「第1回:15年目を迎えた、日立の社内ネットワーク活動」はこちら>
「第2回:『変われる組織』のロジック」はこちら>
「第3回:思考停止からの再起動」はこちら>
「第4回:コロナ禍で挑む『イノベーションのDX」」はこちら>
「第5回:Team Sunriseはなぜ続くのか」はこちら>
「第6回:イノベーションの原動力」はこちら>
「第7回:米国ベストセラー『The Human Element』を、日本に。」はこちら>
「第8回:グローバルマインドセットと英語力」はこちら>
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「第10回:日立の挑戦する文化を支える「両利きの架け橋」~東原会長へ20年間の活動報告~」はこちら>
「第11回:日立の挑戦する文化を支える「両利きの架け橋」~東原会長とTeam Sunriseメンバー座談会~ その1」
※ 本記事は、2025年7月29日時点で書かれた内容となっています。
何がチャレンジを阻むのか
佐藤
本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。前回Team Sunriseの20年間の活動報告会と同じく、私佐藤と宮澤という事務局の2人とアンバサダー4人というメンバーでやってきました。今回は座談会という形で、社内ネットワークという取り組みについてさらに深掘りしていけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。
東原
はい、分かりました。
佐藤
前回、Team Sunriseの活動についてお話させていただいた時、これを日立に広げるためにはどうしたらいいのか。それをグローバルに展開するためにはどうすればいいのかを、改めて考えてみました。私たちは、早速CHR(Chief Human Resources Officer)のロレーナさんにお会いして、Team Sunriseについてご説明し、グローバルでのイノベーションを育てる機会の発展などについても意見交換をさせていただきました。
TeamSunrise代表 佐藤雅彦
また、私たち仲間同士での議論の中で、もし日立の人間が新しいことに挑戦しにくい状況があるとしたら、それは社員の意欲がないということではなく、阻害する要因があるのではないかと仮説を考えました。優秀で真面目な人ほど目の前のことを頑張り過ぎて、なかなか新しいことへのチャレンジや、組織を超えたネットワーク作りに取り組むことができない。すなわち挑戦しないことが、合理的になってしまっているという可能性について考えました。もしそうであるなら、阻害要因となるそうした状況は、取り除いてあげなければいけない。そのために、東原さんが話されていたOne Hitachiで挑戦することが正当に評価されるような新しい制度についてもしっかりと考えながら、そうした制度と連携していく。今後は、グローバルTeam Sunriseのような活動に発展させて行きたいという思いを強く持ちました。
東原
そうですか。
佐藤
私たちも、報告会の後で他社はどんなことをやられているのかを、他社との意見交換の場などを通じて調べてみましたが、各社の傾向は、プロフィット・アンド・ロスで先行した事業を優先してしまうので、新事業の種を育てることが難しい。さまざまなプログラムやコミュニティ活動を、それぞれ工夫してやられてはいますが、どの企業も苦戦しているというのは共通していました。高いモチベーションで働いている人ほど、仕事が忙しくて新しい活動に参加できないという課題に対して、就業時間の15%を異なる業務に使ってよいというルールで支援するという動きもありますが、中には形骸化している企業もあるなど、単なるルールづくりだけでは正解とは言い切れないこともわかってきました。社員ひとり一人の意欲や志などが大事だと改めて感じました。そんな中で小野さんは、制度とは異なるところで自主的なネットワークが動き出した経験をお持ちなので、参考事例として紹介してもらえますか。
日立アカデミー 小野瑛子
小野
日立アカデミーは、日立グループ内の自律学習を推進する学習体験プラットフォーム(LXP)を提供しています。そのLXPも活用しながら、自律的に手を挙げてくださった学習インフルエンサーとともに、語学に関する自律的な学習を促進する活動をしております。日立では多くの外国籍の方が日本で働いていますので、その方たちと英語を話す機会を作れば、生きた語学学習ができるのではということで、学びあいの場づくりをしました。当初の目的はあくまで語学学習というところでしたが、そこに集まってくる方々は、組織や国籍を超えて、利他の精神で助け合い学びあい交流する、ということにとても価値を感じてくださっていて、日本の方外国籍の方を問わず積極的にネットワークを作るようになりました。私たちの当初の目的や想定以上にコミュニケーションが活発になり、そこから更に新たなコミュニティが生まれるなど自主的な活動の場として発展していった、そんな経験になりました。
