株式会社Gabの山内萌斗氏のキーノートスピーチの2回目。山内氏の志の原点は、人から必要とされ、「ありがとう」と言われる人生を送りたいというものだった。ただ、現在に至る道までには、さまざまな挫折と困難に直面していた。

「第1回:サステナブルを自分ごとに」はこちら>
「第2回:気候危機下で私たちができること」はこちら>
「第3回:イノベーションの敷居を下げるには?」はこちら>
「第4回:起業の原点となった志とは?」
「第5回:サステナブル時代の人財開発戦略とは?」はこちら>
「第6回:サステナブル時代の人財育成のあり方とは?」はこちら>
「第7回:組織におけるイノベーションの仕組み」はこちら>
「第8回:社会課題を自分ごと化して創る未来」はこちら>

野球から空手部に転部してすぐに優勝

僕の志の原点は、中高5年間の野球部での無力感でした。野球が下手で、チームの中で貢献できず、無下に扱われ、必要とされない感覚がありました。で、高校2年生の6月に野球部を辞めました。小学校から空手と野球をやっていたのですが、空手部に転部した途端に、体力もパワーもついていて、すごく強くなっていました。最初の大会で準優勝、2度目の大会で優勝しました。顧問や部員たちから、すごく褒められたんです。それで地獄から脱却できました。必要とされて「ありがとう」と言われることが人生の中で追求したいトピックになりました。

まず「ありがとう」と言われるのは先生だと思いました。学校教育に不満を感じていましたので、教育を変えるには先生かなと。ただ、先生では40年間勤めて40の教室しか変えられない。もし一つサービスをつくれば、一気に日本全国で使われて、教育を変えられる。大学に入ってすぐ自分のアイディアを教授に話し、日本の教育を解決できると信じたサービスを実装して、浜松市の4つの高校で実証実験をしました。このサービスで生徒の満足度が高くなり、先生もそれを使うことで授業が楽になりました。もしこれを一気に40校で実現すれば、もし先生になって40年間勤めてやることを1年に短縮してできるなと。起業家になるという実感を「自分ごと化」できました。

ビジネスコンテストに入賞し、シリコンバレーを訪れた

ゴミ問題は人類に必要不可欠な事業

その過程で東京大学の起業家育成プログラムに参加、最終選考に残りシリコンバレーに行けました。そこで最初にお話しした「must have」事業の必要性に気づきました。そこを軸にアイデアを練っていましたが、2019年の9月に渋谷に根ざした「地方の大学生が東京に来て東京の課題を解決する」ビジネスコンテストで、渋谷のポイ捨て解決のために自販機の横のゴミ箱に広告を掲載し、そこから得られる広告費をもとにポイ捨てを解決するというアイデアを出して優勝しました。審査員からは「ゴミ問題は人類規模の問題で課題が圧倒的に深い。解決できれば大きな事業になるし、人類に必要不可欠な事業になる」と、背中を押してもらい「must have」になるか想像はできていませんでしたが、ノリと勢いで10月に大学休学して11月に上京、12月に起業しました。

直後に投資家の方々に約束をし、資金調達で1,000万円を集めアイデアを事業化するところで、コロナ禍になりました。人流がないので、屋外広告も販売できない。市況を読めなかったこともあり、あっという間に、100万円まで口座残高が減りました。経営危機になり軌道修正を考え、人に会い、行動しながら見つけたのは、次の2つの問いでした。まずは、ごみ箱を設置せずにポイ捨てを撲滅できる効果的な策はないか? そして、そもそもゴミが発生しないもののつくり方、売り方、消費者の意識改革ができないかということです。

「エシカルな暮らし」は国内ナンバー1プラットフォームに

これをもとに新たな事業アイデアを模索する意思決定をしました。先ほど申し上げた北村くんが高校生のときに長野県で「清走中」を自主企画して盛り上がっていました。ゴミも集まり、みんなが笑顔になっていた。それが印象的で、北村くんも「事業化したい」と言い、「なら僕の会社でやろう」と、一緒に事業化しました。これは「正しさ」よりも「楽しさ」っていうキーワードでゴミ拾いのエンタメ化をめざしている事業です。どの地域でも皆さんが笑顔でゴミを拾ってたくさんゴミが集まる。そこで地域経済を回すようなスポンサーや、地域クーポンを消費したり、ゴミ拾いを軸にした社会課題解決ができる事業です。

さらに、「エシカルな暮らし」の原点は、そもそもゴミが発生しないものつくり、売り方、消費者の意識改革が必要なのではということです。エシカルとは、人・動物・地球に優しいという意味。そうした3商品を世の中に根づかせることが、社会課題を解決するためには大事だと思っています。この事業は成長していて、今では国内最大級のエシカルに特化したマーケティング支援プラットフォームです。

「LaaS(ラース:Lab as a Service)」商品開発の垣根をなくす新しい仕組みだ

「LaaS」はイノベーションに近づいている

ポイ捨てから始まり「エシカルな暮らし」を形にしてきてたどり着いた概念が” LaaS(ラース:Lab as a Service)“という考えで、これはイノベーションなのではと思っています。実店舗を通じて実装する概念で、お店のスタッフと出店メーカー、ブランドとお客様の垣根をなくし、全員がラボメンバーとして、より良い商品開発のために協力し合う空間、新しいものの作り方、売り方をみんなで模索する、コミュニティ型の実店舗です。

僕らはメディアのアセットが強いので、一気に拡散して反応を見て、またブランドさんに伝えるというプロセスを通じて、どんどん商品の透明性が担保され、より良い商品開発が実現されていく。その先には、ブランドが登竜門として僕らのブランドを使うような存在になりたいです。エシカルブランドじたいは、市場も小さいですし、プロダクトのクオリティにも課題はあります。そこを僕らが全力で伴走をして、素晴らしいプロダクトをたくさんつくって、消費によって社会課題を解決して行ければと考えています。

将来的には、自分たちが得たデータインサイトをもとに、「エシカルな暮らしブランド」を立ち上げて、取引のあるブランドに商品をOEMで発注する。エシカル版の無印良品のような存在となりたいです。ブランドと一緒に僕たちがスケールしていき、いろいろなプロダクトが作られ、より良い商品になりエシカルな暮らしがすべての人に届くような共創型の事業です。その規模拡大を、このラボ型の店でやりたいと思っています。(第5回へつづく)

協力:SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)

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山内萌斗(やまうち・もえと)
株式会社Gab 代表取締役CEO 
2000年、静岡県浜松市生まれ。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中(22歳)
東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度、同プログラムシリコンバレー
研修選抜メンバー、MAKERS UNIVERSITY 5期生 水野雄介ゼミ代表。大学一年次の2月にシリコンバレーを訪れた際に、人類の存続に必要不可欠な「must haveな事業」をつくることを決意し、同年12月に「ポイ捨てをゼロにする。」ことをミッションに掲げ、株式会社Gabを創業。現在3期目。フォロワー3.9万人のInstagramアカウント「エシカルな暮らし」の運営や、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」を全国展開など、「社会課題解決の敷居を極限まで下げる。」ことをミッションに掲げて複数の事業を展開中。