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山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー/吉田 順 株式会社 日立製作所 Generative AIセンター長 兼 Chief AI Transformation Officer/加治 慶光 株式会社 日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal
2024年7月12日、「生成AI×ヒューマニティ ビジネスの未来を創る鍵」をテーマに日立製作所主催のイベントを開催した。その模様をまとめたイベント採録記事の第4回は、後半のトークセッションの2つめのテーマである「ビジネスへの適用と課題」についての議論をお届けする。Lumada Innovation Hub Senior Principalの加治慶光の司会進行のもと、日立製作所 Generative AIセンター長の吉田順が日立における生成AI活用の活用について紹介、山口周氏からは生成AIの活用促進に向けたアドバイスが送られた。

「第1回:人間に求められる「問題を生成する力」」はこちら>
「第2回:未来を考えるときに重要なのは「外れ値」」はこちら>
「第3回:AIの民主化と精度向上で広がる活用」はこちら>
「第4回:重要なのは日常業務の中で活用すること」
「第5回:テクノロジーに合わせて人間も進化を」はこちら>

ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

加治
業務への人工知能の適用が進んでいるとのことでしたが、吉田さんより生成AIの活用に関する日立の取り組みをご紹介いただけますか。

吉田
日立グループにおける生成AIの活用は、グループ内部の改革と、そのなかで蓄積したナレッジのお客様への提供という大きく2つに分けられ、それぞれにおいて「攻め」と「守り」があると考えています。「守り」というのは、リスクマネジメントやガイドラインの整備です。日立グループはグローバルに27万人の従業員がおり、皆が好き勝手に使うとトラブルが起きることもありますから、使い方のガイドラインなどでまずは守りを固めました。その上で、「攻め」の活用としてユースケースの創生やソリューションの整備を進めています。

画像1: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

実際の業務への適用は、ITとOT(Operational Technology)の2つの領域に分けられます。まずIT領域では、日立は金融業界や官公庁をはじめとするさまざまなお客さまにシステムインテグレーションを提供しており、新規のシステム開発やシステム改修、マイグレーションなどでの生成AIの活用によって、システム開発の生産性向上を図っています。日立が携わるシステムはミッションクリティカルなものが多いことから、PoC(Proof of Concept)などもきちんと行い、安心・安全に使えることを検証してからお客さまにご提供していることは言うまでもありません。

画像2: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

また、システム開発だけでなく運用の効率化にも活用しています。例えば、日立が提供するITシステムの統合運用管理ソフト「JP1」のSaaS(Software as a Service)版である「JP1 Cloud Service」に生成AIを組み込み、システム管理におけるアラート対応の初動時間の短縮を図っています。システム障害などでアラートが発生した際、AIが原因の候補をリストアップし、復旧のコマンドの提示や障害報告書の作成なども支援することで、運用オペレーターの対処の迅速化、高度化を実現します。

画像3: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える
画像: JP1に生成AI機能を組み込むことでエラーの原因候補を挙げる、対処方法を表示してくれるなど、ITシステムを迅速化、高度化

JP1に生成AI機能を組み込むことでエラーの原因候補を挙げる、対処方法を表示してくれるなど、ITシステムを迅速化、高度化

さらに、コールセンターにおける問い合わせ対応のオートメーション化、セールス&マーケティングの高度化など、生成AIを活用した業務効率化においてもお客さま
との協創を拡大しています。

OT領域、すなわち電力や鉄道などの社会インフラ、建設業や製造業のような基幹的な産業おける活用では、社会課題への対応が大きなテーマです。少子高齢化によりフロントラインワーカーが減少し、ベテランの有する技能や知識の伝承が進まないといった課題について、生成AIの活用によって支援しています。

画像4: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

例えば、これまでマニュアルや熟練者の指導に頼っていた保守作業員のトレーニングにおいて、マニュアルや過去の保守レポートなどを学習させた生成AIを利用し、トラブルなどの対処について音声で質問すると音声で回答が返ってくるといったナビゲートシステムを開発しています。これを活用してメタバース空間でトレーニングを行うことで、保守技術の伝承や業務効率化に貢献できると考えています。

画像5: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

日立の生成AI関連サービスでは、生成AI活用のベースとなる環境の構築・運用支援から、実際の活用に関するコンサルティング、ソリューション提供まで各段階に対応しており、お客さまのご要望に合わせてDXの加速を支援しています。ただ、環境を整えても実際の活用がなかなか進まないというお客さまも多いことから、活用を加速するポイントを一覧にしました。

画像6: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える
画像7: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

弊社の経営幹部は、日常業務の中にAI活用をうまく組み込み、インプットとアウトプットの両面で活用しています。経営幹部がまず率先して利用することで、従業員のあいだでの活用も進むのではないかと考えています。

