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気象予報士・フリーアナウンサー 酒井千佳 / 株式会社 日立製作所 執行役常務 金融ビジネスユニットCEO 山本二雄
台風の勢力増大、風雨や寒暖差の極端化など、異常気象が頻発する時代の気象予報の難しさや、テレビだから伝えられるメッセージ、またその伝え方などについて語っていただきました。

「第1回:アナウンサーから気象予報士へと駆り立てたもの」はこちら>

地球温暖化の影響で勢力を増して動きが遅くなる台風

画像: 地球温暖化の影響で勢力を増して動きが遅くなる台風

山本
今年の冬もこれまでに経験したことがないような暖冬でしたが、最近の天候は異常だと実感することが増えていますね。

酒井
ほんとうにそうですね。これまで冬になると西高東低というような決まった気圧配置の形ができて、日本列島の日本海側では雪が降り、太平洋側は晴天が続くというのが常識でした。しかし、今年の冬は3月くらいの気圧配置になっていて、雪がふるべき場所で全然降らず、関東地方では雨や曇りの日が多かったですね。

山本
1月の下旬には、東京で1日中雨が降り続いた日がありました。1日中雨が降るなど、冬にはあり得なかった現象です。九州では、その時期に線上降水帯まで現れて、大雨になりました。何か怖いような気さえします。こういった異常気象が増えると、過去のデータの蓄積がありませんから、予測しきれませんね。

酒井
スーパーコンピューターのシステムなどのデータを上手に使いながら、最終的には人が総合的に判断していくことが大切でしょうね。少しでも多くの人たちが災害から身を守り行動してもらえるように、情報をお伝えすることが大切だと考えています。

山本
コンピューターシステムと人の判断力をうまくかみ合わせていくことで、予測の精度も高まるわけですね。この異常気象は、やはり地球温暖化の影響だとお考えですか。

酒井
そうだと思います。温暖化というと、一律に暑くなると思われがちですが、そうではなくて、暑さも寒さも極端になるといわれています。実際に、暑い日が続いたかと思うと、一転して極端に寒くなったり、日ごとの気温の変化も極端になったりしています。また、温暖化によって台風は勢力が強くなるとともに、進行速度が遅くなるといわれています。

山本
なぜ遅くなるのですか。

酒井
これまで台風の季節は日本付近の上空に偏西風が吹いていて、日本に近づくとその偏西風に流されてスピードを上げ、東に抜けていました。ところが、温暖化によって偏西風が北に押し上げられるようになり、日本付近に来ても速度が上がらず、進路も定まらずに迷走するケースが増えています。

山本
確かに、本州付近で東から西に進んだ台風がありました。あれなども、かつて経験したことのない動きで驚きました。また、近年は日本近海の海水温が上がってきた結果、日本のすぐ近くで台風が発生するようになりました。

酒井
発生するとすぐに日本に接近して、日本付近で迷走するというケースが増えました。その結果、被害も増えるということも起こっています。今後、そういったケースがますます増えてくると思います。

伝える側が、具体的にイメージを持つことが大切

画像: 伝える側が、具体的にイメージを持つことが大切

山本
雨や風なども極端に強くなっていますから、防災の観点から気象予報の役割はこれまで以上に重要になっています。昨年あたりからは、いろいろな商業施設の計画休業や鉄道の計画運休も実施されるようになってきました。

酒井
おっしゃる通りですね。そういう社会的なニーズも踏まえて、昨年から5段階の警戒レベルを明記して防災情報を提供するようになりました。たとえば、これまでに経験したことのないような大雨が見込まれる場合は、「大雨特別警報」が出されることになっていて、これは「警戒レベル5」で「すでに何らかの災害が発生している可能性が極めて高いので、命を守るための最善の行動を取る」という行動に結びつけられています。警報や注意報などの気象情報と、人々の取るべき行動を結びつけることで、少しでもわかりやすくお伝えしようという考え方ですね。ただ、実際に災害が差し迫った状況では、さまざまなレベルの情報を整理してお伝えしないと、かえってわかりにくくなるということも指摘されています。

山本
「命を守るための最善の行動」といっても、その時にいる場所によって具体的に取るべき行動は変わってくるでしょうから、その行動をそれぞれの人がイメージできるように伝える必要がありますね。

酒井
テレビを通じて防災情報をお伝えする際には、どういう情報をどのような表現でお伝えすれば、皆さんにより具体的にイメージしていただけるかということを考えることが大切だと考えています。現在では、スマホにも気象情報を提供してくれるさまざまなアプリがあり、情報源には事欠きません。とりわけネットでは、自分の必要とする情報がすぐに手に入ります。しかし、その情報をどうとらえればよいかという点は、それを受け取った個人に任されています。一方、テレビの情報提供の場合は、情報とともにメッセージも込めることができます。私はそのメッセージを送るという点を大事にしたいと考えています。防災情報を発信する際にも、ただ情報を提供するだけでなく、どう行動したらいいのかという点まで踏み込んで、お伝えできればと考えています。そのために、メッセージを発する側が具体的なイメージを持つという点を大切にしています。

画像1: 「次の行動」に結びつくメッセージを毎日の暮らしに伝える気象予報【第2回】過去に経験したことがない異常気象が頻発する時代に

酒井千佳(さかい・ちか)

兵庫県出身。京都大学工学部卒業後、北陸放送にアナウンサーとして入社。2009年、第31回気象予報士試験に合格。その後、テレビ大阪契約アナウンサーを経て、2012年よりフリーアナウンサー、気象予報士として活動。テレビ朝日、日本テレビ、NHK等のニュース・情報番組にて気象コーナーに出演。現在はフジテレビ「Live News it!」お天気コーナーを担当。2018年、株式会社トウキトを設立し、陶芸情報ポータルサイト運営など陶芸に関する情報発信等にも取り組む。

画像2: 「次の行動」に結びつくメッセージを毎日の暮らしに伝える気象予報【第2回】過去に経験したことがない異常気象が頻発する時代に

山本二雄(やまもと・つぎお)

1978年 株式会社 日立製作所入社、2001年 システムソリューショングループ 金融システム事業部 金融第一システム本部システム技術統括部 チーフプロジェクトマネージャ、2004年 情報・通信グループ 金融ソリューション事業部 NEXTCAPソリューション本部 担当本部長、2015年 理事 情報・通信システムグループ 情報・通信システム社 システム&サービス部門COO 、2016年 理事 金融ビジネスユニットCEO 兼 公共ビジネスユニットCEO、2017年より 執行役常務 金融ビジネスユニットCEO。

「第3回:一人ひとりの毎日の行動が温暖化を抑止する力になる」はこちら>

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