株式会社日立製作所 丸山幸伸/上垣映理子/徳永和朗/笠井嘉/株式会社日立アカデミー講師 渡辺薫
カスタマーサクセスの推進と同様に、日立が強力に推進しているのがDXだ。DXを通じて、日立はこれからどのようなカスタマーサクセスを実現し、それを通じてどのような未来を築いていこうとしているのか。今シリーズにこれまでに登場した丸山幸伸、上垣映理子、徳永和朗、笠井嘉の4名が、渡辺薫の司会のもと将来を展望する。

「第1回:デザイナーはカスタマーサクセスにどう貢献するか」はこちら>
「第2回:イノベーションはビジョンデザインから始まる」はこちら>
「第3回:デザイン×データ分析の答えが見えてきた」はこちら>
「第4回:データに基づいたデザインが行動変容を促す」はこちら>
「第5回:知のかけ算でイノベーションを駆動する」はこちら>

ITとOTを両輪にカスタマーサクセスを実現する

渡辺
前回、2021年4月に東京駅直結のビルに開設した「Lumada Innovation Hub Tokyo(LIHT)」について、笠井さんからお話を伺いました。この場所は協創のための拠点でもあり、DXが達成された後の日立のモデルでもあるわけですが、LIHTのLであるLumadaという言葉は聞き慣れないという方もいるかもしれません。

笠井
これは造語です。“Illuminate”と“Data”を組み合わせたものです。お客さまのデータに光をあて、輝かせることで、新たな知見を引き出し、お客さまの経営課題の解決や事業の成長に貢献していく、という思いが込められています。

Lumada CoE NEXPERIENCE推進部 LIHT Director 笠井嘉

渡辺
デザインのベースとなるデータ、さらにはDXは、カスタマーサクセス実現のための重要なキーワードです。最終回となる今回は、さまざまな立場の皆さんに、DXへの関わりを伺っていきます。まずはデザイナーの上垣さん、お願いします。

上垣
今、デザイン思考のアプローチはアジャイル的に進めていて、効果が出なかったら軌道修正することの繰り返しです。この点はDXとの相性が良いところだと思っています。ただ、DX実現のための技術については理解が足りていない部分があるので、皆さんの力も借りながら、何かひとつの形を作って、それを売って終わりではなく、買ってくださったお客さまと一緒に、それをもっと良いものに育てていければと思っています。

サービス&ビジョンデザイン部 リーダ主任デザイナー 上垣映理子

渡辺
カスタマーサクセスそのものですね。

上垣
そうですね。そこでこそ、デザイナーとしての役割を果たせるとも感じています。

渡辺
データサイエンティストの徳永さんは、DXに取り組む上でデザインにどのようなことを期待しますか。

徳永
ゴールイメージの確立です。ここに尽きますね。これがないと、何のためにDXをするのかがぶれてしまうからです。しっかりゴールイメージを描くことができて、お客さまがそれを実現したいとなって初めて、データサイエンティストはそのゴールをめざしてデータ分析を始められます。

Lumada CoE AIビジネス推進部 担当部長 徳永和朗

渡辺
なるほど。デザイナーはゴールをより明確にするためにも欠かせない存在なのですね。では、丸山さんに伺います。これからの日立は、どのように変革を遂げていきますか。

丸山
前提から話をすると、エクスペリエンスデザインの現場では、ビジョンとカスタマーサクセスが重要な武器になると考えています。この二つを武器に、デザイナーとデータサイエンティストが一緒にエクスペリエンスデザインを進めていく。

その上で日立は、お客さまのDXに貢献する、デジタルでお客さまの成長を支援していかなければなりません。具体的には、IT、そしてOT(Operational Technology)のソリューションを提供するということですが、この両者を駆使したDXによって、お客さまの事業の成長に対して、顧客視点で協力できると思っています。

主管デザイン長 丸山幸伸

DXは過去の当たり前をくつがえす

渡辺
LIHTディレクターの笠井さんはいかがでしょうか。

笠井
僕はDXを進めるために大切なことは “当たり前をぶち壊すこと”、固定観念を変えることだと思っています。たとえば、「このデータしかとれない」「こういう業務プロセスに従うことになっている」「前例がないので変えられない」といった制約を一旦脇に置いて、「そもそも何をめざすべきか」を考えないと、トランスフォームすることはできないと思います。その上で現実的な新しいアイデアを生み出す時には、ものごとを抽象化して捉え直します。こうしたアプローチで「それまでの当たり前」をくつがえすことが必要だと思います。

