認定NPO法人サービスグラント 事務局スタッフ 栗原彩乃氏 / 津田詩織氏
日立の情報通信部門が2016年度から実施しているサステナビリティ推進活動「企業プロボノ」に、各関係者の視点から光を当てる。最終回では、日立が企業プロボノの運営を委託している認定NPO法人サービスグラントを取材。2021年度の認定NPO法人スマイルオブキッズへの支援プロジェクトに伴走した栗原彩乃氏と、日立の企業プロボノを初年度から担当してきた津田詩織氏にご登場いただき、プロボノ経験者でもあるお二人が感じるプロボノの魅力を語っていただいた。

「第1回:サステナビリティ推進活動の担当者は、コロナ禍をどう乗り越えたのか」はこちら>
「第2回:NPOと向き合った、日立社員の2カ月半」はこちら>
「第3回:プロボノ支援が、NPOにもたらすもの」はこちら>
「第4回:プロボノに伴走する理由」

プロボノをマッチングし、プロジェクトをサポートする

認定NPO法人サービスグラントは、プロボノ支援を必要としている非営利団体と、プロボノに取り組みたい企業人や社員向けの施策としてプロボノを実施したい企業とをマッチングし、さらにプロボノそのものの進行をサポートすることで、非営利団体の活動を支援している。日本におけるプロボノの草分け的存在だ。

「プロボノでは、まず団体が抱える課題の整理と、スコープ(具体化・言語化された支援ニーズ)を設定します。その上で、支援チームの皆さんにオリエンテーションを行い、プロジェクトがスタートします。支援チームの皆さんにお伝えしたのが、企業とNPOとの考え方の違いです。企業では利益や売上が成果とされますが、NPOの場合は、その活動によって受益者がどう変化したかが成果であり、スタッフの方々のモチベーションになっています」

サービスグラント 栗原彩乃氏

そう語るのは、サービスグラントの栗原彩乃氏。2021年度の日立の企業プロボノで、認定NPO法人スマイルオブキッズへの支援プロジェクトに伴走した。プロジェクトを円滑に進めるため、ときにはフォローに入ることもあるが、基本的には支援チームと団体とのやりとりを見守る。あくまでも「パーティーのホストのような立場」だという。

「スコープの解釈や作業内容の絞り込み、団体に提案する資料のまとめ方などで支援チームの皆さんに迷いが見られたときに、ご相談に乗るというスタンスです。また、『支援チームの皆さん、とても心を尽くしてプロジェクトに取り組んでいますよ』と団体に進捗状況をお伝えするなど、信頼関係の架け橋になれるよう努めています」(栗原氏)

支援チームに生じた迷いと、ブレなかった姿勢

第2回でも触れたが、スマイルオブキッズへのプロボノ支援で日立の三塚大貴・池永絵里・兼子佑樹・川平清香の4人をまず悩ませたのが、団体が抱える課題の整理だった。栗原氏が振り返る。

「スマイルオブキッズが当初プロボノに求めていたのは『利用者データベースの要件定義』であり、背景には『団体の活動実績を明確化し、寄付などの支援を得ることにつなげたい』という課題がありました。ところが最初に団体に行ったヒアリングで、実はその課題意識があまり明確なものではないことがわかり、どういう方針で要件定義をしていけばよいのか、チームの皆さんに迷いが生じていました。

それでも皆さんが素晴らしかったのは、その後、団体が自覚していなかったさまざまな課題を引き出し、整理したうえで、オンライン化に向けたデータベースの定義を提案してくださったことです。さらに、集めた利用者データを今後どのように活用すれば団体の未来につながるかを考え、支援を集めるために必要なPR資料や、業務フローの改善も提案していただき、職員の方々にもとても喜んでいただきました。

チームの皆さんがいつも接している企業とは違うNPOの活動とその熱意に触れ、リラのいえを利用するご家族やきょうだい児の皆さんのご苦労への理解がいっそう深まったこと。さらに、最初に提示された『データベースの要件定義』というご要望にとらわれることなく、本当に団体のためになることは何かを考える姿勢を、4人が貫いたこと。だからこそ、職員の方々の思いに最後まで寄り添った支援ができたのではと思います」

チームにリーダーを置かない理由

日立の企業プロボノでは例年、チームにリーダーを置かない。「チームの皆さんにそれぞれのリーダーシップを発揮していただくのがねらいです」。そう語るのは、2016年度から日立の企業プロボノを担当し、2021年度の運営を取りまとめたサービスグラントの津田詩織氏だ。そもそもスマイルオブキッズと日立をマッチングした理由を、津田氏はこう明かす。

