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日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 技術顧問 兼 日立東大ラボ長 松岡秀行/ 日立製作所 研究開発グループ 脱炭素エネルギーイノベーションセンタ 環境システム研究部 主任研究員 吉本尚起
「2050年の社会課題を考える」では、「少子高齢化」「都市問題・コミュニティの課題」「地球温暖化・サステナビリティ」など、日本の未来を大きく左右する社会課題について、2050年からのバックキャスティングで、解決のためのヒントを探っていく。プロローグとして、日立製作所が2016年に東京大学、京都大学、北海道大学と、それぞれ大学内にラボを設置して進めてきた協創について取り上げたい。日立北大ラボ、日立京大ラボに続き今回は、Society 5.0(超スマート社会)の実現に向けたビジョン創生や、ポストコロナへ向けた社会課題解決モデルの発信を目的として、次世代のエネルギーシステムとまちづくりをテーマに政策提言などに取り組む、日立東大ラボの活動を紹介する。

「第1回:書籍や提言書など、情報発信に注力」
「第2回:統合的・定量的にエネルギーの未来を描く」はこちら>
「第3回:グローバル・イニシアティブの発揮へ」はこちら>
「第4回:スマートシティ実現のためのアーキテクチャ」はこちら>
「第5回:提言から社会実装へ」はこちら>

「まちづくり」と「エネルギーシステム」を軸に

――日立東大ラボの全体像について教えてください。

松岡
日立東大ラボでは、図1に示したように、「Society 5.0の実現に向けたビジョン創生」と「ポストコロナへ向けた社会課題解決モデルの発信」を目的に活動しています。つまり、めざすのは新たな社会像「Society 5.0=超スマート社会」の実現であり、日立と東大、それぞれの強みを生かしながら組織対組織の協創活動を通じて、ビジョン形成、さらには実際に社会課題を解くところまでを視野に入れて取り組んできました。

なお、2016年〜2019年までをPhase1、2020〜2022年をPhase2、2023〜2025年をPhase3とし、段階を経るごとに活動の幅を広げています。

具体的なテーマとしては、大きく二つを掲げています。温室効果ガス排出量ネットゼロ社会の実現に向けたトータルエネルギーシステムの構築をめざす「エネルギー プロジェクト」と、データ駆動型で人間中心のまちづくりをめざす「ハビタット・イノベーション プロジェクト」です。つまり、エネルギーシステムとまちづくりという、人口減少や少子高齢化、AI技術の進展など、今後、社会・経済の構造が大きく変化し、国内外の課題が増大・複雑化するなかで、長期的な視点で議論が必要とされる重要テーマを掲げています。

画像: 図1 日立東大ラボフェーズ全体像

図1 日立東大ラボフェーズ全体像

――活動のなかでどういった点に力点を置いてこられたのでしょうか?

松岡
まずは提言のまとめや書籍の出版など、情報発信です。ハビタット・イノベーション プロジェクトに関しては、すでに2冊の書籍を上梓しています。エネルギー プロジェクトについては、Phase1で次世代グリッドにフォーカスしながらトータルエネルギーシステムに関する提言書をまとめるところからスタートしました。Phase2からは、ネットゼロ社会の実現をめざして、電力だけでなく、電力部門以外の非電力部門(産業、運輸、民生)も含めたエネルギーシステムの全体設計に取り組むなど、社会情勢の変化に応じて提言書の内容を柔軟に更新、深掘りしてきました。2024年3月現在、第5版までWeb上で公開しています。

画像: ――活動のなかでどういった点に力点を置いてこられたのでしょうか?