画像8: ITとOT、それぞれの領域の課題に応える

自分が面白いと思うことをやってみよう

加治
Generative AIセンターの設立から1年半ほど経ちましたが、生成AIの活用における課題はありますか。

吉田
最も大きな課題と感じているのは、100%を求める方が多いことです。日本企業独特なのかどうかわかりませんが、AIを使用したものに限らず日常の業務で使うツールやシステムは完璧なものでないといけない、という考え方が根強いように感じます。

われわれ技術者としては精度をできるだけ高める努力はしているものの、100%を実現するのは生成AIでは難しいことです。弊社内でもお客さまにおいても、「AIにどこまで期待できるのか」ということについての理解は進んできましたが、やはりAIとの向き合い方が、今後、活用を加速していく上での課題になるかもしれません。

生成AIへの理解を深めたいと思われている皆さまには、Generative AIセンター監修の『実践 生成AIの教科書』という書籍を最近出版しましたので、ぜひ手に取っていただければと思います。

日立が生成AIの書籍「実践 生成AIの教科書」を出版 - Digital Highlights:デジタル:日立 (hitachi.co.jp)

加治
山口さんは、日立の取り組みについてどのように感じられましたか。

山口
経営学者のテレサ・アマビールも言っているように「遊び」が重要ではないかと思います。例えば、Googleはもともとラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンの博士過程での研究が出発点ですし、Appleはスティーブ・ウォズニアックが趣味でつくっていたコンピュータをスティーブ・ジョブズが売ったのが最初ですね。Facebookの原形もマーク・ザッカーバーグがつくったゲームです。つまり、どれも最初から事業化を考えていたわけではなく、興味関心をひかれる素材としてのテクノロジーがあり、これで何か面白いことをしたいという「内発的な動機」から始まっている。それが多くの人々をひきつけたことで大きな事業に育っていったわけですよね。最初から収益や評価などの外部動機を考慮していたら、おそらくGAFAは世に出ていなかったはずです。

ですから、吉田さんがおっしゃったように「100%であること」など考えずに、生成AIというテクノロジーを使って自分が面白いと思うことをやってみてはどうかと思います。27万人の組織は2万7千人の組織と比べて10倍のトライの機会があるわけですから、まずはいろいろやってみてトライアンドエラーを積み重ねていくと、そのなかにビジネスの新しい可能性が見つかるはずです。内発的動機を出発点としたトライをどれだけ増やせるかが、生成AI活用の可能性を広げるのではないでしょうか。

第5回は、9月30日公開予定です。

画像1: 生成AI×ヒューマニティ ビジネスの未来を創る鍵
第4回トークセッション:テーマ2「ビジネスへの適用と課題」
重要なのは日常業務の中で活用すること

山口 周(やまぐち しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

画像2: 生成AI×ヒューマニティ ビジネスの未来を創る鍵
第4回トークセッション:テーマ2「ビジネスへの適用と課題」
重要なのは日常業務の中で活用すること

吉田 順(よしだ じゅん)
株式会社日立製作所 Generative AIセンター長 兼 Chief AI Transformation Officer。1998年に日立製作所に入社。2012年にAI/ビッグデータ利活用事業を立ち上げ、AIやデータ利活用プロジェクトを多数推進。2021年より、トップデータサイエンティストを終結したLumada Data Science Lab.のco-leaderとして、Lumada事業拡大の加速と人財育成の強化に取り組んできた。現在は、デジタルエンジニアリングビジネスユニットData&Design本部長 兼 Generative AI センターのセンター長として、生成AIを活用したプロジェクトをリード。

画像3: 生成AI×ヒューマニティ ビジネスの未来を創る鍵
第4回トークセッション:テーマ2「ビジネスへの適用と課題」
重要なのは日常業務の中で活用すること

加治 慶光(かじ よしみつ)
株式会社日立製作所 Lumada Innovation Hub Senior Principal。シナモンAI 会長兼チーフ・サステナビリティ・デベロプメント・オフィサー(CSDO)、鎌倉市スマートシティ推進参与。青山学院大学経済学部を卒業後、富士銀行、広告会社を経てケロッグ経営大学院MBAを修了。日本コカ・コーラ、タイム・ワーナー、ソニー・ピクチャーズ、日産自動車、オリンピック・パラリンピック招致委員会などを経て首相官邸国際広報室へ。その後アクセンチュアにてブランディング、イノベーション、働き方改革、SDGs、地方拡張などを担当後、現職。2016年Slush Asia Co-CMOも務め日本のスタートアップムーブメントを盛り上げた。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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