佐藤
期待以上の展開が生まれるというのは、私たちの活動が広がる時に共通して起きることです。成功事例と言われているさまざまな企業の事例を調べてみて共通しているのは、社員達が運営するイノベーションフォーラムのような場、社員が何かを見せ合う場を大事にされているということです。さらに、そうした活動を経営者が本気で支援しているということ、そして、そうした社員の挑戦がきちんと評価されているということも共通するポイントでした。
Make a Difference! のバックストーリー
東原
新しいことにチャレンジする場として、私は2015年に「Make a Difference!」を作り、2017年に未来投資本部を作りました。Team Sunriseも賞を獲りましたね。なぜこの制度を作ったのかというと、私が2014年に社長兼COOになって2018年の中期経営計画で、あまりにも低かった利益率を最低でも8%までもっていかないと、グローバルでは戦えないという話をかなりしたんです。その後のタウンホール・ミーティングなどで現場の方の声を聞いてみると、予算ばかり上から押し付けられて、プレッシャーがきついとみんな感じていることがわかりました。会社が息苦しくなってしまってはいけない。それなら自由な発想で、会社をどう変えたいのかを提案できる場を作ろうということで、Make a Difference!というアイデアコンテストを始めたのです。
日立製作所 取締役会長 代表執行役 東原敏昭
いいアイデアや発想を持っている人は仕事もできるから、自分の職場に戻ると忙しくて新しいことに取り組めないということも聞いたので、2年後に未来投資本部を作りました。職場とは切り離された環境で、新しいことにチャレンジできる場を作ったのです。Make a Difference!も未来投資本部も、社長直下でやりました。うまくいった点や課題などもありましたが、重要なのはそういう環境を用意することだと私も認識しました。
優先度を考えた末に、あえて挑戦しないことが合理的だという考え方は、確かにあるのかもしれません。それは、人間の煩悩の問題でもあると思います。人間誰しも褒められたいし、良く思われたい。特に上司にはそう思われたいから、上司から言われた仕事を最優先してきっちりやるという安全志向なタイプに、どうしてもなっていく。将来の幹部候補だなんて言われると、余計に冒険的なことはしなくなるのは仕方がない。それを理解した上で、本当にみんながもっと自由闊達にやれる環境を作って、変なプレッシャーを感じずにOne Hitachi的な活動をどんどんやって、自分の仕事以外でも成果を出している人をきちんと評価する制度があれば、もっと創造的な日立が作れるはずです。
日立オープンイノベーション・ハブ
東原
あなた方が作ったこのハブ機能が、ジャパニーズとかノンジャパニーズの分け隔てなく誰もが参加できるひとつの形として日立の中で育ってくれると、HRの方も評価しやすくなるかもしれません。「あの人は今、インフォーマルの活動からステップアップして、事業化に向けたフォーマルな活動のループで頑張っているのだな」ということが明確にわかれば、それに見合った報酬といった評価がしやすくなると思います。
佐藤
未来投資本部というのは、アイデアという種を事業化していく時にパワーを与えてくれるような、このスライドでいう右側のループの役割を担っていたと思いますが、現在の日立全体で考えると戦略SIB(Social Innovation Business)がそういった役割になるのですか。
東原
2025年の新体制では、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズという事業と、その全体に関わるデジタルシステム&サービスが、両利きの経営でいう「知の深化」で主力事業を深めていく。その時5年先の事業化をめざすような「知の探索」をこの中でやるのは難しいので、それは組織として分けた戦略SIBが担うという体制にしました。私が社長になった2014年に、「これからは自律分散経営になっていく」と言いましたが、10年かけてグローバルでそれが実現できるようになったということです。
佐藤
それぞれの社員が自律的に動いて、セクターや地域も超えてコミュニケーションをとりながら新しいことがやれるようになれば、それは本当にOne Hitachiにつながりますね。
東原
