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小川氏は、長年に渡って日本のWeb、モバイルの変遷と並走するかたちで、シリアルアントレプレナー(連続起業家)として活躍してきた。マレーシアから始まった起業家としてのキャリアは、どのようにして現在のかたちに形成されていったのか。その経緯は、日本のソーシャルメディア、そしてオウンドメディアの現在、未来を知るための示唆に富んでいる。

「第1回:オウンドメディアは『雨だれ石を穿つ』ように継続するべし」はこちら>

マレーシアからスタートした起業家としての人生

――現在までのキャリアについてお聞きします。商社、大手メーカー、IT企業、ベンチャーなどを渡り歩き、その後、複数の企業を立ち上げられています。それぞれどんな経緯で歩んでこられたのですか。

小川
キャリアのスタートは商社でした。主に鉄鋼を扱う商社の貿易部門に所属し、鉄製品や産業機械などを東南アジアに輸出していました。新しい需要の創造と販路開拓のため、ビル建設のプロジェクトを受注するなど、徐々にいろいろな事業に携わるようになる中で、次第に自分の手で事業を興すことに慣れていった感覚ですね。

また、当時は1990年代後半で、東南アジアは景気がよかった。そこで、これを逃す手はないと会社を辞め、駐在先であったマレーシアで現地の日系企業向けにPCを販売するベンチャーを起業しました。

画像: 株式会社リボルバー 代表取締役CEOの小川 浩氏(※取材はリモートで実施)

株式会社リボルバー 代表取締役CEOの小川 浩氏(※取材はリモートで実施)

――90年代後半というと、「Windows 95」がリリースされてPCが急速に広まり、同時にインターネットが普及していった頃です。

小川
その頃の東南アジアには日系企業が相当数進出していたため、マレーシア、シンガポール、香港で、日系企業と在留邦人を相手にビジネスを行っていました。その後、インターネットの普及にともなってオンライン通販を始めたり、Web制作も手掛けたりしながら、少しずつ業容を広げていきました。

お話しした通り、私自身は商社の出身で、当初からITを志向していたわけではありません。ですが、PCやインターネットの登場、普及の過程に立ち合い、実際に触ってきたことが現在につながったといえるでしょう。また、商社で関わってきた建設とITの世界には、用語や標準規格への準拠が求められる点など、共通しているところが多くあります(※)。そのため、違和感なくITの世界に入れたのかもしれません。

※ IT業界でよく使われる「人月」「工数」などの用語は、もともと建築・土木などの事業管理用語が語源といわれる(諸説あり)

SNS全盛期に感じた違和感が創業のきっかけに

――その後、日本に戻られるわけですが、きっかけを教えてください。

小川
株式上場のためです。当時、外国人経営者が海外市場で上場するのは、ほぼ不可能だったので、日本に戻ろうと考えました。ところが、帰国するとインターネット・バブルがはじけ、仕方なくマレーシアの会社を手放しました。この先どうしようかと考えているところ、「インターネットに詳しい人間が欲しいんだ」ということで、縁があって日立製作所、次いでサイボウズという上場企業で働く機会を得たのです。その後、Webサービスを提供するベンチャーでCOO(最高執行責任者)も経験しました。

――2008年には「MODIPHI(モディファイ)」というテクノロジーベンチャーを起業しています。ここからリボルバー起業までは、どんな経緯があったのでしょうか。

小川
モディファイは、EIR(Entrepreneur in Residence:客員起業家制度)を使って立ち上げた、ソーシャルメディアマーケティングを支援するためのプラットフォームを開発するベンチャー企業です。EIRとは、ベンチャーキャピタル(VC)に所属しつつ、そのなかでビジネスモデルを考えて会社化する仕組みです。母体となるVCの支援を受けてビジネスを拡大できるのが特徴ですが、モディファイの場合は、ある事情でVCの支援がストップしてしまい、途中でプロジェクトが頓挫してしまいました。多くの社員も抱えるなか、生き残りを懸けて次の手を検討して考え付いたのが、今のリボルバーの根幹である「オウンドメディアを自分でつくる」というビジネスモデルです。

