「第1回:運用改善サービス『HARC』の誕生」
「第2回:クラウド運用の健康診断」はこちら>
「第3回:運用の成熟度は、運用者の成熟度」はこちら>
「第4回:HARCのカスタマージャーニー」はこちら>
「第5回:HARC活用事例:オリックス銀行」はこちら>
クラウド運用の課題解決に伴走するシェルパ
――はじめに、HARCにおける3名それぞれの役割について教えてください。
酒井
私はフロントに立って、HARCを理解していただくためのプロモーションやメディア対応、お客さまへの提案や見積り、契約交渉までを幅広く行っています。私たちはGo to Marketと呼んでいますが、実際の契約が済んでデリバリーに引き継ぐまでの業務全般が私の仕事になります。
檜垣
HARCは北米のHitachi Digital Services(※)がはじめたサービスですが、私はHARCを日本でリリースするためのHitachi Digital Servicesと日本をつなぐパイプ役を担ってきました。現在はHARCを軸にした戦略の立案やプロジェクトマネジメントを担当しています。
※ Hitachi Digital Servicesは、2023年11月1日付で、Hitachi Vantara LLCのデジタルソリューション事業を分社化し、クラウド、データ、IoTを駆使したサービスをベースに、OT×ITを実装するインテグレーターとして設立。
岡部
私はHARCのデリバリーリーダー、そしてサービス開発のリーダーという役割です。お客さまとの見積りや契約の段階から入り、サービス提供においてアセスメント(評価・分析)や、お客さまと伴走した運用改善を行います。それに加えて、日本のお客さまに向けたサービスのカスタマイズや、開発したサービスのエンハンスなども行っています。
――HARCというサービスの概要を解説してください。
酒井
HARCは、Googleが提唱しているSite Reliability Engineering(以下:SRE※)という運用手法をベースにしたクラウド運用改善サービスです。この手法に基づいて、複雑化・高度化するクラウドの信頼性とアジリティ(機敏性)を改善する。それがHARCです。
※ 開発チームと運用チームが連携し、迅速にシステムの改善を実現するとともに、システムの信頼性を向上させるための方法論。
私たちは「伴走」という言葉を使っていますが、お客さまのクラウド運用の課題に共に向き合い、解決するまでお付き合いさせていただく。運用というのはシステムが停止するまで続きますから、常により良い運用をめざしてクラウドエンジニアがシェルパ(※)のように伴走する、それがHARCというサービスです。
※ シェルパ:ヒマラヤにおける登山案内人
そして純粋にお客さまの課題解決にフォーカスしていることも、大きな特徴です。これまで日立はモノやシステム、ソリューションなどを売ることでビジネスをしてきました。しかしHARCはクラウドの運用課題に日立のクラウドエンジニアがお客さまと共に取り組み、運用を改善していくサービスです。何か形のあるものを売るわけではありません。
岡部のデリバリーチームには優秀なクラウドエンジニアが揃っています。AWSやAzure、Google Cloudの認定を全部持っている人や、AWS Top Engineersに選ばれている人など、クラウド運用に対するハイスキルな人財が豊富にいます。お客さまに伴走することでお客さまのクラウド運用の成熟度を上げていく。その時のシェルパは人ですから、人財こそHARCの最大のセールスポイントです。
クラウド運用の課題は世界共通
――HARCは北米で数年先行して生まれたサービスだということですが、このサービスが生まれた背景について教えてください。
檜垣
HARCが北米で誕生したのは2022年です。アメリカでは世界に先行してクラウドの導入が進んでいましたが、さまざまな課題が発生していました。そんなタイミングで、コンサルティングからシステム開発までを一貫して手がけるグローバル企業から、Hitachi Digital Servicesに加わったメンバーがいました。彼らはサービスのデリバリーなどの豊富な経験を持っていて、現場のクラウド運用の課題も認識していた。Hitachi Digital Servicesも自らのトランスフォーメーションを指向していた時期でもあったので、まずは社内ベンチャー的に取り組んだことが始まりでした。
実際にお客さまのところに提案を持っていくと、きわめて良い感触があったため、これをサービスとして展開することが決まりました。2022年9月には、ダラスにHARCのサービス拠点を開設し、事業として本格的な取り組みが始まりました。その後、Hitachi Digital Servicesから日本国内に向けての協業の話があり、2023年6月に日本でもHARCというサービスを立ち上げ、サービス提供しています。
――ビジネスとしての展開がとてもスピーディーですが、Hitachi Digital Servicesとの協業で何か壁はありませんでしたか。
檜垣
HARCはビジネスのグローバル拠点として、ダラスに次いでインドのハイデラバードに拠点を開設しています。その拠点に、岡部をはじめとする日本のデリバリースタッフは2回ほど、それぞれ数週間かけて、ナッレジトランスファーのトレーニングを受けに行きました。それをベースに日本におけるサービスを構築していきましたが、彼らとは直感的に組みやすい相手であると感じました。
酒井
私は檜垣と同様に以前からHitachi Digital Servicesの人たちと付き合いがありましたが、アメリカとインド、そして日本はとても相性がいいと感じています。彼らは積極的にコミュニケーションの時間を取ってくれるし、ユースケースなども概要を伝えるだけではなく、さまざまなノウハウやエンジニアリングの構造なども丁寧に教えてくれます。こういうグローバルチームの親密さも、大切な成功要因だと思います。パブリッククラウドは全世界共通なので、課題先進国であるアメリカやインドの事例は、日本で伴走する私たちにとって貴重な財産になっています。(第2回へつづく)
あなたの知らないクラウド運用へ Hitachi Application Reliability Centers (HARC)
酒井宏昌(さかい ひろまさ)
株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長
1989年、日立製作所に入社。通信・ネットワーク機器、ストレージ・サーバ等の海外への拡販や新規事業推進に従事。2016年からデータ利活用を可能にするプラットフォーム「Pentaho」の拡販・営業支援を経験したのち、2022年より現職。
檜垣誠一(ひがき せいいち)
株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長 兼 HARCグローバルビジネス推進センタ センタ長
1993年、日立製作所に入社。ストレージ等のIT製品事業の海外展開に従事。2015年からHitachi Vantaraの米国本社に出向し海外での業務に従事後、2022年より現職。
岡部大輔(おかべ だいすけ)
株式会社 日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部 クラウドマネージドサービス本部 クラウド&デジタルマネージドサービス部 担当部長
1996年、日立製作所に入社。通信システムの設計・開発に従事。2018年からLSH(Lumada Solution Hub)ポータルやクラウド向けデジタルソリューションの開発を経験したのち、2022年より現職。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
新たな企業経営のかたち
パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
Key Leader's Voice
各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
経営戦略としての「働き方改革」
今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
ニューリーダーが開拓する新しい未来
新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。
日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性
日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。
ベンチマーク・ニッポン
日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。
デジタル時代のマーケティング戦略
マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。
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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。
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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。
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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。
八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~
新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。