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日立製作所 加治 慶光 高野 晴之 枝松 利幸 建築家 坂 茂氏
2023年12月15日、『サステナブルな地域創生とDX』をシリーズテーマに日立製作所主催の2回目のイベントが開催された。ゲストは、建築家 坂 茂(ばん しげる)氏。イベント採録の第4回目は、日立製作所で社会課題の解決と取り組んでいる2人のパネリストを交え、Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光の進行で行われたトークセッション前篇をお届けする。

「第1回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(前篇)」はこちら>
「第2回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(後篇)」はこちら>
「第3回:「動都」の持つ可能性」はこちら>
「第4回:地域創生の実際(前篇)」
「第5回:地域創生の実際(後篇)」はこちら>

ウェルビーイングのお手本

加治
ここからは日立製作所で社会課題の解決と取り組む二人の仲間を加え、坂さんとディスカッションしていきたいと思います。まずは高野さん、自己紹介をお願いします。

高野
日立の高野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。私は1997年に日立製作所に入社しまして、映像システムや通信システム、道路交通システムといった社会インフラに携わってまいりました。ここ数年はコンシューマー向けの新事業やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス:サービスとしての移動)のアプリケーション開発など、日立として新しい領域にチャレンジするところで仕事をしています。

画像: 日立製作所 高野 晴之

日立製作所 高野 晴之

今現在はSociety 5.0の社会実装、すなわち一人ひとりが環境や社会に貢献しながら自分自身も豊かに生活できる、そんな社会課題解決型の事業開発、特にこれからの日本社会で肝となる地域のウェルビーイングと取り組んでいます。

加治
ありがとうございます。高野さんは先ほどの坂さんのお話を伺ってどんな感想を持たれましたか。

高野
非常に興味深い内容でした。私は災害支援というのは一時的なものだと思っていましたが、地域の人に愛されることでパーマネントな存在になるというお話は大変感銘を受けました。そして避難所の間仕切りは、ウェルビーイングのお手本だと思いました。


たとえ一時的な避難所だとしても、とても住むことができないと車中泊をしてエコノミークラス症候群で亡くなる女性は多いそうです。プライバシーというのは人として最低限守らなければいけないことで、避難所の間仕切りは命を守ることでもあるのです。

デザインシンキングとは

加治
次は枝松さん、自己紹介をお願いします。

枝松
枝松利幸と申します。日立製作所で業務コンサルタントをやっております。私は、2012年のころからデザインシンキングを活用したコンサルティングに取り組んできています。2015年にある自治体の仕事をさせていただいて、それ以降は地方自治体や行政、社会インフラ事業者の業務改革やDXといった仕事を主に行っています。

画像: 日立製作所 枝松 利幸

日立製作所 枝松 利幸

水道事業という領域で、浄水場設備の維持・管理システムの業務改革という仕事をやらせていただいた時に、水というインフラには水道法等の法規制もあり、市町村単位での運営が、かなり限界に近い状態になっている地域が多いことを知りました。日立には、事業を超えたソリューションで社会課題を解決するLumadaというコンセプトがあるのですが、私はさまざまな事業で培った日立の成果を使って最適な解決方法を見つけ出し、全国の水道事業に展開したいと考えています。

先ほどの坂さんのお話の中で、建物はもっと動いていいという事例をご紹介いただきましたが、非常に共感でき、目からうろこが落ちる思いがしました。

加治
ありがとうございます。今小さな声で坂さんから「デザインシンキングって何?」という声が聞こえました。枝松さん、ご回答いただけますか。

枝松
デザインシンキングというのは、課題解決という目的を達成するために、実際の現場で業務なりサービスなりを体験し、何が課題なのかを探索する。その課題に対してさまざまなアイデアを試行錯誤しながら、本当に有効な解決策を生み出していく考え方です。

ひとつ具体例をあげてご説明します。ある自動車のディーラーから、これからは紙のカタログではなく、タブレットでクルマの販売をしたいという依頼がありました。その時は単に紙のカタログを電子化する検討をする前に、実際に車を購入するお客さまとやりとりする現場に密着させていただいたところ、紙の体験が悪いのではなくて、見積書を作るために営業の方が長く席を外すことがお客さまの最大のストレスであることがわかったのです。そこもふまえて、タブレットで車の説明から見積作成までをその場で行えるように機能を整理しました。こういった課題の探索を大切にして解決策を作り出す、それがデザインシンキングです。


