Hitachi
お問い合わせお問い合わせ
2023年12月15日、『サステナブルな地域創生とDX』をシリーズテーマに日立製作所主催の2回目のイベントが開催された。ゲストは、紙管を使った建築や災害支援活動などで世界的に活躍されている建築家 坂 茂(ばん しげる)氏。イベント採録の第3回目は、第2部のモデレーターであるLumada Innovation Hub Senior Principalの加治 慶光による坂茂氏へのインタビューの模様をお届けする。

「第1回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(前篇)」はこちら>
「第2回:作品づくりと社会貢献の両立をめざして(後篇)」はこちら>
「第3回:「動都」の持つ可能性」
「第4回:地域創生の実際(前篇)」はこちら>
「第5回:地域創生の実際(後篇)」はこちら>

パーマネントか仮設か

加治
坂さん、ご講演ありがとうございました。トークセッションの前に、私の方から少しご質問させていただきたいと思います。もともとルワンダの紛争がきっかけで、災害支援にお力を使われるようになったという話がありました。その後も毎年毎年、次から次へと起こっている災害に対して、坂さんはどんな思いに突き動かされ活動されているのでしょうか。


僕自身は、そんな特別なことだとは全く思っていないです。例えばお医者さんの目の前にけが人がいたら、相手が敵だろうと治療しますよね。建築家として、目の前に住環境で困っている人がいれば、何とかしようというのは当たり前のことで、それが特別なことだとは思っていないです。

加治
最初に支援活動でルワンダに行かれる、そのきっかけは何だったのですか。


先ほども少し触れましたが、建築事務所を作って10年ほど経った頃、お金持ちの大きな仕事をやらせていただくのは楽しいのですが、同時に虚しさも感じました。せっかく自分が勉強してきた建築で、何か社会の役に立ちたい。社会に変化を起こすような仕事がしたいのに、虚しさばかりが大きくなる。その思いが、被災地支援のきっかけになりました。

加治
先ほどの講演の前半にあった作品づくりと、後半の被災地の支援活動。坂さんの中ではパーマネントな建築と課題解決としての仮設の建築、その取り組み方に何か違いはありますか。


僕も商業建築はやります。しかし、それがパーマネントに残るかどうかはわかりません。赤坂見附の高層ホテルのように、30年持たない可能性もあります。一方で阪神大震災の時の長田区の紙の教会が、台湾に移設されていまだに愛されて使われているケースもあるのです。僕は災害支援だから仮設だとは全く思っていませんし、パーマネントな建築として作ったものがずっと残るとも思っていないです。仮設かパーマネントかというのは、材料が何でできているかではなくて、それを愛し使い続ける人たちがいるかどうか。ですから商業建築は、全て仮設だと思ったほうがいいです。

加治
ということは、坂さんの中で長く残り続けるかどうか、作った時には分からないということなのですね。


はい、分からないし、それが重要なことだとは思っていないです。

画像: パーマネントか仮設か

首都を動かすという「動都」の可能性

加治
日立は2010年頃から社会イノベーションをテーマに掲げて、サーキュラーエコノミーという循環する経済の仕組みを作るさまざまな取り組みを行っています。今日いらしている皆さまも、よりよい社会づくりに関心を持たれている方たちだと思います。そういう意味でも、坂さんが研究されている首都を動かす「動都」という考え方は、非常に興味をそそられるテーマだと思います。この「動都」について、お話いただけますか。


今年慶應大学を定年退職したのですが、それまで慶應の研究室でずっと学生と一緒にやっていたテーマのひとつが「動都」です。ご存じのように日本でも、かつては首都を移す「遷都」が行われてきました。最近ではインドネシアがやっていますね。日本でも1990年代に本格的に国会で語られ、議論されたのですが、バブルがはじけたりいろいろあって廃案になってしまいました。

しかしここまで東京が巨大化・集中化してしまうと、災害の問題もありますし、地方創生もなかなか進みません。ですから「遷都」という考え方はあり得ると思うのですが、実際に首都を移すには膨大なコストと時間がかかりますし、畑を壊して木を切り倒し、山を崩してやるということは不可能だと思います。しかもそれで喜ぶのは、地元の政治家とデベロッパーなわけです。

ではどうやって東京の一極集中を解決していくのか。場所を決めてそこに首都を移す「遷都」ではなく、オリンピックのように4~5年おきに首都を動かす「動都」が有効なのではないかというのが僕たちの考え方です。首都の一部の機能を、オリンピックのように日本の中枢都市に動かす。国会議員は、もともと国会の開かれる150日はオリンピック選手と同じように日本中から来ていますから、場所は問題ないと思います。しかも「動都」は、全ての機能を移すわけではなくて一定の機能を移すのです。

昔はオリンピックというと、高速道路を通したり電車を通したりと大規模にインフラを整えていました。しかしこれから必要なのは、交通インフラではなくデジタルインフラです。日本はスーパーシティ構想といってもなかなか進まないので、そのきっかけとなるグレートリセットが必要です。そのためにも、首都機能を日本中に動かす「動都」は有効だと思います。

加治
コロナ禍でデジタルによるスマートなワークスタイルを実現した私たちに、デジタルインフラが有効であるという今のお話は大いに納得できます。


では「動都」を行うタイミングはいつなのか。国会議事堂は、1936年に建てられました。設計から完成まで22年間かかっていて、その間に2回仮設の国会議事堂が焼失しています。日清戦争の時には臨時帝国会議を広島で行った、つまり首都機能を移したこともあるのです。首都あるいは国会というのは、歴史的に見ても決して動かせないわけではありません。

そして1936年にできた国会議事堂というのは、現在の耐震・耐火基準に合格した建物ではないのです。この話を国会議員の人たちにすると、皆さんとても驚かれます。2年半前に大きな予算を組んで、大手設計事務所に耐震診断を発注しました。来年には結果が出るはずです。(※) それに基づいて国会議事堂の素晴らしい意匠を壊さないように、耐震・耐火の補強工事を行うことになるでしょう。これは大工事になるはずですから、一度は国会を閉めなければなりません。僕は、それが「動都」のタイミングだと思っています。一極集中の日本が変わる絶好のチャンスです。

国会議事堂本館耐震改修基本計画等検討業務 050612announcement.pdf(shugiin.go.jp)

加治
ありがとうございます。この数年、日本では私たちが目をそらしてきた「不都合な真実」を直視せざるを得ない出来事が次々に起きています。今日の坂さんのお話には、そんな現実に向き合うための貴重な学びがあります。ここからは2人の日立の仲間も呼び込んで、ディスカッションしていきたいと思います。(第4回へつづく

「第4回:地域創生の実際(前篇)」はこちら>

画像1: サステナブルな地域創生とDX
【第3回】「動都」の持つ可能性

坂 茂(ばん しげる)

1957年東京都生まれ。クーパー・ユニオン建築学部(ニューヨーク)で建築を学び、東京、パリ、ニューヨークに事務所を構える。紙管を使った建築や、木材を使った革新的な構造で知られている。代表作はポンピドー・センター‐メス(2010年)、紙の大聖堂(2013年)、大分県立美術館(2014年)、ラ・セーヌ・ミュジカル(2017年)、富士山世界遺産センター(2017年)、SIMOSE(2023年)。1995年、NGO「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」を設立し、世界各地での災害支援に数多く貢献したことからプリツカー建築賞(2014年)、マザー・テレサ社会正義賞。

画像2: サステナブルな地域創生とDX
【第3回】「動都」の持つ可能性

加治 慶光(かじ よしみつ)

株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.