価をいただいています。
岡部
マチュリティ・アセスメントはグローバル共通の方法で行っています。具体的には、事前のヒアリングや情報収集のあとに、オブザーバビリティ(可観測性)、インシデント管理、リリース管理、スケーラビリティ(拡張性)、レジリエンス(回復性)の5つの領域について運用部門の方にそれぞれ2時間ほどインタビューを行います。その結果を基にお客さまの運用の成熟度を評価し、レーダーチャートの5段階評価で可視化します。
私たちは診断と共に、目標成熟度を設定し、それを達成するためには何を重点的に改善すれば良いかを併せてレポートします。SRE(※1)で重要なことはトイル(※2)の削減ですから、手動工程をできる限り自動化することでコストもインシデントも削減できる、といった説明をします。
※1 Site Reliability Engineering:開発チームと運用チームが連携し、迅速にシステムの改善を実現するとともに、システムの信頼性を向上させるための方法論。
※2 トイル(toil):サービスの提供に欠かせない作業の中で、自動化が可能であるにもかかわらず手作業で行われているもの。
――評価を聞いた時のお客さまの反応はいかがですか。
岡部
SREのスタートラインは5段階評価の3においています。5というスコアは、理想的な組織文化ができているので何も問題はありませんという評価です。実際には、1から2の間のスコアになることが多く、お客さまはその評価に驚かれます。しかし、私たちはこの評価の原因や影響、今後の改善のポイントなどを詳しくご説明し、現状を正しく認識することこそが改善のスタートであるとまずお伝えします。
酒井
そして実際に運用改善と取り組む時には、日立のクラウドエンジニアがお客さまと伴走する「マネジメントサービス」をご活用いただくことになります。(第3回へつづく)
あなたの知らないクラウド運用へ Hitachi Application Reliability Centers (HARC)
酒井宏昌(さかい ひろまさ)
株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長
1989年、日立製作所に入社。通信・ネットワーク機器、ストレージ・サーバ等の海外への拡販や新規事業推進に従事。2016年からデータ利活用を可能にするプラットフォーム「Pentaho」の拡販・営業支援を経験したのち、2022年より現職。
檜垣誠一(ひがき せいいち)
株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長 兼 HARCグローバルビジネス推進センタ センタ長
1993年、日立製作所に入社。ストレージ等のIT製品事業の海外展開に従事。2015年からHitachi Vantaraの米国本社に出向し海外での業務に従事後、2022年より現職。
岡部大輔(おかべ だいすけ)
株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長
1996年、日立製作所に入社。通信システムの設計・開発に従事。2018年からLSH(Lumada Solution Hub)ポータルやクラウド向けデジタルソリューションの開発を経験したのち、2022年より現職。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
私の仕事術
私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
EFO Salon
さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。
禅のこころ
全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋
明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。