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早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄氏
日立製作所主催により生成AIをテーマとした講演会を開催した。今回ご登壇いただいたのは、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄(いりやまあきえ)氏。『世界の経営学から見た、DX・AI・人間の役割への視座』をテーマにした講演の採録後編は、両利きの経営におけるデジタルの役割、そしてDXの目的について。

「【前編】:両利きの経営とイノベーション」はこちら>
「【後編】:DXの目的は「知の探索」

AIに「知の探索」はできない

ではなぜ今DXやAIが重要なのかというと、それはイノベーションのためです。これからはイノベーションが企業の未来を決めますから、「知の探索」と「知の深化」という両利きの経営が必要で、そのためにデジタルやAIというのは圧倒的に使えるわけです。まず「知の探索」においては、デジタルやAIのおかげで知の幅を一気に広げることが可能になりました。

その事例として取り上げたいのが、三井化学です。こちらのCDO(Chief Digital Officer)の三瓶さんとお話させていただいた時にお聞きしたのですが、今世界中の科学関係の特許情報や論文、SNSのつぶやきまで世界中の情報を集めて、LLM(※)に学習させることで化学に関する知見をマッピングしているそうです。化学に特化した世界の情報が、自分たちが使いやすい形で自由に活用できる。地球の裏側の論文やつぶやきを、必要な時に必要な形で見ることができるのです。ネットワークやAIなどのテクノロジーのおかげで可能になった、幅広い「知の探索」のお手本ですよね。今はこういったことが、自分たちでできるのです。
※ Large Language Models(大規模言語モデル):膨大なテキストデータから学習し、高度な言語理解を実現する技術。

画像: AIに「知の探索」はできない

このようにAIによって認知の幅を広げることは、「知の探索」に大いに役立ちます。役に立ちますが、探索の本質は先ほどお話したように実際に人が移動して、リアルに見たり聞いたり感じたりすることです。イノベーションのために絶対に必要な「知の探索」ですが、その大半は無駄に見えるし失敗も多く、お金もかかるということで、企業は確実な「知の深化」の方をやりたがるというのが先ほどお話した「競争力の罠」でした。

ここで考えていただきたいのですが、探索とは無駄に見えることをあえてやるということです。失敗しても、あえて組み合わせてみる、本質的な意味でこれは人間にしかできないことです。もちろん認知を広げる道具として、AIは使えます。でも遠くで見つけた知見を持ち帰ったり、それを失敗してもいいから組み合わせてみたり、そういった意思決定は人間でなければできません。

さらに言いますと、今のAIはディープラーニングで学習していくわけですが、ディープラーニングというのは「失敗を減らす仕組み」です。自動的に失敗を減らしていくのがAIですから、失敗してもあえてやるという能力は持ち合わせていません。

デジタルは「知の深化」のインフラに

しかし一方で無駄を省くとか、効率を上げる、確実にこなすといった「知の深化」に関しては、デジタルやAIは圧倒的な能力を持っています。深化に関しては、人間には真似のできないことをこなす力があります。それならAIやRPA(ロボティックス・プロセス・オートメーション)といったデジタルテクノロジーは、「知の深化」のインフラとして活用するのが正しいのではないでしょうか。

私は、DXは「知の探索」のためにあると考えています。AIやRPAなどのデジタルを「知の深化」のインフラにして、人間にしかできない「知の探索」と取り組みやすい環境を作ることが、DXです。これまで日本の企業の多くは、「知の深化」側に時間と労力をとられ過ぎでした。これからは、AIやRPAで代替できる仕事はできるだけデジタルに任せて、企業の貴重な人財やリソース、エネルギーは「知の探索」側に振り分ける。それがDXを行う最大の目的だと思います。

オックスフォード大学の教授であるマイケル・オズボーンが、「2030年までに米国の雇用の47%が自動化する」という論文を10年ほど前に出して、世界的に話題になりました。確かに雇用は奪われます。奪われるけれども、奪われる仕事はほとんどが「知の深化」側です。「知の探索」は、むしろ価値が上がるのです。何年か前にマイケル・オズボーン本人と対談した時にこの話をしましたが、彼も共感してくれました。

これからの経営者は、人財を「知の探索」側に移していくことが何より重要になりますから、「人事」がポイントになってきます。私は日本のデジタル改革の肝は、デジタルのトップが人事のトップを兼任することだと思っていて、私の知っている経営者の方を見ても改革を実行している方の多くが人事権を持っています。経営者が人事の舵取りを行うことで、縦軸の「知の探索」に人を集中させる。そのために横軸の「知の深化」は、デジタルを駆使していく。それが私の考えるDXです。

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「【後編】:DXの目的は「知の探索」

画像: 世界の経営学から見た、DX・AI・人間の役割への視座
【後編】DXの目的は「知の探索」

入山 章栄(いりやま あきえ)
早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号(Ph.D.)を取得。同年、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に就任。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から現職。
専門は経営学。国際的な主要経営学術誌に多く論文を発表している。著書の『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』、『世界標準の経営理論』はベストセラーとなっている。

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