一橋ビジネススクール教授 楠木建氏/独立研究者・著作家・パブリックスピーカー 山口周氏
2022年3月16日にライブ配信した、楠木建氏と山口周氏による対談「資本主義のこれから」。最終回では、聴講者からの質問に、お二人ならではの考察を交えてお答えいただく。

「第1回:プロジェクトファイナンスと資本主義。」はこちら>
「第2回:イタリアに見る、資本主義の成熟。」はこちら>
「第3回:資本主義と社会主義は真逆なのか。」はこちら>
「第4回:Q&Aライブ」

Q1:成熟するためにはある程度のお金が必要では?

楠木
ここからは、聴講者のみなさんからの質問にお答えしていきます。

成熟するためにはある程度のお金が必要ではないでしょうか? 欧州の失業保険の内容は、日本よりかなり手厚いと思います。

確かに、手段としてのお金はある程度必要です。周さん、どう思います? お金に対する「足るを知る」ラインはどの辺にあるのか。

山口
その時代の物価次第なので答えようがないのですが、結構深い質問です。貧困ラインって国際的には「1日1ドルの生活費しかない状態」と言われていますが、実はこれもトリッキーな話で。

パリからタヒチに移り住んだゴーギャンは、「金が要らない、この国は」と書いています。腹が減ったらその辺になっているパパイアをもいで食べていればいい。だから、1日1ドルの貧困ラインというのは、ある意味ではものすごく傲慢な基準だと思うんです。お金をかけなくても、パパイアがあるから平気だよという人もなかにはいる。いくらお金があればいい、とは一概には言えない。

楠木
基盤的な生活が確保されているのを前提としたときに、手段としてのお金があると何がいいかと言うと、選択肢が増えることです。もしお金が目的になっていなければ、選択肢が増えることの価値の微分値は、金額が増えるにつれてだんだん小さくなる。

山口
漸近線のカーブを描くわけですね。

楠木
ええ。カーブが平らに近づいていったところが、その人にとって「これくらいのお金があればいいな」という金額。もちろんそれは人によって違うわけですが、少なくとも今の日本で考えると、年収3,000万円とか4,000万円を必要としている人は少数派だろうと僕は思います。

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定、文化政策立案、組織開発等に従事した後、独立。

著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『ニュータイプの時代』(ダイヤモンド社)、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』(プレジデント社)他多数。慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院美学美術史学専攻修了。

楠木 建
一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
ビジネスや経営に限らず、人間の世の中について考えることに興味関心をお持ちの方々のご参加をお待ちしております。DMM社のプラットフォーム(月額500円)を使っています。

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