一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授 楠木建氏
2カ月にわたってお送りしてきた「二流経営者の条件」。最後の条件は「話がつまらない」一流の経営者ほど、話が面白くて、しかも明るい。それは、性格の明るさとは違うものだと楠木氏は語る。

※本記事は、2023年8月1日時点で書かれた内容となっています。

「条件1:激動期おじさん。」はこちら>
「条件2:掛け声をかける。」はこちら>
「条件3:SDGsバッジを着けている。」はこちら>
「条件4:短期バランスをとろうとする。」はこちら>
「条件5:何をしないのか決断しない。」はこちら>
「条件6:シナジーおじさん。」はこちら>
「条件7:未来予測の記事を読みたがる。」はこちら>
「条件8:マクロ環境他責。」はこちら>
「条件9:話がつまらない。」

二流経営者の条件、最後は「つまらない話をする」。これこそ二流経営者最大の特徴だと思います。裏を返すと、やっぱり一流経営者は話が面白いし、明るい。プレゼンテーションが上手いという意味ではないんです。パーソナリティーが明るいという意味でもない。

例えば、僕が以前からずっと学ばせていただいているファーストリテイリングの柳井正さん。超一流の経営者ですが、僕は性格的に明るい人だとは思っていません。ただ、思考において柳井さんはヒジョーに明るい。

柳井さんはつねに「ひょっとしたら……」と考えるんです。「ひょっとしたら、こういうふうにやったらすごく儲かるんじゃないか」みたいな感じで戦略構想が湧いてくる。

部下に対しても柳井さんは、「“ひょっとしたら”っていう話を持ってきてください」とよく言っています。部下が持ってきたアイデアに対して二流経営者がよく言うのは、「それ、絶対上手くいくのか?」「エビデンスはあるのか?」――暗いんです。柳井さんは絶対にそういうことを言いません。いつも「ひょっとしたら」で考えるから、思考が明るいし、話が面白い。

なぜ、一流経営者は話が面白いのか。最大の理由は、話している自分自身が一番面白がっているからです。こうやったらこうなって、こんなことになって、きっとこうなるんじゃないか――自分の戦略ストーリーに論理的な確信を持っている。蓋然性の高い因果関係でもって、戦略ストーリーが出来上がっている。

打ち手を講じる前に経営者が拠り所にできるのは、論理的な確信にしかない――これが僕の考えです。実際にやってみて上手くいくかどうかは、だれにもわからない。だから、事後の成功にはだれも確信が持てない。ただ、事前に論理的な確信を持つことはできる。自分が考えた話が自分にとってもすごく面白くて、人に話したくなる。これが一流経営者です。

二流経営者は話がつまらない。聞いているほうがつまらない分には、まだいい。好みの問題ですから。駄目なのは、話している当の本人が、自分の話を面白いと思っていないケースです。自分でも面白くない話に、従業員やお客さまがついてくるはずがありません。

自分でもつまらない話をわざわざして従業員を巻き込み、会社を動かして、失敗する。もはや犯罪レベルです。自分でも面白いと思っていない話をした経営者は、その時点で背任行為とみなす――そういうふうに会社法を改正できないのかと、以前、法務省の人に聞いてみたのですが、「外形的な基準がないので法制度化できません」という答えでした。そりゃあそうです。

ただ、こういう経営者がいなくなるだけで日本の企業の収益はすごく伸びて、納税額も増えて、賃金も増える――そのくらい、根本的な問題です。やっぱり、思わず人に話したくなる話こそ、経営戦略の原点にして頂点です。

以上、2カ月にわたって「二流経営者の条件」についてお話ししてきました。

最後に、二流経営者かどうかを判別するためのチェックリストを付けます。

  • すぐに「今こそ激動期」という掛け声に逃げる。
  • 短期でバランスをとろうとする。
  • 何かにつけて「一理あるな」と言う。
  • 自分でも面白いと思っていない話をする。
  • やたらと「シナジー、シナジー」と言う。
  • 「サブスク」のような旬の「飛び道具」が大好き。
  • 未来予測の記事を読みたがる。
  • ちょっと目を離すとすぐ、組織に「横串」を刺そうとする。
  • 揚げ句の果てに、「〇〇ざるを得ない」を連発。
  • 胸に輝くSDGsバッジ。

これで身の回りの経営者をチェックしてみてください。半分以上該当した経営者はほかのだれかに代わってもらったほうがいい。

二流経営者の就任を回避するために、今からでもできることが1つあります。それは、将来社長になる可能性の高い従業員を、このリストでチェックする。半分以上該当した従業員に関しては、マル秘情報としてチェックした結果を残しておくことをお勧めします。あとあと「なぜ、その人じゃ駄目なんですか?」と聞かれたとき、「だってこの人、すぐ掛け声かけますからね」と、明確な理由を答えられるからです。ぜひ、試してみてください。

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「条件3:SDGsバッジを着けている。」はこちら>
「条件4:短期バランスをとろうとする。」はこちら>
「条件5:何をしないのか決断しない。」はこちら>
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「条件9:話がつまらない。」

楠木 建
一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授。専攻は競争戦略。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科助教授、同ビジネススクール教授を経て2023年から現職。有名企業の経営諮問委員や社外取締役、ポーター賞運営委員(現任)などを歴任。1964年東京都目黒区生まれ。

著書に『絶対悲観主義』(2022年,講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年,日経BP,共著)、『「仕事ができる」とはどういうことか?』(2019年,宝島社,共著)、『室内生活:スローで過剰な読書論』(2019年,晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる:仕事を自由にする思考法』(2019年,文藝春秋)、『経営センスの論理』(2013年,新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年,東洋経済新報社)ほか多数。

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