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「特別編:ガスとエネルギー大手の岩谷産業はなぜ「再生医療」に注力するのか」

産業用ガスの新たな顧客開発が必要

「弊社が再生医療に参入を決めたのは2017年です。川崎市の殿町にキング スカイフロントという経済特区の産業拠点が生まれたばかりの頃で、再生医療を手掛ける企業が続々と進出していたのです。当時、私は横浜支店長をしており、我々が扱う液体窒素や冷凍の技術をPRするために売り込みに行きました」

そう語るのは、岩谷産業株式会社常務執行役員 産業ガス本部長 横谷和貴氏です。同社は、エネルギーとして使われるLPガスや、水素、酸素、窒素、ヘリウムなどの産業用のガスをはじめとするガスとエネルギーの会社ですが、新領域である「再生医療」に参入する理由がありました。

「産業用のガスは世界各国各地域で扱っていますが、既存のビジネスだけでは先細るばかりです。ですから新しい事業や、お客さまを常に探しています。例えば、魚の養殖プラント向けガス・設備も手掛けています。魚に酸素をたくさん与えると早く成長することがわかっているからです」(横谷氏)

画像: 産業用ガスの新たな顧客開発が必要

創業の精神は再生医療にもつながる

チャレンジをする土壌は、創業者である岩谷直治氏が残した文化として根付いています。

「世の中に必要な人間となれ、世の中に必要なものこそ栄える」

これは同社の企業理念にもなっています。

「世の中で最も大切なもの、必要なものの究極が“命”だと思います。再生医療は、人間の生命に関わることですし、寿命を延ばすためにかけがえのないもの。そういうジャンルに挑戦できることは、私自身もワクワクするところです」(横谷氏)

岩谷産業の再生医療プロジェクトのメンバーは、さまざまなセミナーや勉強会に参加し、再生医療業界の現状を学びながら、営業先を開拓していました。そこからサイフューズ社との出会いが生まれます。

サイフューズ代表取締役の秋枝静香氏が振り返ります。

「最初は、再生医療プロジェクトの責任者の一色渉さんと、担当者である川井幸輔さんとの出会いです。当時、再生医療分野へ新規参入をされていた岩谷産業さんに当社の3D組織の凍結保管についてご相談をしているうちに共同開発を行わせて頂けることになり、その後協業のシナジーも生まれ、業務資本提携に至りました。お互いの研究メンバーが本当に知恵を出し合って開発に取り組んだ結果、3D組織の凍結保管技術の開発に成功しました。今では、岩谷さんのラボと、私どものラボで相互に研修も行い、社員教育の面でも交流が進んでいます。大きな企業に会社も人も育てて頂いており、弊社にとっては、感謝しかありません」

画像: 左:細胞保管容器 右:液化窒素供給ライン

左:細胞保管容器 右:液化窒素供給ライン

今までとは違うノウハウが求められる

新規参入ならではの苦労もありました。

「我々の仕事は、ヘルメットを被って、安全靴を履くような工場やプラントへ納品することが多いのです。再生医療の現場は、クリーンであることが求められます。ラボに伺うにしても今までと同じ服装というわけにはいきません。そうした部分は現在も細心の注意を払っています。また、液体窒素の扱いや、ガスの配管をどうするのか、バルブの位置はどこが最適なのかなど、工場に設置する場合とはまったく違うノウハウが必要ですので、専門のチームを作って日々研究し、蓄積しています」(横谷氏)

再生医療分野に参入するにあたっては、社内からも「なぜ、我々がこの分野に参入する必要があるのか?どこに売るのか?」という議論があったそうです。それに対して、横谷氏が率いる産業ガス本部では「この分野はゆくゆくは大きな市場に成長する可能性があると考えており、まずは我々岩谷産業の持つ低温ガス技術を利用して、再生医療分野に貢献できる範囲でのスモールスタートをしていこう」と説得していったそうです。

ワンチームで再生医療プラットフォームを

今後の目標について横谷氏はこう締め括ってくれました。

「岩谷産業が、再生医療分野で貢献するにはサイフューズさんや、日立さんと協業しながら、それぞれの強みを活かす体制を目指したいのです。例えば、細胞を保管や輸送する容器の開発、Webを活用したガスの受発注管理や、どの様なタイミングで物流網を利用するかなど、再生医療のためのプラットフォームが求められていると思います。それを皆さんと話し合って、患者さまのためになる仕組みを作っていきたいです」

画像: 写真一番右 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 空調ソリューション事業部 佐藤祐一氏

写真一番右 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 空調ソリューション事業部 佐藤祐一氏

「我々サイフューズだけでは、出来ることに限界があります。岩谷産業さんをはじめとする、さまざまな企業さまのご協力を頂きながら、ワンチームで“患者さまのため”の再生医療体制を作っていきたいです」と、サイフューズの秋枝静香氏も強く同意していました。

岩谷産業とサイフューズは、理想的な関係を構築し、再生医療分野で「患者さまのために」という目標に向かって進んでいます。

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画像1: 日本における再生医療の最先端企業「サイフューズ」が目指すもの
特別編 ガスとエネルギー大手の岩谷産業はなぜ「再生医療」に注力するのか

横谷和貴(よこやかずたか)

岩谷産業株式会社常務執行役員
1970年5月生まれ
1994年4月岩谷産業株式会社入社。
産業ガス部門で米国、カタールからのヘリウムガスの調達や横浜支店長、大阪本社エアガス部長、首都圏支社長を歴任。
2022年4月執行役員に就任。
2024年4月からは常務執行役員産業ガス本部長に就任し、産業ガス事業をグローバルに事業拡大を進めている。

画像2: 日本における再生医療の最先端企業「サイフューズ」が目指すもの
特別編 ガスとエネルギー大手の岩谷産業はなぜ「再生医療」に注力するのか

秋枝 静香(あきえだ しずか)

明治大学農学部農芸化学科卒業。九州大学大学院を経て、九州大学において遺伝子解析・再生医療分野の研究者として従事したのち、JST事業化検証プロジェクトを経て、九州大学発ベンチャーとして、2010年に株式会社サイフューズを創業。
AMED・NEDOプロジェクトをはじめとする公的機関等の各プロジェクトに参画し、社内外のプロジェクトを横断的に統括するとともに、バイオベンチャーの経営に従事、現在に至る。
サイフューズとしての活動においては、バイオ3Dプリンタの開発・販売及び再生医療等製品の開発を通じて、国内外の様々な企業とパートナーシップ戦略を構築し、2022年12月東京証券取引所グロース市場に上場。大学発ベンチャー表彰、産学官連携功労者表彰、JAPAN VENTURE AWARDS等、数々受賞。

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