2020年12月3日(木)、Zoomにてオンラインミーティング『楠木建の一問一答』と題した公開取材が行われ、楠木建教授が22名の参加者一人ひとりからの質問に応じた。今回お届けするのは、「組織」に関する質疑応答。参加者がそれぞれの職場で抱える悩みや疑問に、楠木教授が明快な回答を示していく。

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Q:隣の部長のセクショナリズムな姿勢に悩んでいる。どう接すれば?

――商社から新設の子会社に出向中の者です。社員十数人の小さな会社で3つの部署に分かれていまして、ルールも走りながら作っている状況ですが、隣の部署の部長が非常にセクショナリズムな姿勢で、その方との接し方に悩んでいます。部署間で連携して解決しなければいけない問題が起きた時に、その方は「それは自分たちの責任ではない」「自分の部署に関連するところだけを切り出して相談しに来なさい」ということをよく言います。もうそういう人なんだと諦めてみんなでフォローしあうしかないのか、それとも、やっぱり諦めずにその人を説得していくべきなのか。楠木先生にお聞きしたいです。

楠木
なるほど、状況はわかります。推測ですけど、おそらくその人は部長の仕事に向いていない。部長になってもそういうことを言ってるような人なので、今さら変わらないでしょう。その部長の上には、社長がいますよね?

――ええ、います。

楠木
社長の人選ミスですね。その人は部長をやっていては駄目です。いつも思うことなのですが、セクショナリズムが発生するのは人の問題で、規模は関係ない。5人の組織でもセクショナリズムは発生しうると思います。それに、仕事というものは一つひとつ全部つながっているので、そんなきれいにその人の責任部分だけを抜き出して持っていくなんて無理です。そこでわたしの1つの提案としては、「部をなくす」というのはどうですか。部がなければ部長もないですよね。それは難しいのですか、お仕事の性質上。

――そうですね……難しいです。

楠木
わかりました。これも推測ですが、部長をやっているその方は、おそらく自分の仕事、つらいと思うんですよ。自分でも部長やリーダーに向いていないと自覚している。これは、「もう1回担当者に戻してください」という心の叫び。ですから、部長から外したほうがいいんじゃないですか、その人。

明らかに損していますよね、会社として。その人の存在のせいで。社長だって自分の業績は大切でしょうから、一度、社長に言ってみたらどうですか。「率直に言いたいことがあるんですけど」と。「この人はどう考えても部長に向いてないので、別の人にしたらいいと思います」と。

――そんなこと、本当に言って大丈夫なのでしょうか。

楠木
日本は法治国家ですから、その方もいきなり殴ってきたりしないでしょう。これを言ったらどういうふうに向こうがリアクションするのか考えるだけでも、ときめきますよね。

――はい。というか……本当に体がしびれそうですけど。

楠木
いや、いいんじゃないですか。この人はもう「わたしは部長に向いていない」と全力で言っているようなものなので、本人も楽になるはずです。

――そうですね。それか、わたし自身が会社を辞めて同業他社に移ってしまうとか。

楠木
それはものすごくストレートな解決策です。そのときに社長から「君、なんで辞めるの?」って聞かれるでしょう? そうしたら、「この部長の下では働けません」と。それを辞職の理由としてクリアに伝えたほうがいい。そうすると社長も、「これはまずいな」とさすがに気づいて、部長を別の人にするかもしれない。残った人は救われますよね。

――はい。参考になります。ありがとうございます。

楠木 建

一橋ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。

著書に『逆・タイムマシン経営論』(2020,日経BP社)、『室内生活 スローで過剰な読書論』(2019、晶文社)、『すべては「好き嫌い」から始まる』(2019、文藝春秋)、『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

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楠木教授からのお知らせ

思うところありまして、僕の考えや意見を読者の方々に直接お伝えするクローズドな場、「楠木建の頭の中」を開設いたしました。仕事や生活の中で経験したこと・見聞きしたことから考えたことごとを配信し、読者の方々ともやり取りするコミュニティです。
この10年ほどTwitterを使ってきて、以下の3点について不便を感じていました。

・140字しか書けない
・オープンな場なので、仕事や生活経験の具体的な中身については書きにくい
・考えごとや主張をツイートすると、不特定多数の人から筋違いの攻撃を受ける

「楠木建の頭の中」は僕のTwitterの拡張版というか裏バージョンです。もう少し長く書ける「拡張版」があれば1の問題は解決しますし、クローズドな場に限定すれば2と3の不都合を気にせずに話ができます。加えて、この場であればお読みいただく方々に質問やコメントをいただき、やりとりするのも容易になります。
不定期ですが、メンバーの方々と直接話をする機会も持ちたいと思います。
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