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特許技術の塊であるバイオ3Dプリンタと3D組織・臓器を生み出したサイフューズ。根幹技術である「剣山メソッド」は、当時九州大学に勤務していた中山功一教授(現・佐賀大学医学部附属再生医学研究センター長)のアイデアから生まれたものだ。手作業で細胞を立体化し、実験を繰り返し行っていた中山教授の研究を手伝いはじめたのが、秋枝静香氏だった。この邂逅をきっかけに、サイフューズという再生医療の先端企業が誕生するのである。

「第1回:100%人間の細胞由来の人工神経や血管を画期的な3Dプリンタで実現」はこちら>
「第2回:九州大学のラボから再生医療ベンチャーが生まれた理由」
「第3回:再生医療は垣根を超えたワンチームで道なき道を切り開く」はこちら>
「第4回:武部貴則教授が語る「日本は再生医療における世界のトップランナー」はこちら>
「第5回:日本の「再生医療」の一翼を担いたい」はこちら>
「特別編:ガスとエネルギー大手の岩谷産業はなぜ「再生医療」に注力するのか」はこちら>

「患者さまのために」が再生医療に従事する原点

「私がこの仕事、研究に従事するようになった原点は『人の役に立ちたい。少しでも医療のお役に立つことができれば』という想いに尽きるんです。サイフューズの仲間たちも、バイオロジーやサイエンスだけではなく、ロボティクスやエンジニアリング、さらにはバックオフィスのメンバーまで、それぞれ専門領域で深い知見を持つ人間が集まり、融合して、我々独自の企業文化を形づくってきました。異なる専門領域を持つ仲間たちが一堂に集結し、事業活動ができているのは、『患者さまのために』という想いを共有できているからだと思っています。その想いを原動力に、一歩一歩、日々の研究を臨床へ、そして社会実装へ向けてチーム一丸となって、進めています」

サイフューズ代表取締役の秋枝静香氏は再生医療に懸ける原点について教えてくれた。ここで少し、これまでの歩みについて振り返ってもらおう。

「私は大学では、様々な分野の『化学』を学び、有機合成化学を専攻していました。AとBを組み合わせて新しいものを作り出すという『化学』の新規の創出性に惹かれていたので。ただ、そうした化合物を作っても、例えば、目薬の原料などの一部にしかならないなと、ふと気づいたのです。もちろんその研究もとても意義があることですが、もう少し患者さまの近く、医療現場の近くで役立てることができないかと考えたのです。そこで、生まれ育った福岡に戻ってきて、九州大学の大学院で遺伝子分野の研究を専攻することにしました。遺伝子分野の研究は当時流行の学問でもありましたが、その中でも特にガン遺伝子の研究を進めていました」

そして、秋枝氏は大学院を卒業後、骨肉腫についての研究を専門にした。骨肉腫は足の骨に発生することが多いガンで、治療の過程で足を切断しなければならないケースもある。幼い患者に多い病気でもあり、その人たちの様子を見て「失った体をなんとか再生できないものだろうか」という思いを抱き、より臨床の場に近い九州大学医学部の研究室に籍を置くことにする。その研究室で、サイフューズの創業メンバーでもある中山功一教授(現・佐賀大学)に出会うのだ。

サイフューズ10年の軌跡

当時、九州大学医学部の研究チームと共に研究に従事していた秋枝氏は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のプログラムで起業検証を受けてプロジェクトを事業化、2010年にサイフューズを創業した。

ボールペンの先ほどの細胞のお団子を一つ一つ針に積み重ねていく、とてつもなく時間がかかる工程。手作業では限界があるため、なんとか機械化できないかというところから細胞版の3Dプリンタ、バイオ3Dプリンタの開発が始まり、その後、2012年に世界初となるバイオ3Dプリンタ『regenova®︎』の販売を開始するに至った。

「バイオ3Dプリンタの開発には金沢にある澁谷工業さんがサイフューズの創業前からご協力してくださり、製品化にたどり着きました。また、装置本体だけではなく、3Dプリンタに設置する針や消耗品類等も多くの企業にご協力を頂きながら製品化に至っています。現在のサイフューズが事業を進めることができているのも多くの企業さまのお陰です。本当に感謝の気持ちしかありません」