ありがとうございます。

地域創生の課題

加治
それでは最初のトピックに入りたいと思います。まず、実際の地域創生への取り組みで見えた課題について。これは高野さんからお願いします。

高野
経済優先で進んできたこれまでの私たちの社会は、多くの課題を生み出し、地球環境へも悪い影響を与えてきました。これからは社会、環境、経済の価値が成立する社会課題解決型の事業を作る必要があると考えています。そのひとつのアプローチが地域創生です。

公的主導が限界を迎えつつあり、かつ人々の価値観が変化している地域で、自治体・企業・住民が一体となって自律的な社会を実現するために必要なことは何か。ヘルスケアや教育などで、私たちはいくつかの取り組みを行っています。スライドをご覧ください。

画像: ウェルビーイング領域における地域創生の取り組み

ウェルビーイング領域における地域創生の取り組み

例えば高齢者の健康のデータを収集・分析して、介護や認知症の予防に役立てる。はじめてお母さんになる妊婦さんの健康やメンタルを、コミュニケーションでサポートする。最新のWeb3.0の技術を活用して、住民同士が助け合える共助のプラットフォームを作る。こういった実証を、日立だけではなく地域のNPO法人にご協力いただきながら行っています。

取り組みを行う中で、地域が抱える共通の課題も見えてきました。1つは“場”です。地域の活性化にはみんなが集まるオープンな場が必要ですが、物理的に場がない、特定の人だけの閉じた場になっている、維持が大変で使われなくなっているといったケースが多く見られます。2つ目は“連続性”です。例えば健康維持には、高齢者になる前の中年とか若年時のデータが重要なのですが、課が違うといった縦割りの理由で個人を連続的に見守ることができない。3つ目は“時間軸”で、健康のための施策を打って定量的な効果が出るまでには、どうしても数年単位の時間がかかりますから、自治体として投資が難しいという課題です。

私たちの取り組みも、まだまだ道半ばのものが大半です。その要因はさまざまですが、いちばん大きいのはやはりマネタイズの問題です。地方の場合かけられる予算が限られるので、企業が取り組むには規模が足りないという課題がついて回ります。私たちはどこかひとつの地域で特定の課題を集中的に解決し、それを束ねていくことで他の地域へと展開できるのではないか。そんな仮説を立てて、日々の課題解決と取り組んでいます。(第5回へつづく

「第5回:地域創生の実際(後篇)」はこちら>

画像1: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】地域創生の実際(前篇)

坂 茂(ばん しげる)

1957年東京都生まれ。クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)で建築を学び、東京、パリ、ニューヨークに事務所を構える。紙管を使った建築や、木材を使った革新的な構造で知られている。代表作はポンピドー・センター‐メス(2010年)、紙の大聖堂(2013年)、大分県立美術館(2014年)、ラ・セーヌ・ミュジカル(2017年)、富士山世界遺産センター(2017年)、SIMOSE(2023年)。1995年、NGO「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」を設立し、世界各地での災害支援に数多く貢献したことからプリツカー建築賞(2014年)、マザー・テレサ社会正義賞。

画像2: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】地域創生の実際(前篇)

加治 慶光(かじ よしみつ)

株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

画像3: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】地域創生の実際(前篇)

高野 晴之(たかの はるゆき)

株式会社日立製作所 社会イノベーション事業統括本部 ウェルビーイングソサエティ事業創生本部 本部長
1997年日立製作所に入社。公共・社会システムやスマートシティ領域にかかる業務に従事しつつ、グループ会社や国土交通省への出向などを経験。入社以来、一貫して新事業創生・新規領域開拓につとめ、現在はSociety5.0の社会実装に向けた、将来価値基点にもとづく社会課題解決型事業の創生に取り組む。

画像4: サステナブルな地域創生とDX
【第4回】地域創生の実際(前篇)

枝松 利幸(えだまつ としゆき)

株式会社日立製作所 デジタルビジネスプロデューサー/業務改革コンサルタント
2006年日立製作所に入社。日立総研、日立コンサルティングへの実習や出向を経て、社内SNSの活用やナレッジマネジメントのコンサルタントとして活動。その後、ロジカルシンキングとデザインシンキングを組み合わせた顧客協創活動による業務改革を、インダストリーや公共、社会を含む複数分野における顧客向けに実践。現在は、複数の事業分野に跨るデジタルトランスフォーメーションの実践と取りまとめ業務に従事。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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