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「第5回:楽しく仕事をしている人は創造性が衰えない」
誰しも評価は気になるもの
山口
坂本龍一さんも生前、アルバムのレビューをSNSなどでご覧になって、低い評価を読むと本当に凹むとおっしゃっていたので、教授さえもそうなのかと思いましたけれど。
細野
そらそうです。みんなそうです。
山口
そうなのですね。そのつながりで、建築家のフランク・ゲーリーの話を思い出しました。スペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館とか、実にユニークな建築を設計されていて。
細野
斬新ですよね。
山口
彼が、安藤忠雄さんが東京大学で教えているときに企画した海外の建築家の連続講演会に招かれています。その講演録(『建築家たちの20代』TOTO出版)を読むと、ほんとうにいいことをおっしゃっているんです。
彼は若い頃、建築の専門誌を読まないようにしていたそうです。というのも、自分がやりたいと思う発想があって、それをやり遂げることが一番重要なのに、他人の作品を横目で見ると、自分は果たして大丈夫なんだろうかと神経質になってしまうし、人の作品を見てすごいと思ったらそれより先に進めなくなるかもしれないという思いがあったから。大事なのは自分の能力、自分の力を見つけ出すことで、そのためにはそうした雑念に煩わされてはならないと。
細野
そうでしょうね。
山口
だからフランク・ゲーリーは4~5年間ぐらい建築雑誌をまったく読まなかった。それでも知っているべき重要な建築に関する情報は入ってくるものだと。そしてある程度、自分の仕事に自信がついてくると同僚の作品も安心して見られるようになったそうです。けれど、若いうち、影響を受けやすい時期には、周囲にとらわれてしまうと自分にはあんなことはできないと思い込んでしまうかもしれないので、よくないということをおっしゃっていましたね。細野さんはお若い頃、ネットもなくフィードバックもなかったので、それが…。
細野
幸いでしたね。だからずっと、つい数年前までそうだったんですよね。フィードバックを気にするようになったのは最近です。SNSの反応を僕に送ってくれる人が出てきたせいです。
山口
見ないということはしないのですか。
細野
いや、大体いい評価しか送ってこないので傷つくことはないんです。ただ、聴いてくれる人は実際にいっぱいいるんだということがわかって、「裏切れないな」という気持ちが強まっていますね(笑)。
「飽きる」ことも必要
山口
以前、どこかの音楽雑誌で読んだと思うんですけど、クラフトワーク(Kraftwerk)が2003年に17年ぶりに新作をリリースして、それを聴いたときに細野さんがびっくりされて、「まだやってるんだ」っておっしゃったと。いい驚きだなと感じました。細野さんとしてはテクノポップはもうやりきったという感を持っていらしたけれど、彼らは連綿と続けている、そのことに驚かれたのですよね。
細野
尊敬の念を込めて言ったつもりなんですけどね(笑)。「ぶれない」というのは難しいことだと思いますから。
山口
一つのことをずっと続けられるというのは素晴らしいことだと思います。一方で、細野さんは「ぶれる」が座右の銘だとおっしゃっていました。「綱渡りで大事なことはぶれることで、人間の観念もそう。いくら安定を求めたって人は誰だって揺れてるんだよ」と。同じように、飽きるということも人間にとって重要なことだと思います。飽きることはバイタルサインとも言えるわけです。食べ物でも、ある程度、多様なものを食べたほうがいいから、食べ飽きるようになっていたりする。精神的にも、やはり飽きるということは学習が止まった状態ということなので、そこにとどまっていても向上がなかったり、楽しくなかったりする。次にやりたいことを見つけるための重要なサインというふうに考えることもできると思います。細野さんは、音楽に関しては「飽きる」という感情に素直に、お客さんは今のこの延長線上の音楽を望んでいるのかもしれないけれど、もう次にいく、ということを続けてこられました。
細野
そういうことをやってきましたね、ええ。もちろん、作品をつくるときは自分の中で熟成させたりしていますけれど。ただ、楽しくやりたいということなんです。
山口
心理学者のミハイ・チクセントミハイが、さまざまな分野で類まれな業績を残した91名の人物にリサーチを行った結果を『クリエイティヴィティ:フロー体験と創造性の心理学』(世界思想社)にまとめているのですが、チクセントミハイによれば、そうした人たちは高齢になっても創造性が衰えていないという特徴を持っていたそうです。その理由を調べたら、とても単純なことだったと。「興味深く、やりがいのある仕事に深く関わっている」、つまり「楽しい」というだけの理由で仕事をやっているということです。
細野
わかるわー。
山口
楽しいからやっている、外からの評価ではなく内的な動機、単純に楽しい、面白いという動機でやっているから創造的であり続けられる。それゆえに、つまらないと思った瞬間に飽きて、すべてを投げ捨てて違う場所へ移るということもあるそうなのですが、そうしたことが、年を経ても創造性が衰えない人たちの共通する特徴だと言っているんです。
細野
なるほど。
山口
ですから、あまりお客さんに応えようとは思わないで、これからも自分が楽しめること、面白いと思うことを追求して、変化を続けていただくのが細野さんらしくていいのではないかと、ファンの一人として思います。
細野
そうですね。応えようという気持ちが強すぎたら、できないですね。
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細野 晴臣
1947年東京生まれ。音楽家。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求、作曲・プロデュース・映画音楽など多岐にわたり活動。
山口 周
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。最新著は『クリティカル・ビジネス・パラダイム:社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。
シリーズ紹介
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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。
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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。
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社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。
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