「第1回:夢をかなえるフィールド」はこちら>
「第2回:すべての基本は人作り」
「第3回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その1」はこちら>
「第4回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その2」はこちら>
「第5回:社会課題に向き合うマネジメントの知恵 その3」はこちら>
地域創生の新拠点『エスコンフィールドHOKKAIDO』
加治
今年の3月、北海道の地域創生の新しい拠点として『エスコンフィールドHOKKAIDO』がオープンしました。栗山さんも関わっておられるということですが、この施設について解説いただけますか。
栗山
これは僕が監督になった時から、北海道日本ハムファイターズには野球場を核にしたスポーツの拠点となる新しい施設を作りたいというビジョンがありました。2023年、その夢がついに実現したのです。皆さんも機会があればぜひ一度訪ねてみてください。僕は世界中の野球場を数多く見てきましたが、現時点ではこの球場が設備も環境も世界一だと思います。
まずここは、日本ではじめての開閉式屋根付き天然芝の球場です。ファンファーストとプレイヤーファーストの両立をめざした設備は、訪れた人にもプレーする選手たちにも気持ち良くなっていただけるような配慮が施されています。たとえば360度回遊できるコンコースや球場を望むホテル、フィールドが一望できるブルワリーレストラン、世界最大級の大型ビジョンなど、見所が満載で野球がない時でも楽しめる球場です。
選手にとっても、ベンチ裏にバッティングマシンがあって試合中でも球を打って練習ができるとか、最高のパフォーマンスを発揮するための設備が整えられています。ここは本当にファイターズ関係者の夢や思いがぎっしりと詰まった場所なのです。
『エスコンフィールドHOKKAIDO』があるところは、北海道の北広島市というまだまだ自然が多い街ですが、これからこの球場を中心に街が発展し、地域創生のモデルケースになって欲しいと願っています。例えばアメリカの場合、アリゾナの何もないところにまず野球場とキャンプ地を作る。そこを中心に街が作られて、10年後には本当に見違えるような素晴らしい街に発展していたりします。これを北広島で実現して、日本全国に展開させたい。
僕は日本全国47都道府県に2軍の球場を作って、47の2軍のチームを作るという夢を持っています。そこで子どもたちもプロをめざして練習をしたり、大会を行えるような環境を勝手に夢見ていて、自分でも発信したりしていますが、『F ビレッジ 北海道ボールパーク』と『エスコンフィールドHOKKAIDO』はそんな地域創生の象徴的な球場だと思います。
加治
ありがとうございます。今日は地域創生がテーマですが、地域創生にはブラウンフィールドとグリーンフィールドという概念があります。ブラウンフィールドっていうのはすでに街ができてしまっている地域で、何もない更地の地域がグリーンフィールドです。
栗山さんが作られた「栗の樹ファーム」もこの『エスコンフィールドHOKKAIDO』も、グリーンフィールドに新しい街をゼロから作るという試みです。重要なのは、何もないグリーンフィールドに未来を描ける人の存在です。その人がいるから、地域の人たちが共感し、協力し合いながらまち作りを積み重ね、地域創生が広がっていく。栗山さんは、そんな未来を見ることができる稀有な人だということがよくわかりました。
チーム作りもまち作りも、すべては“人作り”から
加治
栗山町では住民として、北広島市では北海道日本ハムファイターズのプロフェッサーとして地域創生と取り組まれている栗山さんが、その活動で一番大切にされていることは何でしょう。
栗山
僕は球団の関係者として『エスコンフィールドHOKKAIDO』のような環境作りもお手伝いしていますが、最後はやっぱり「人作り」だと思っています。結局人が育たないと、何も生まれないのです。僕は監督を辞めたときに、2軍に入ってきた選手たち一人ひとりと1対1で話しをしました。それは何かを教えるとかではなくて、彼らの話を聞いて一緒に将来のことを考えるということを面と向かってやるのです。これが、僕はすべての基本だと思っています。
加治
その栗山さんの人との接し方は、WBCの選手たちであれ、地域で活動する人たちであれ、共通するところですか。
栗山
はい、おっしゃる通りです。僕は侍ジャパンの選手たちに最後にお願いしたことは、「あなたたちは侍ジャパンの一員だと思わないでくれ」ということでした。日本代表を会社で例えると、選手には会社の一員ではなくその会社の経営者だと思って欲しかった。チームの一員というマインドだと、自分がやらなくても誰かがやってくれるだろうと思ってしまいがちです。でもその意識で経営はできないし、他人事だと思っている人間に誰かを巻き込むことはできません。
侍ジャパンの時にもそれを伝えたし、「栗の樹ファーム」を作る時にも町の人たちとそういう話をしました。チーム作りでも町作りでも、「他人事にしないで、自分たちでやろうぜ」という姿勢はまったく同じだと僕は思います。
加治
何かを成し遂げるためには、何より当事者意識が大切だという今のお話は、本当におっしゃる通りだと思います。そのマインドを持ってもらうために、マジックや簡単な方法はなくて、誠実に1対1で話しをするということですね。
栗山
はい、本当に真心をまともにぶつけ合うことしかないと思います。
加治
ありがとうございます。それでは最後に、本日参加されている皆さんは、新しい変革を起こそうと日々苦労されている方々だと思います。そんな皆さんに、ぜひ栗山さんからメッセージをいただければと思います。
栗山
今日は栗山町のことや北広島市のことを少し偉そうに話してしまいましたが、地域の人たちが将来幸せになるビジョンや方法を考えるというのは、本当に難しいことだということは僕も実感しています。簡単にはできないから、皆さんが苦労され、努力されているのだと思います。だから、何事も最初から「難しい」と思って構えておくことがいいのではないでしょうか。
プロ野球の一流の選手は、できないということをまったく意識していません。彼らに「これはできないです」という発想はなくて、今はできないだけでいずれできるようになる。そういう意識の人間が一流になっていくのです。とにかく最初は何でも「難しい」。でもいずれは乗り越えられるし、乗り越えた時に大きな喜びが味わえるので、皆さんもそれを信じて日々の仕事をがんばってください。
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栗山 英樹(くりやま ひでき)
1961年、東京都生まれ。東京学芸大学を経て、1984年にヤクルトスワローズに入団。1989年ゴールデングラブ賞を獲得。1990年に現役を引退した後は解説者として活躍するかたわら少年野球の普及に努め、2002年には名字と同じ町名の北海道栗山町に同町の町民らと協力して少年野球場「栗の樹ファーム」を開設。2004年からは白鷗大学でスポーツメディア論などの講義を担当した後、2012年からは北海道日本ハムファイターズの監督としてチームを2度のリーグ優勝に導き、2016年には日本一に輝く。2021年、野球日本代表監督に就任。2023年、WBCで優勝。現在、北海道日本ハムファイターズプロフェッサー。
加治 慶光(かじ よしみつ)
株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、 鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。
シリーズ紹介
楠木建の「EFOビジネスレビュー」
一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」
山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
協創の森から
社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。
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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。
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今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。
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