提言がデータ公開を後押し

――活動は順調に進んできたのでしょうか。

松岡
情報発信という点では非常にうまくいったと思います。単に提言にまとめるだけでなく、官庁や電力会社の関係者を招いたクローズドのワークショップや、一般向けのオープンフォーラムなども開催し、情報共有に努めてきました。

一方、社会実装やグローバルプレゼンスという点ではコロナ禍もあって思うように進められなかったと感じています。フォーラムにしても国内での開催でしたし、ドメスティックに閉じた議論になりがちでした。こうしたことから、2023年に始まったPhase3からは、海外の研究者とともにグローバルに共通する課題を解決していこうとしています。

――特にエネルギーシステムに関しては、国際情勢に伴い、ここ数年間で状況が大きく変化しましたね。

吉本
おっしゃる通り、2016年にエネルギー プロジェクトをスタートした時点では、カーボンニュートラルという言葉もまだ浸透していませんでしたし、われわれも電力だけにフォーカスをしていたのです。2015年のパリ協定を経た2016年5月に、日本政府は、2050年に80%の温室効果ガス削減という長期目標を閣議決定しましたので、その実現に向けて、まずは電力システムについて、東京大学の先生方と一緒にシミュレーターを活用しながら議論を重ねていました。ただ、このときはデータが足りなくて、シミュレーションをするにも苦労していました。

画像: ――特にエネルギーシステムに関しては、国際情勢に伴い、ここ数年間で状況が大きく変化しましたね。

――データが足りなかったというと?

吉本
2015年に電気事業法が改正され、2020年から発送電分離、つまり発電事業者と送配電事業者が分かれたのですが、当時は発電と送配電が一体だったために、送配電に関するデータなどはまったく公開されていなかったのです。データがないので、そもそも客観的な検証が難しい状況でした。そこで、プロジェクトのスタート当初は、Googleマップを見ながらひとつずつ送電鉄塔を調べて、東日本や西日本の送電網図を自分たちで描いていたほどです。

折しも、東日本大震災を経て電力会社の変革が迫られるなか、電力システムに関して客観的な検証が求められていました。そこでわれわれは提言書(第1版)において、データを公開し、地域社会と送配電網を含めた基幹システムの協調メカニズムを客観的に導き出せるようにすべきと、提言ビジョンとしてまとめたのです。その影響もあったのか、2018年以降はデータの公開が進み、Google マップに頼る必要がなくなったというわけです。

画像: 日立東大ラボの入居する東京大学工学部3号館

日立東大ラボの入居する東京大学工学部3号館

政策立案にも提言書が生かされた

――提言が電力業界を動かしたわけですね。

松岡
2020年に、「エネルギー供給強靭化法」という、電気を安定供給するための体制構築を目的とした法律が成立したのはご存知でしょうか(2022年4月施行)。これは、災害などでエネルギーが足りなくなったときに、ガスや石油の備蓄を安定的に供給できるような約束事を決めた法律ですが、その法案の検討段階でもデータ検証の重要性が議論され、そのなかでわれわれの提言書が引用されています。つまり、電力業界だけでなく、政策立案にも影響を与えているのです。

吉本
このように、われわれの提言がきっかけになってデータ公開が進み、オープンに議論できる下地ができ、政策立案にもインパクトをもたらしたというのが、エネルギー プロジェクトPhase1の一番の成果と言っていいでしょう。(第2回へつづく

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

「第2回:統合的・定量的にエネルギーの未来を描く」はこちら>

画像1: 日立東大ラボ編・超スマート社会を次世代エネルギーとまちづくりで実装する
【第1回】書籍や提言書など、情報発信に注力

松岡秀行(まつおか・ひでゆき)
日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 技術顧問 兼 日立東大ラボ長。1987年日立製作所入社。中央研究所で、半導体デバイスの研究開発に従事。2004年同所ULSI研究部部長、2005年基礎研究所ナノ材料デバイスラボ ラボ長、2011年日立金属株式会社磁性材料研究所所長を歴任。2013年研究開発グループ主管研究長、2016年より日立東大ラボ長を兼務。2022年より現職。理学博士。

画像2: 日立東大ラボ編・超スマート社会を次世代エネルギーとまちづくりで実装する
【第1回】書籍や提言書など、情報発信に注力

吉本尚起(よしもと・なおき)
日立製作所 研究開発グループ 脱炭素エネルギーイノベーションセンタ 環境システム研究部 主任研究員。 2003年日立製作所基礎研究所入社。2017年より日立東大ラボ。専門は環境機能材料、エネルギーマネジメント、再生可能エネルギーの建築設備応用。博士(工学)、技術士(化学、総合技術監理部門)。

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