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山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー/細野 晴臣氏 音楽家
1969年のデビューから半世紀以上にわたって活躍する音楽界のレジェンド、細野晴臣氏。はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、YMOなどのバンドに携わり、その後のソロワークでも日本の音楽シーンに新風を吹き込み続けてきた。同じ場所に留まることなく常に変化を続け、進化し続ける細野氏の音楽は、今なお多くのアーティストに影響を与え続けている。その音楽観、作品づくりのスタンス、人生観とは――。細野氏を敬愛する山口周氏が聞く。

「新しさ」とは何か

山口
本日はお忙しい中、ありがとうございます。細野さんはお母様や母方のご親戚の影響で小さい頃から音楽や映画に親しんでこられたそうですが、私も同じように両親の影響で音楽好きに育ちました。もちろん細野さんの音楽も大好きなので、本日は憧れの方にお目にかかれて、生きていればいいこともあるものだと実感しています。
それでまずお伺いしたいのは、「古さ」と「新しさ」に関することです。細野さんは以前からポップスの名曲や古典に注目され、最近はカバーもよくなさっていますね。一方で、いち早く音楽にコンピューターを取り入れるなど、新しいことにも挑戦してこられました。

細野
はい。

山口
最近の社会を見ていると、「新しい」というのが何よりの褒め言葉で、「それは古いよね」という言葉は全否定のニュアンスを持ちますよね。細野さんとしては、この社会における「新しさ」と「古さ」ということについて、どのように思われますか。

細野
「新しいこと」って僕の中には全然、入ってこないんですよね。なんだろう、何が新しいのか、わからないと言うのかな。実際、古い音楽って初めて聴くことが多いでしょう。

山口
古くても自分にとってはストレンジだし、新しいと。

細野
ええ、そうです。新しいんですよ。僕が子どもの頃から聴いていた音楽はただの記憶で、そこには懐かしさも入っているわけですけれど、それ以前の音楽に触れていくと、膨大な、なんというか、海のような世界なんですよね。何を聴いても、聴いたことがない音楽だから、それこそが自分にとっては「新しい」。たぶんトロイア遺跡を発見したシュリーマンもそんな気持ちで発掘していたんじゃないかと思いますけれど、考古学に近いような発見の喜びがありますね、古い音楽には。

山口
確かにそうですね。大学で教えている知人の話なのですが、ワム!の「ラストクリスマス」が流れたときに彼が「ああ、懐かしいな」と言ったら、学生から「これって古い曲なんですか?」と言われて驚いたと。彼は自分なりの音楽のクロニクルに沿って古さと新しさを判別しているのですが、学生にしてみればそんなことは関係ないわけです。それは世代の違いということもあると思いますが、音楽配信が全盛の時代になって、クロニクルとかルーツというものが意識されない聴き方になっているのではないかとも感じます。

細野
そうなんですよ。自分の音楽でもね、40年ぐらい前の曲が今、聴かれていたりして。「今の作品を聴いてくれよ」って思うんだけど(笑)、昔の曲がよく聴かれているんです、世界中で。

山口
それは細野さんとしてはどうでしょう。もちろん嬉しい部分もあるでしょうけれど。

細野
ピンとこないんですよね。いまだに実感がないんですよ。このあいだ、バリ島でライブをやったんですけど、「スポーツマン」という40年くらい前の曲を演奏したら、みんなが歌うんですよね。お客さんは外国人ですよ。「えっ?なんでみんな知っているんだろう」って、びっくりしました。最近は海外で日本のシティポップがウケているそうだけれど、僕らの作品も含め、なぜ古い曲がウケているのか自分ではよくわからないですね。

注目される新しい音楽表現

山口
クラシックでは20世紀後半に現代音楽が登場し、ポップスも常にある種の新しさを求めていくという流れがあって今に至っているわけですけれど、ここから先、新しい表現というものが常に生まれ続けるのかということについては、細野さんはいかがですか。

細野
今、特にアメリカ、イギリス、フランスあたりで流行っている音楽は、音楽そのものは新しくないけれど、音響が新しいんですよ。音像として新しくて、まるで球体の中で聴いているようなバーチャルな音像をつくっている。なんて言ったらいいかな、アミューズメントパークのアトラクションみたいな世界なんですよ。それはヘッドフォンで聴かないと体感できないんですが。おそらくハリウッド映画で研究し尽くしてきた映画館の音響のアルゴリズムがポップミュージックに転用されているのだと思います。最近の海外でのヒット作品のほとんどはその音響でつくられています。僕はプロとしてそのアルゴリズムに興味があるけれど、それは日本の音楽業界にはまだ入ってきていないので。

山口
それはレコーディングエンジニアの技術といいますか、ある種の方法論に基づいて音がつくられているのですね。

細野
そうですね。でも、それの行き着く先というのはもう見えていて、いずれは飽きちゃうと思います。アトラクションも何度も乗ったら飽きるでしょう。音楽の構造としても、みんな似たものになってしまっていますから。
ただ一方で、自分だけの世界で音をつくっているアーティストも増えています。グローバルな流行の波には乗らずにパーソナルな音づくりをしている。それが今とても面白くなってきています。何が出てくるのかわからないような音楽なんです。一人ひとりアプローチが違って、自分で研究した音というのかな、職人的な入り込み方をした音づくりなんですね。一定の法則があるわけではないので、それが僕には面白い。

山口
具体的にはどんなアーティストが。

細野
そうですね、例えばサム・ゲンデルでしょうか。世界中を放浪していて拠点がどこだかわからない人ですけれど、日本のミュージシャンにも人気が高くてよく来日しています。今度、僕のラジオ番組に出てくれることになっていますけれど。(第2回へつづく

「第2回:無限の可能性がある中から一つに絞る」はこちら>

画像1: 音楽も生き方も「楽しい」を軸に
常にぶれながら、自分の音楽と向き合ってきた
【その1】古いものは新しい

細野 晴臣
1947年東京生まれ。音楽家。1969年「エイプリル・フール」でデビュー。1970年「はっぴいえんど」結成。73年ソロ活動を開始、同時に「ティン・パン・アレー」としても活動。78年「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」を結成、歌謡界での楽曲提供を手掛けプロデューサー、レーベル主宰者としても活動。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント、エレクトロニカを探求、作曲・プロデュース・映画音楽など多岐にわたり活動。

画像2: 音楽も生き方も「楽しい」を軸に
常にぶれながら、自分の音楽と向き合ってきた
【その1】古いものは新しい

山口 周
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。最新著は『クリティカル・ビジネス・パラダイム:社会運動とビジネスの交わるところ』(プレジデント社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

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