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これまで4回にわたって、サイフューズと共に再生医療分野を開拓していく企業や研究者たちとの“フュージョン”についてお伝えしてきた。最終回では、臓器丸ごとの再生というものを近未来の視野に入れているサイフューズは、日本国内のみならず、世界中の患者への選択肢を一つでも増やしていきたいという強い意志のもと、どのようなビジョンを描いているのだろうか。いかにして世界へ進出していくかについて、秋枝静香氏が冷静にかつ熱く語ってくれた。

「第1回:100%人間の細胞由来の人工神経や血管を画期的な3Dプリンタで実現」はこちら>
「第2回:九州大学のラボから再生医療ベンチャーが生まれた理由」はこちら>
「第3回:再生医療は垣根を超えたワンチームで道なき道を切り開く」はこちら>
「第4回:武部貴則教授が語る「日本は再生医療における世界のトップランナー」はこちら>
「第5回:日本の「再生医療」の一翼を担いたい」
「特別編:ガスとエネルギー大手の岩谷産業はなぜ「再生医療」に注力するのか」はこちら>

国内承認と海外展開を視野に活動

「末梢神経などの複数のパイプラインについて、国内の臨床試験が走っていますので、今後2-3年の間に、それを再生医療等製品として仕上げて、承認取得し、広く患者さまにお届けしたいと思っています。国内での承認はもちろんですが、その次はアメリカ・ヨーロッパ等の海外展開を考えています。その仕組みも含めて、日本発の製品をどうやって海外に展開していくかというところを、さまざまな企業さまにお力添えいただきながら進めている状況ですね。まさに目の前の仕上げと、海外に向けた仕込みが直近での活動になっています」

画像: 国内承認と海外展開を視野に活動

サイフューズの秋枝静香氏は、今後の展開についての見通しを語る。これからの課題については、精度を上げることと量産という二つがあるという。

「私たちは大学のひとつの実験室から誕生したベンチャーですので、当初は手作り感満載だったものから、製品として仕上げる段階にきています。今後まずは、我々の技術、製品を使うことにより世界中の医療関係者がそれぞれの場所で再生医療等製品を使用、そして作ることができるステージに持っていきたいです。その後に大量生産をして、製品として広くお届けする。それには二つのやり方があり、東京でも関西でも福岡でも、そして海外でも作れるようにしたい。例えばスモールな製造施設を各地域に設置し、一拠点で100個ずつ出荷するのもいいと思いますし、大きな製造工場で1,000-2,000個ずつ作って出荷するという両方の可能性があると思います。スモールスケールの場合にはマルチサイト型、量産する場合にはセントラル型、というように、両方を見据えて準備をしています」

日立GLSが開発したモジュール型CPCの強みとは

国内でも海外でも、再生細胞作りに欠かせないのが、日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)が開発したモジュール型のCPC(細胞培養加工施設)である。サイフューズの担当で長きにわたってパートナーとして開発に携わってきた同社の空調ソリューション事業部の松崎和仁氏は、

「サイフューズさん1社に限らず、細胞凝集研究会のいろいろな方とお話しする中で『CPCが高額なので、もっと安価にならないか?それから、どんな場所でも設置できるようにしてほしい』というニーズをいただきました。それに応える形で開発したのがモジュール型CPCです。装置は日立が培ってきた半導体のクリーンルームが雛形になっていますが、より工期が短く少ない人数で確実に組み立てられるものを作り上げました」

画像: 日立グローバルライフソリューションズ株式会社 空調ソリューション事業部 松崎和仁氏

日立グローバルライフソリューションズ株式会社
空調ソリューション事業部 松崎和仁氏

サイフューズの福岡や東京の拠点に設置されたCPCは驚くほどコンパクトで、ごく一般的なオフィスビルにも特別なダクトなどの配管等をすることなく施工が可能だ。

「もともと、秋枝さんたちからもバイオ3Dプリンタとセットで海外に持っていきたいという意向を伺っていましたので、開発当初からグローバル展開を意識した設計にしています。アメリカでも欧州でも世界中どこの土地に持っていっても、プラモデルのキットを組み立てるように、マニュアル通りに作れば同じものが組み上がります。ですから、多くの人を使わずに組み立てが可能で、特別な技術の取得も必要ありません。アメリカに限っても引き合いを頂いており、具体的な商談も進んでいます」(松崎氏)

