山口 周氏 独立研究者・著作家・パブリックスピーカー/所 ジョージ氏 シンガーソングライター・タレント
1977年にシンガーソングライターとしてデビュー、ユニークな世界観と軽妙な語り口、MC力でタレントとしても人気を博し、芸能界で独自の地位を築いてきた所ジョージさん。その生き方から、所さんを「リベラルアーツの人」と言う山口氏と「人生を楽しく生きる術」について語り合う。
人工知能が急速に進化する中で、人間らしい生き方や創造性を見つめ直す動きも広がる今日の社会。時短や省力化の流れに逆らい、幸せに生きるためのヒントが、二人の軽やかな言葉から立ち上がる。

目に入るすべてをきれいなモノだけにしたい

山口
今日は大変楽しみにしてきました。この部屋はほんとにオモチャ箱のような、おもしろいものであふれていますよね。カスタムされたモデルガンもいっぱいで。所さんは、例えばオイルライター用のオイル缶など、いろいろな製品のパッケージもカスタマイズされているのですよね。シールを貼ったり、別の缶に入れ直したり。


そう。気に入らないのは入れ直したりしますね。あとはエアガンのガスの缶とか、殺虫剤の缶もゴキブリが描いてあったりして気に入らないんですよ。そういうのは全部きれいな紙を貼りつける。

山口
そういうふうに見た目を変えてしまおうって、世の中の人はあまり考えないと思うんです。


僕はね、目に入るすべてをきれいなモノだけにして暮らしたいの。例えば、食事のとき、テーブルの上に消しゴムが置いてあったらイヤでしょう。箸の横にあったりしたら食欲がなくなる。あれと同じ。気に入ったもの以外のものがテーブルの上にあるのは見たくないんです。

山口
それで実際に変えてしまうのが所さんらしさですね。多くの人は与えられたまま、そういうものだと思って暮らしているけれど。


今あるもの、与えられたものを受け入れつつ、その上で「どう楽しめるのか」を考えるのが工夫だし、クリエイティブだという感じがするんですよ。だから嫌なら変えてしまえばいいだけの話なんですよ。おもしろいのはね、スプレー糊で缶に紙を貼るじゃないですか。そのスプレー糊の缶自体も気に入らないから、それにも紙を貼るじゃないですか。ということは、スプレー糊は自分を使って自分に紙を貼られてるわけじゃないですか。「バカだね、こいつ」と思いながらやってると、すごく楽しい。

山口
「どうだ、ざまーみろ」みたいな。


そう。おもしろくてしょうがないの。ところが難点は、どれがどれだかわからなくなること。スプレー糊だと思ったら塗料が出てきたりして。だから上から手書きで中身の名前を書くんだけど、それもカッコよく書きたい。そういう遊びが延々と続く。

山口
所さん式の「暮らしのデザイン」ですね。でも他の人がスプレーを使おうすると大混乱になりますね。どれが殺虫剤なんだ、と。


だから誰も手を出さないよ、うん。やっぱりメーカーはわかりやすくデザインしているんだなと思って。あと裏側にも能書きがいろいろ書いてあるでしょう、クレーム対策みたいなこと。そういうのも気に入らないから全部剥がしますよね。ジャムの瓶の裏側のラベルも、金ダワシでゴシゴシ洗ってとっちゃう。

山口
そういうのがまた楽しいんですよね。家にあるスプレーとかのパッケージをどれだけかっこよくカスタマイズできるか、家族みんなでコンテストしてみたりして。


うちのファンは偉いんですよ。「所さん、こういうの好きでしょ?」みたいにパッケージをつくって送ってくれるの。だから「俺も怠けてちゃいけないな」と。

リベラルアーツとは人生を楽しむ術

山口
私は10年近く前に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』という本を出しました。当時、論理や効率ばかり優先する風潮に石を投げたい気持ちだったんです。「みんな、もうちょっと美意識を持って生きようよ」ということを言いたくて。


それはいいですね。根本的な部分で大事なことですよ。

山口
はい。その意味で、所さんは美意識を貫いていると感じます。生き方もそうですし、身の回りのモノのデザインも。アーリーアメリカンな雰囲気がお好きなんでしょうか。


なんだろうね。角張ったものはあまり好きじゃないんだよね。曲線的に流れていくようなラインが好きなんですよ。ところが食べ物、特に野菜は角張っていないとイヤなの。どこかに人の手が入っている感じがあったほうがいい。サトイモの煮物なんかも、丸くてねっとりしたやつは嫌いなんですよ。六角に皮が剥かれていて、エッジが立ったまま煮崩れていないみたいなのが好きですね。で、なんの話でしたっけ(笑い)。

山口
この対談シリーズのテーマ「リベラルアーツ」は、一般的には歴史や哲学などのいわゆる「教養」と呼ばれるものですけれど、大事なのは何のために教養を身につけるのかということです。私が思うに、リベラルアーツとは自由になるための技術で、それは「人生を楽しく生きる術」なんです。言葉がわかれば文学を楽しめますし、音楽の知識があれば楽曲をより深く楽しめますよね。知識と自分の価値基準をもって行動できれば、人生が楽しくなる。そのための教養だと思うんです。


まあ、楽しみ方は人それぞれだから、それぞれ楽しく生きられたら何の文句もないし、人が何をやっていてもかまわないですよね。

山口
それがリベラルアーツの本質ですよ。所さんはまさにその体現者です。


ただ「僕はこうやって生きていますよ」と。「それが楽しく見えるなら参考にすれば?」くらいの話なんですけどね。

山口
所さんはテレビ番組でも著書でも、自分が楽しんでいる姿を見せる、というスタンスをとっておられますよね。だから、人生を楽しむ術がリベラルアーツなのだとすると、所さんはやっぱり「リベラルアーツの人」だと私は思います。


朝起きてから寝るまで楽しくないと、一日もったいないじゃないですか。誰しもうまくいかない日もあれば、失敗もありますよ。でも失敗したときに、後ろ向きな気持ちになって、そのままやめてしまうのがダメなんだ。失敗したまま終わらせたら今日一日がムダになるわけだからね。そうじゃなくて、次の日は2倍頑張るという前向きな気持ちになれば、楽しくなれるでしょ。

第2回は、1月6日公開予定です。

所 ジョージ
1955年埼玉県生まれ。O型。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの前座を務め、1977年にシンガーソングライターとしてデビュー。演奏としゃべりを組み合わせた独自のスタイルで、タレント、コメディアンとして人気を博す。日本テレビ系バラエティ『世界まる見え!テレビ特捜部』、『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』などの司会をはじめ、日本を代表するタレントとして多数のバラエティ番組で活躍。また俳優、声優、ラジオパーソナリティ、作家、コピーライター、発明家、ゲームクリエイター、YouTuber、漫画家などの顔を持ち、多才ぶりでも知られる。
現在、『所さんの目がテン!』(日本テレビ系列)、『所さん!事件ですよ』(NHK総合)、『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』(テレビ東京系列)、『ポツンと一軒家』(朝日放送テレビ・テレビ朝日系列)、『所さんの世田谷ベース』(BSフジ)にレギュラー出演中。

山口 周
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。
著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来』(プレジデント社)、『クリティカル・ビジネス・パラダイム』(プレジデント社)他多数。最新著は『人生の経営戦略 自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』(ダイヤモンド社)。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。