その後も、経済産業省のNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)やAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)等の事業採択を受けながら、3次元の再生医療等製品(移植用組織)の臨床開発を進め、新型のバイオ3Dプリンタの販売も開始する等、社内外医工連携により、事業を発展させてきた。ベンチャー企業の生存率は創業から10年後には6.3%と言われる中、着実に業界での地位を確立していった。

「改めて振り返ってみると、バイオ3Dプリンタの開発を機に、3Dプリンティングの技術が普及し、そしてその技術を使った再生医療製品の開発が順調に進んで臨床応用に成功していることが会社として大きな飛躍に繋がっていると思います。現在当社が開発を進めている3D細胞製品は機械でしか作れないものであることも一つの特徴です。手作業に依存せず、機械で製造できることで、世界中どこにでも広く展開することが可能となっています。ベースとなるプリンタに当社で培った細胞とデバイス、臨床開発でのノウハウを載せて、プラットフォーム技術として、国内外に装置販売し技術普及も進めてきました。それによって収益も得られましたが、何よりも色々なところで使っていただき、共同研究先・開発領域が広がっていることが現在のアドバンテージになっていると感じています」

創業15周年を見据えて

「設立10年目には京都大学の先生方と共に末梢神経断裂の患者さまを対象にした神経再生の臨床試験をスタートすることができました。今年の春には、対象の患者さま全員が無事職場復帰をされたという結果を受けて、可能な限り早くより多くの患者さまへサイフューズの細胞製品をお届けし、新たな治療法の選択肢を増やし、新たな医療・社会を創っていきたいと、改めて心に誓いました」

画像1: 創業15周年を見据えて

そんなサイフューズは2022年に2つの大きな転機を迎えた。

「スタートアップ企業として、これまでは大学の研究室にラボを構えていましたが、事業ステージのステップアップと本格的な商業化を目指すため、東京・福岡共に移転を行いました。設立当時3人だったメンバーも24名となり、コロナ禍も経て、働きやすい環境を整備したいという思いもありましたが、ここでも多くの企業さまにご協力を頂き、何とか自社ラボを構築することができました。また、2022年12月には多くの方に支えられて上場という一つの目標を達成することもできました。いずれも、ひとつの通過点ではありますが、日本発・世界初の製品を世界中の患者さまへお届けし、次世代に繋がる医療・社会、産業を創っていきたいと考えています。日立さんのように、先行する企業さんを近くで拝見し、学びながら、永続的に活動し、日本を支えるグローバル企業に成長していきたいです」

画像2: 創業15周年を見据えて

「第3回:再生医療は垣根を超えたワンチームで道なき道を切り開く」はこちら>

画像: 日本における再生医療の最先端企業「サイフューズ」が目指すもの
第2回 九州大学のラボから再生医療ベンチャーが生まれた理由

秋枝 静香(あきえだ しずか)

明治大学農学部農芸化学科卒業。九州大学大学院を経て、九州大学において遺伝子解析・再生医療分野の研究者として従事したのち、JST事業化検証プロジェクトを経て、九州大学発ベンチャーとして、2010年に株式会社サイフューズを創業。
AMED・NEDOプロジェクトをはじめとする公的機関等の各プロジェクトに参画し、社内外のプロジェクトを横断的に統括するとともに、バイオベンチャーの経営に従事、現在に至る。
サイフューズとしての活動においては、バイオ3Dプリンタの開発・販売及び再生医療等製品の開発を通じて、国内外の様々な企業とパートナーシップ戦略を構築し、2022年12月東京証券取引所グロース市場に上場。大学発ベンチャー表彰、産学官連携功労者表彰、JAPAN VENTURE AWARDS等、数々受賞。

【コラム】タバコと油、食生活にはご注意を

3D細胞製品の原料となる細胞の培養にはどれくらいの期間がかかるのでしょうか。年齢で変わりそうなイメージがありますが、実は、人それぞれです。若くても増殖が遅い人もいれば、高齢者でもすごく早く増える人もいるそう。そして、不摂生な食生活や喫煙者の細胞は培養速度が遅い傾向にあるということです。例えば、健康体の人と、不摂生な食生活の人の細胞を顕微鏡で観察すると、違いがよくわかります。細胞を一個一個見ていくと健康な人の細胞は透明で綺麗な形状になっているそう。そうではない人の細胞は色形や分泌物に違いが出てくるといいます。「細胞レベルで見てもらえば、健康や食生活等をより意識するようになるかもしれませんね」(サイフューズ)。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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