――アイデアの源泉は何だったのですか。

小川
当時はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が登場し、盛り上がっていた時期です。特に、それまでのブログやホームページにとって代わるものとしての「Facebookページ」が注目を集めていました。Facebookページがあれば、もはやホームページ自体不要であるというような極端な意見を述べる人もいたくらいです。

一方、私は「それは違う」と感じていました。良いコンテンツを作っても、外部のプラットフォームに預けている限りは、そのサービスを「止める」となったらすべて失われてしまいます。だからこそ、コンテンツはあくまで自分で保全し、管理すべきだと考えていたのです。

当時、オウンドメディアの定義はまだ曖昧でしたが、自分主導で、作ったコンテンツをアーカイブし、いつでも再利用できる場所が必要になるはずだと考えていました。
このアイデアをあるVCに相談したところ、「面白い、やってみなよ」と言っていただいたので、そこでリボルバーを立ち上げることにしたのです。

信頼できる、質の高いコンテンツが何より重要

――そこから、前回お聞きしたような流れで現在に至るのですね。ターニングポイントになった出来事はありますか。

小川
オウンドメディアのオープン化を考え始めた頃とほぼ同時期の2015、6年頃から、「キュレーションメディア」が流行り始めました。キュレーションメディアとは、さまざまな情報源から特定のテーマに基づくコンテンツを集め、編集して掲載するメディアのことです。短期間で急成長するメディアもあり、多くの模倣者や新規参入者が生まれたのですが、不正確な医療記事の粗製乱造や盗用が批判を集めた「WELQ問題」が発覚し、ブームは一気に冷え込みました。キュレーションメディアは自分でコンテンツをつくるのではなく、誰かがつくったコンテンツを収集し、編集して配信するわけですが、「自分自身でコンテンツを制作している」という責任感に乏しかった、ということです。

2016年末に起きたこの事件をきっかけに、「配信するコンテンツの品質には十分に責任を持たねばならない」という、当たり前と言えば当たり前なことに世の中が気づきました。リライトやコピペで済ませたり、いい加減なことを書いたり、それを編集部が十分なチェックもせずに見逃してしまうような安易なコンテンツづくりではダメ、ということです。
そうした風潮が一般化した2018年頃からは、一般企業でもお金と時間をかけてコンテンツをつくり、クレディビリティ(信頼性)の高いオウンドメディアをつくろうという流れが出てきました。

コンテンツマーケティングを志向するお客様の真摯で継続的な取り組みを、精一杯バックアップするのがリボルバーの役目だ――。キュレーションメディアの台頭と衰退を招いた「WELQ事件」は、このことをあらためて強く感じさせられた出来事でした。有益な情報をオウンドメディアで適宜発信し、読者を楽しませる。そうして生まれていくエンゲージメントを高めることがブランディングにつながる。簡単そうに見えてとても難しい試みだからこそ、続けていく価値があるし、リボルバーとして支援していく意味があるのだと思っています。

画像: 「ファストWeb」でコンテンツマーケティングに変革を
【第2回】国内外で複数企業の立ち上げを経て、リボルバー創業

小川 浩

商社勤務で東南アジアに駐在したのち、マレーシアでネットベンチャーを立ち上げる。帰国後、2001年5月から日立製作所、2005年4月からサイボウズに勤務。2008年、EIR(客員起業家制度)を利用してMODIPHI(モディファイ)を設立。2012年7月にリボルバーを設立し現在に至る。パブリッシングプラットフォーム「dino」を主力サービスとして、オウンドメディアを中心としたコンテンツマーケティング支援を行う。

「第3回:ポストコロナ時代のコンテンツマーケティングのキモは普遍性」はこちら>

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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