その時に、社員の皆さんそれぞれが「もし私がCEOだったらどうするだろう」という発想で仕事をとらえて欲しいと思います。そうすれば、目標を達成するだけではなく、こういうことも大事なのでないかという視座が持てるし、上司にも自信を持って提案もできるはずです。
第12回は、9月29日公開予定です。
東原敏昭(ひがしはら としあき)
株式会社 日立製作所
取締役会長 代表執行役
1955年生まれ。1977年日立製作所入社。電力や鉄道など様々な分野の制御システムの品質保証や取り纏め業務に長く従事。国内外の子会社社長等の経営経験を経て、
2014年執行役社長兼COO兼取締役、2016年執行役社長兼CEO兼取締役、2021年執行役会長兼CEO兼取締役、2022年4月より現職。
社外でも経団連審議員会副議長や日本科学技術振興財団理事長などを務め、社会課題解決や科学技術教育支援に尽力。著書に「日立の壁」(東洋経済新報社)
佐藤雅彦(さとう まさひこ)
株式会社日立製作所 研究開発グループ
技術戦略室 戦略統括センタ
オープンイノベーション推進室
チーフストラテジスト
国際関連NGOのIT責任者を経て、2001年日立製作所に入社。情報通信事業のシステムエンジニアリングや新会社設立、M&Aなど新事業企画に従事しながらMBAを取得。現在博士課程にて組織経営学を学ぶ。本社IT戦略本部、研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 主任研究員などを経て、2023年より現職。研究開発戦略の立案やオープンイノベーションの推進を担っている。2006年より継続する社内ネットワーク活動「Team Sunrise」代表。
宮澤亜紀(みやざわ あき)
株式会社日立アカデミー ビジネスパートナリング本部
ライフBPグループ
主任
日立製作所に入社後、営業職を経て日立アカデミーの前身である日立総合経営研修所に異動。現在はビジネスパートナリング本部にて、BUやグループ会社と連携した事業戦略・人財戦略・育成ニーズの共有、組織力強化ソリューションの企画を実施。若手から管理職層までの育成支援やナレッジ活用の促進。Team Sunrise事務局として活動し、近年は日立アカデミーのイベントとのコラボも企画。
大澤郁恵(おおさわ いくえ)
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部
社会イノベーション事業統括本部
ウェルビーイングソサエティ事業創生部
ウェルビーイングソサエティ第二部
主任
ウェルビーイング事業の企画検討に従事。自主的な活動として、社員のキャリアサポートに取り組み、提案した社内改革アイディアが社内ビジネスコンテストで銀賞を受賞。育休中にはキャリアコンサルタント国家資格を取得し、キャリア形成を支援する取り組みを行っている。
小野瑛子(おの えいこ)
株式会社 日立アカデミー 研修開発本部 L&Dソリューション部
主任
2009年日立製作所入社。IT部門の営業を経て、顧客人事部への人事システム提案をきっかけに、自律的なキャリア形成や人財分野に興味を持ち、 2022年に日立グループ内の公募で自ら異動し現職。
現在、日立アカデミーにて、語学・グローバル研修開発/企画や、自律的な学びを支援する学習体験プラットフォーム(LXP)を活用した語学学習活性化など、人財育成支援に携わる。
中崎一成(なかざき かずなり)
株式会社 日立ソリューションズ 経営戦略統括本部
サステナビリティ推進本部
ブランド・コミュニケーション部
部長代理
2003年、株式会社日立ソリューションズに入社。入社以来一貫してマーケティング・コミュニケーション分野に従事。2022年、全社SXプロジェクトの事務局を担当し、企業ブランディングのプロジェクトマネジメントを推進。2024年、協創でサステナブルな未来社会の実現をめざすコミュニティ「ハロみん」の立ち上げを牽引し、コミュニティマネージャーとして持続可能な社会づくりへの貢献に挑戦している。経済産業大臣登録 中小企業診断士。
田中律羽(たなか りつは)
株式会社日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部
経営戦略統括本部 事業開発本部
2023年に新卒入社。スタートアップとの協業による事業開発や、両利きの経営(既存事業の深化と新規事業の探索)の実現に向けた社内制度の検討・施策の実行に従事。学生時代は応用化学を専攻し、学会発表や論文執筆を通じて技術と社会の距離感に課題意識を持つ。研究と並行してアメリカ・欧州へ留学し、現地でスタートアップ立ち上げやアクセラレータでのインターンを経験。現在は、これらの経験を活かしながら、新事業創出に向けたエコシステム形成に挑戦している。