Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 技術顧問 兼 日立東大ラボ長 松岡秀行/ 日立製作所 研究開発グループ 脱炭素エネルギーイノベーションセンタ 環境システム研究部 主任研究員 吉本尚起
そもそも日立東大ラボ設立のきっかけは、故・中西宏明 前日立製作所会長と五神真 前東京大学総長が国の委員会で意気投合したことに端を発するという。日本の未来に思いを馳せ、次世代によりよい社会を引き継ぐために、数十年先の未来を見据えて、その手前に横たわる社会課題を解決していく必要があるという思いがあったのだろう。ビジョンから始まった活動は、少しずつ社会を変えつつある。

「第1回:書籍や提言書など、情報発信に注力」はこちら>
「第2回:統合的・定量的にエネルギーの未来を描く」はこちら>
「第3回:グローバル・イニシアティブの発揮へ」はこちら>
「第4回:スマートシティ実現のためのアーキテクチャ」はこちら>
「第5回:提言から社会実装へ」

産学協創で視野を広げる

――これまで日立東大ラボのエネルギーシステムとまちづくり、二つのプロジェクトの取り組みについて伺ってきました。活動のなかで苦労されたことはありますか?

松岡
書籍にしろ提言書にしろ、複数のワーキンググループの成果をまとめることになるので、ややもするとバラバラの内容になりがちです。そうしたことから、全体を貫く幹となる考え方を整理するところが一番、苦労しました。ただ、書籍にまとめるという活動を通じて考えを整理することができ、共通認識を持つことができたのは非常によかったと思います。

なかでも、書籍化にあたっては、現在、東大で副学長を務められている出口敦教授・日立東大ラボ長のご尽力がきわめて大きかったと言えます。出口先生に限らず、東大の先生との連携活動というのは非常に貴重な経験であり、皆さん前向きに取り組んでくださっていることには心より感謝しています。日立のメンバーだけだとどうしても枠が小さくなってしまうので、さまざまな分野の先生方の視点が入ることにより、広がりのある活動ができてきたのは大きな価値だと思います。

画像: ――これまで日立東大ラボのエネルギーシステムとまちづくり、二つのプロジェクトの取り組みについて伺ってきました。活動のなかで苦労されたことはありますか?

吉本
特にエネルギー プロジェクトに関わっている先生方は、国のさまざまな委員会に参画されていることもあって、俯瞰的、長期的な視点で物事を捉えていらっしゃるんですね。われわれも知見を広げる重要な機会得ることができています。

――逆に東大の先生方は日立にどのようなことを期待されているのですか?

吉本
やはり日立はメーカーなので、Society 5.0を具体化するための製品やテクノロジー、定量評価のためのツールなど、メーカーならではの知見が求められています。お互いの知見を持ち寄り、まさに産学協創により新たな価値を生み出すという連携ができていると思っています。

画像: ――逆に東大の先生方は日立にどのようなことを期待されているのですか?

故・中西前会長の思いを引き継いで

松岡
実は東大側から見れば、企業との産学協創プロジェクトの第一号がこの日立東大ラボなんですよ。日立東大ラボの取り組みが、他の企業の参入を促したという意味では、企業大学ラボの先駆けとしての自負もあります。いまや10社以上の企業が東大との産学協創プロジェクトに参入していますからね。

それももとをたどれば、2050年視点での長期的なエネルギー政策の方向性を検討する、経済産業大臣主催の「エネルギー情勢懇談会」や「総合科学技術・イノベーション会議」の場で、故・中西宏明 前日立製作所会長と五神真 前東京大学総長が意気投合されて、日本の未来をより良いものしたいという熱い思いをもって、産学連携の新たな姿、イノベーションエコシステムを構築すべく日立東大ラボを設立したという経緯があるのです。そうした長期的、俯瞰的な国の委員会が端緒になったというのは、日立東大ラボの存在意義を示唆していると思います。まさに長期ビジョンを示す役割を担ってきたわけですね。

未来の具体像を描き、ビジョンから実装へ

松岡
一方で、単にビジョンを語るだけでなく、やはりここでの取り組みを、いかに実装、さらには事業につなげていくのか、ということも非常に重要なテーマです。実際に、日立東大ラボでの取り組みが直接的に事業につながったとまでは言えないまでも、関連する事業において、受注に結びついた事例も出始めているのです。

吉本
一例として、送配電システムズ合同会社(一般送配電事業者である国内10社の共同出資で設立)が開発を進めている次期中央給電指令所システム(中給システム)の構築を、日立が受注しました。中給システムとは、電気の需給バランスを取る役割を担っているのですが、これまで各電力会社が個別の仕様で、それぞれ一品モノのシステムを有していたんですね。これを、電気の広域連携に伴いすべてを統一的な仕様に変えるというもので、2028年に初稼働を予定しています。電力システムを取り巻く環境の不確実性が増すなかで、中給システムの共有化はきわめて重要な意味を持ちます。

画像: 未来の具体像を描き、ビジョンから実装へ

松岡
これももとをたどれば、故・中西前会長が予言されていたことでもあったんですね。いずれ、個別の電力会社だけで閉じている世界は終わるだろう、と。その通りになったわけですが、その前段階として、データを活用しながら客観的に評価・発信していく必要がある、というところから日立東大ラボはスタートしたわけで、われわれの活動が間接的に役立ったのではないかと思っています。

吉本
実際にわれわれの活動――フォーラムやクローズドのワークショップに、電力会社をはじめ、関連する事業者、政策立案者の方々にもご参加いただいたことが、エネルギーシステムの議論に影響を与えてきたと言っていいかと思います。まさに、ビジョンが社会を動かしてきたわけですね。今後はビジョンをより明確化し、個別のアーキテクチャを示しながら、未来の具体像を描いていかなければならないと思っています。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

「第1回:書籍や提言書など、情報発信に注力」はこちら>
「第2回:統合的・定量的にエネルギーの未来を描く」はこちら>
「第3回:グローバル・イニシアティブの発揮へ」はこちら>
「第4回:スマートシティ実現のためのアーキテクチャ」はこちら>
「第5回:提言から社会実装へ」

画像1: 日立東大ラボ編・超スマート社会を次世代エネルギーとまちづくりで実装する
【第5回】提言から社会実装へ

松岡秀行(まつおか・ひでゆき)
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 技術顧問 兼 日立東大ラボ長。1987年日立製作所入社。中央研究所で、半導体デバイスの研究開発に従事。2004年同所ULSI研究部部長、2005年基礎研究所ナノ材料デバイスラボ ラボ長、2011年日立金属株式会社磁性材料研究所所長を歴任。2013年研究開発グループ主管研究長、2016年より日立東大ラボ長を兼務。2022年より現職。理学博士。

画像2: 日立東大ラボ編・超スマート社会を次世代エネルギーとまちづくりで実装する
【第5回】提言から社会実装へ

吉本尚起(よしもと・なおき)
日立製作所 研究開発グループ 脱炭素エネルギーイノベーションセンタ 環境システム研究部 主任研究員。 2003年日立製作所基礎研究所入社。2017年より日立東大ラボ。専門は環境機能材料、エネルギーマネジメント、再生可能エネルギーの建築設備応用。博士(工学)、技術士(化学、総合技術監理部門)。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.