渡辺
そうしたディスカッションも、LIHTという場で行うことで、より深まりそうですね。

日立アカデミー講師 渡辺薫

笠井
そう思います。COVID-19で人流や接触を抑えなければならない状況ですから、リモートでの対話が増えています。しかし、これから先のことを話し合うには、互いの表情をよく見て、ニュアンスを感じながら議論をし、そこでベクトルを合わせるというステップが重要です。それさえできれば、あとはリモートで話を進めることもできます。

渡辺
今回のこの記事を読んで、改めてLIHTに関心を持たれた方もいると思います。笠井さん、そうした方にぜひメッセージをお願いします。

笠井
あまり構えることなく、ぜひお気軽にお声がけいただければと思います。

渡辺
今回、皆さまのお話を伺うことで、日立のめざす「顧客協創を通じた社会イノベーション」を実現するための姿勢や仕事の進め方、“日立のスタイル”のようなものが明確に理解できたように思います。同時に、専門領域や持ち場の異なるメンバーがベクトルを合わせてお客さま、そして社会に向けて価値を提供していこう、という動きそのものが日立のカスタマーサクセスへの取り組みであると実感いたしました。皆さん、本当にありがとうございました。

丸山幸伸(まるやま・ゆきのぶ)
株式会社日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 東京社会イノベーション協創センタ 主管デザイン長。
日立製作所に入社後、プロダクトデザインを担当。2001年に日立ヒューマンインタラクションラボ(HHIL)、2010年にビジョンデザイン研究の分野を立ち上げ、2016年に英国オフィス Experience Design Lab.ラボ長。帰国後はロボット・AI、デジタルシティのサービスデザインを経て、日立グローバルライフソリューションズ(株)に出向しビジョン駆動型商品開発戦略の導入をリード。デザイン方法論開発、人財教育にも従事。2020年より現職。

上垣映理子(うえがき・えりこ)
株式会社日立製作所 研究開発グループ 社会イノベーション協創統括本部 東京社会イノベーション協創センタ サービス&ビジョンデザイン部 SVD3ユニット リーダ主任デザイナー。
2001年日立製作所入社。UI/UXデザイナーとして金融・公共・産業・医療などの分野で業務改革やシステム構築のプロジェクトに従事したのち、新しい事業やサービスを通じて得られる経験価値をお客さまと共に協創する「Exアプローチ」手法の確立に貢献。2017年からは人の主体的な行動変容をデジタルの力でサポートする行動変容デザインの手法研究に従事。

徳永和朗(とくなが・かずあき)
株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada CoE AIビジネス推進部 担当部長。
日立製作所に入社後、半導体のプロセス技術者として、LSI(大規模集積回路)の技術開発や量産を手掛ける。2013年からAIやビッグデータを活用したデータ分析を担当。製造業、IoT、マーケティング分野のデータ分析、プロジェクトマネジメントの経験を有するデータサイエンティスト。2020年4月Lumada Data Science Lab.立ち上げに従事。

笠井嘉(かさい・よしみ)
株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス サービス&プラットフォームビジネスユニット Lumada CoE NEXPERIENCE推進部 LIHT Director。
日立製作所に入社後、医療機器および情報機器のプロダクトデザインを担当。ユーザーリサーチを経て、デザインの技術を活かした顧客協創活動に従事。2016年にHitachi America User Experience Design Labのラボ長として、北米での顧客協創活動や協創方法論の手法化を推進。帰国後、サービス/ビジョンデザインの実践および手法開発をするデザイン部のマネジメントに従事。2021年より現職。

渡辺薫(わたなべ・かおる)
株式会社日立アカデミー講師(DX、カスタマーサクセス担当)。
ハイテク企業で経営企画&マーケティングを経験したのち、90年代のデジタルマーケティングの黎明期にはエバンジェリスト&コンサルタントとして活動。その後、外資系ITサービス企業等でITサービスのマーケティング、コンサルティング等に従事し、2010年日立製作所に入社。超上流工程のコンサルティング手法の開発と指導にあたる。社会イノベーション事業推進本部 エグゼクティブSIBストラテジストとして、日立グループのデジタルトランスフォーメーションの戦略策定・実行のサポートと人財育成に注力。現在は、株式会社日立アカデミー講師のほか、株式会社ゴールシステムコンサルティング チーフカスタマーサクセスオフィサーなどを務める。