「今回スマイルオブキッズが抱えていたITシステムの課題は、まさに日立の社員の皆さんが得意とする領域ですし、皆さんの力を活かせば2カ月半で完結できる支援内容だと判断しました。また、これまで日立の企業プロボノに携わるなかで、お子さんを支援する活動のような、未来をつくっていくことをテーマに活動している団体への関心がとても高いと感じたのも理由の1つでした」

サービスグラント 津田詩織氏

2020年度に続き、プロジェクトにおけるミーティングは基本的にオンラインで行われた。対面形式のように気軽に雑談がしづらいなどのデメリットはあったものの、オンラインのメリットも見逃せないと津田氏は指摘する。

「30分や1時間といった短いミーティングを定期的に行い、時間をコンパクトに区切って対話の機会を多く持てるようになったことで、プロジェクトがスムーズに進みました。また、地方にお住まいの方やご家庭に小さいお子さんがいる方など、コロナ禍以前には参加しづらかった方の参加が増えてきました」

なお、参加者が企業プロボノの作業に費やした時間は、1週間あたり4~5時間。「限られた時間ながら、スマイルオブキッズチームの例のようにクオリティの高い成果を出していただくことができたことからも、無理なく参加できるように設計されています」(津田氏)

経験者だからこそ伝えたい、プロボノの魅力

栗原氏も津田氏もかつては企業に所属し、個人としてプロボノに参加した経験を持っている。なかでも栗原氏は、2021年春にサービスグラントの一員となったばかりだ。

「社会のしくみを知りたいという思いから2カ月間のプロボノに参加したのですが、短い期間ながらもNPOのなかにぐっと入り込むことで視野が広がり、ニュースの解釈の仕方や街で見かける光景、捉え方が変わったことが転機となりました。プロボノをもっと世の中に広げていけたらという思いで、サービスグラントに入職しました。

プロボノを支える立場として、参加者の皆さんが社会課題に触れて刺激を受けている様子を見るとうれしいですし、支援チームの方々が頑張って取り組んだことが団体に喜ばれて、その先にいる人たちの役に立っているという一連のつながりを目にできるのは幸せなことです」

一方の津田氏は、もともと研修事業を行う会社で営業を担当していた。しかし、「研修を受けた人たちに、その後どんなポジティブな変化が起きたのかがつかめない」というジレンマを抱えていた。

「初めてプロボノに参加したときに、人の成長につながる活動でもあり、NPOの課題を解決し、その先の社会の課題解決にもつながっていくというしくみに大きな魅力を感じました。自分のすべての時間を何かポジティブな変化を起こすために使えたら素敵なことだと考え、サービスグラントに入りました」

6年前から日立の企業プロボノを見てきた津田氏。その魅力とは何なのか、最後に聞いた。

「特にわたしが素敵だと思うのは、日立のサステナビリティ施策で掲げられている『B to B to C to S』という言葉です。B to Bの先にある顧客、さらにその先にある社会を知る。社会貢献にとどまらず、社会起点での将来のビジネスのための学びや視点を、プロボノを通じて得る。そういった狙いを企業が明確に言葉にして、社員の皆さんに伝えている姿が素晴らしい。将来的な投資としてプロボノを続けてくださる企業が増えることで、世の中がポジティブに変化していくと信じています」

サービスグラントでは、プロボノを「大人の社会科見学」とも表現する。プロボノを通じて社会課題に触れ、本業では得られない気づきを得ることで、社会に対する感度が高まる。それが、「社会に貢献したい」という思いに火をつけるとともに、社会の変化への対応力を身につけることにもつながる。社員のサステナビリティマインドを養うきっかけづくりとして 、企業がプロボノを導入する意義は大きい。

津田詩織(つだ・しおり)
認定NPO法人サービスグラント 事務局スタッフ。前職では企業の人材育成支援を行う企業で営業に従事。 2010年に認定NPO法人サービスグラントにて、プロボノワーカーとしてプロジェクトに参加。その後2度目のプロジェクト経験を経て、2014年サービスグラントに入職。企業・行政との協働プロジェクトの運営などを担当している。

栗原彩乃(くりはら・あやの)
認定NPO法人サービスグラント 事務局スタッフ。前職では、老舗日系ホテル、出版社にてウエディング関連雑誌の制作全般や新卒採用支援イベントの企画・運営にも携わった。2020年、認定NPO法人サービスグラントにてプロボノワーカーとしてプロジェクトに参加し、2021年にサービスグラント入職。企業・行政との協働プロジェクトの運営や広報などを担当している。