第4回で紹介した武部教授のシンシナティのラボにも、日立GLSのCPCとサイフューズの「regenova®︎」がセットで納品され、日々の研究に役立っている。

“チーム日本”で海外でのプレゼンスを高めたい

「再生医療は日本の産業の重点分野として、経産省も含めて社会実装のための後押しをいただいています。武部教授のラボなど、アメリカへ装置の輸出も進んでいますし、コラボレーション先も徐々に増えてきています。ビジネスの観点からもアメリカは大きなマーケットですので、力を入れていきたいです。シンシナティに限らずですが、海外に拠点を作ったとしても必ずどこかの病院と提携をして、医師たちに移植を手伝っていただかなければなりません。そうした拠点においても、いま国内で取り組んでいるようにチームを作って、“Team Cyfuse”で、現地でのプレゼンスを高めていくのが理想です。個人的には、今チャンスが来ていると思っています。アメリカをはじめとする海外の方は、細胞を個別の臓器として作り上げていくことについて、手作業でイチから作るのは結構手間だと思っている人も多いはずです。そこはやはり当社の自動装置の強みがあると思っています」

画像: “チーム日本”で海外でのプレゼンスを高めたい

と、秋枝氏は手応えを口にする。そしてアジア圏も意識している。
「東京と並ぶ拠点がある福岡は立地的にもアジアに近いので、アジア圏との協業も進めていきたいと考えています。福岡にいると、特に台湾や韓国は立地的にも距離が近いですし、皆さんよくラボに訪問してくださいます。なので、それほど海外進出という意識を持たずに出ていけるように感じています」

患者さまの選択肢を一つでも増やしたい

サイフューズには現在24人の社員がいるが、いわゆる営業担当者はいない。「24人全員が会社の代表だと思っています」というが、それぞれのルーツや人脈を通じて、問い合わせが来るケースが増えているという。

「やはりお医者さまからのご相談が多いです。『こういう臓器を作れませんか』『こういう移植をしたいんですが、一緒に開発してくれませんか?』など、とにかく情熱を持って『患者さまのために、どうしてもこれを実現したいんです』という熱い先生がたくさんいらっしゃいます」

そうして、秋枝氏は最後に強調するのだ。

「患者さまやお医者さまたちの夢を叶えるために一つでも新しい治療法の選択肢を作りたいと思っています。例えば、この病気には薬がいいかもしれない。手術もいいかもしれない。でも再生医療もあるかもしれない。その選択肢を一つでも多く増やすことができれば。これからも私たちサイフューズに共感していただける方たちと一緒に頑張っていきたいです。ゴールはやっぱり患者さまのため。細胞から希望を作り、新しい医療と社会を創造するサイフューズの活動は、まだ始まったばかり。次世代につながるよう、永続的に活動していきたいです」(特別編へつづく

特別編:ガスとエネルギー大手の岩谷産業はなぜ「再生医療」に注力するのか」はこちら>

画像: 患者さまの選択肢を一つでも増やしたい
画像: 日本における再生医療の最先端企業「サイフューズ」が目指すもの
第5回 日本の「再生医療」の一翼を担いたい

秋枝 静香(あきえだ しずか)

明治大学農学部農芸化学科卒業。九州大学大学院を経て、九州大学において遺伝子解析・再生医療分野の研究者として従事したのち、JST事業化検証プロジェクトを経て、九州大学発ベンチャーとして、2010年に株式会社サイフューズを創業。
AMED・NEDOプロジェクトをはじめとする公的機関等の各プロジェクトに参画し、社内外のプロジェクトを横断的に統括するとともに、バイオベンチャーの経営に従事、現在に至る。
サイフューズとしての活動においては、バイオ3Dプリンタの開発・販売及び再生医療等製品の開発を通じて、国内外の様々な企業とパートナーシップ戦略を構築し、2022年12月東京証券取引所グロース市場に上場。大学発ベンチャー表彰、産学官連携功労者表彰、JAPAN VENTURE AWARDS等、数々受賞。

【コラム】半導体用クリーンルームを再生医療に応用

サイフューズの東京と福岡のCPC(細胞培養加工施設)は、ごく一般的な構造のオフィスビルに設置されています。驚くほど静かでコンパクトな実験施設は、日立グローバルライフソリューション(日立GLS)が開発したものです。「ベンチャー企業でも使えるような、安価でどんな場所にも設置できるコンパクトなものを」というリクエストに応えて製造されたもの。再生医療分野で求められる、温度・湿度・質圧・清浄度などにおいて高い空気の質を制御して、無菌性を確保しているものです。元々は半導体用のクリーンルームの技術を転用したものですが、日立GLSでは、施設の保守、点検、バリデーションまで総合的なソリューションを提供しています。2020年7月に、サイフューズと日立GLSは再生・細胞医療分野における共同開発の提携をはじめました。2023年には台湾の企業とも提携をし、サイフューズのグローバル展開を総合的にサポートしていくことを視野に活動しています。

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

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全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

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明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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