放送作家 小山薫堂氏/株式会社日立製作所 フェロー兼未来投資本部ハピネスプロジェクトリーダ 矢野和男
「他人の笑顔を見るのがハッピー」という放送作家の小山薫堂氏。経営する2つの会社でも誕生日などに積極的な「サプライズ」を仕掛けて、社員の幸福を実現している。そして、現在進行中という故郷・天草での壮大な仕掛けとは? そのプランに対して「小山さんのそのエネルギーはどこから来るんですか?」と驚きの表情を浮かべる日立製作所の矢野和男。白熱対談の4回目をお届けする。
(写真:日立製作所中央研究所初代所長 “大変人”・馬場粂夫の旧邸にて)

『第1回:「ハピネス」見える化のプロセス』はこちら>
『第2回:幸福の最大化は世界のトレンド』はこちら>
『第3回:「ハピネス」を日本中に行き渡らせる方法』はこちら>

毎月社員の誕生日会でサプライズを演出

小山
僕の会社では、幸福度という言葉が適切かどうかわかりませんが、「バースデーサプライズ」を仕掛けています。社員の誕生日を大切にしていて、社長の僕と副社長の誕生日が会社の2大イベントなんです。先日は副社長の誕生会をやったのですが、京都の映画館を貸し切って、今まで撮ったたくさんのサプライズムービーを上映するというサプライズをやりました。もう一つ、誕生月の社員を僕が「いいね」と思っている店に連れて行くディナー会もやっています。どこに行くかは当日までのお楽しみで、それもサプライズにしています。

矢野
毎月ですか。それはすごい労力ですね。

小山
はい。今は会社が2つあるので月に2回は社員たちのバースデー会場を探さなければいけません。レクリエーションがやたら多い会社で、社員の誕生会を会議中や朝礼の合間にやることもありますが、社員旅行も開催しています。今年初めて国内旅行に変えたんです。

矢野
あえて国内にするからには、そこにも仕掛けやサプライズが?

会社の福利厚生費を使って地域活性!!

小山
故郷の天草に行きました。なぜかといえば、2017年に、天草に初めて小さなコミュニティFM局が開設して、そこで番組を作るためです。周波数が88.8MHという非常に縁起が良い数字で、市民から愛称を募集しました。すると、8月8日生まれの8歳の女の子が、まさに888なんですが、8が3つで「みつばちラジオ」という提案をしてくれました。みつばちって、いろんな花を飛び交って受粉して実をつけるイメージで、ラジオもそういう存在だなということで決まったんです。

矢野
小山さんの周りには勝手にサプライズが飛び込んでくるようですね。

小山
株の半分を天草市が持っているのですが、番組スポンサーにすごく安い料金でなれるんです。そこで「うちの会社で8時間ジャックさせてください」と、社長に頼みました。たいしたお金は払えないけど、制作費は払うからと。

その目的は「幸せを作り出すため」です。我々の社員の幸せを作るためにみんなが一致団結して番組を作り上げる。その時、天草の人たちと触れ合うことで、そこに温もり・優しさ・愛を感じることで幸せな気分になる。天草の住人は、自分たちの日常の何でもないと思っていたコトやモノでも「これすごいですね、面白いですね」という外からの声で、その魅力を再発見できる場になります。しかも今まで触れたことのなかった新しい人種に触れることで面白みが出たり、人脈が広がったりしてハッピーになれる。天草市にはMICE施設(国際会議やエキシビションを行えるホールなどの施設)はないけれども、ラジオの電波を使って巻き込むことで、島全体がMICE施設になるような番組を作りたいと訴えたんです。今はアプリで世界中どこでも聴くことができますから、世界に発信できるんです。それを11月18日に実験的にオンエアしました。

天草を日本一のヒッチハイク都市に

矢野
素晴らしい試みですね。私たちもその「ハピネス」を何らかの形で応援していけるといいですね。

小山
天草のことばかりで恐縮ですが、天草は鉄道が通っていないんですよ。バスもあまり本数がなく、観光客はレンタカーかタクシーを使うしか移動の手段がありません。タクシーは高いので、日本一ヒッチハイクがしやすい地域にしたい、と目論んでいます。

矢野
それは新しい考え方です。

小山
町の人は、誰かを乗せなければという気持ちで走るようになる。汚れていても平気だった車も洗車や掃除をする気分になります。すると自分も気持ちいいですよね。ヒッチハイクを通してその島の幸福度を高められるんじゃないかと。ついでに、おばあちゃんが買い物へ行く時もそれができて、市がわざわざバスを運行しなくてもよくなる。ウーバーなどの仕組みをうまく使ってできないかなとずっと考えています。

なんでも「テコ入れ」したくなる性格

矢野
小山さんのそのエネルギーは、どこから来るんでしょうか?

小山
ひらめいたアイデアを実験したくなるんです。誰かに会って、この人にこんな人生があるなら、僕のアイデアを加えると化学反応が起こって、新しい広がりが生まれると感じてしまうんです。この人のポジションだったら、こんなことをすればもっと面白くなるのにということを、僕は「勝手にテコ入れ」と呼んでいますが、勝手にアドバイスをしたくなる性質(たち)なんですよ。

矢野
私も意外とそういうのが好きで、1回目に申し上げた「ハピネス運動会」みたいなものをやりたくなってしまいます。普通の人は、そこに使うエネルギーが別の物を減らすんじゃないかと「ゼロサム」的に考えてしまいがちです。特にビジネスでは。でも、楽しんでいないといい仕事はできないですよね。

小山
そうですね。仕事にしたくてやるのではなくて、やっているうちに仕事になることが多いですね。だから、仕事の枠が広がりすぎて収拾がつかなくなってます。「僕の人生は一体どこに向かっているんだろう」と疑問に思うことも多いです(笑)。

矢野
それだけ引き出しが多いし、組み合わせていくともっともっとものすごいアイデアに発展しそうですね。

良質なクレーマーがハッピーを呼び覚ます

小山
その通りですね。テレビの放送作家というのは、世の中にある面白いものを見つけ出して、より多くの人に伝える仕事だと思うんです。伝え方にはテクニックが必要ですし、伝わった量によって評価が変わってきますから、たくさん伝わるように咀嚼が必要です。その咀嚼作業が作家の仕事です。

あるものをそのまま見せたらニュース番組で終わりですが、すごい技を持つ料理人がいる時に、「こういう技を持っている」ことを伝えるのではなくて、バトルしてスポーツのように料理人を戦わせたほうが、みんなが番組を見てくれます。どの番組のことかはお分かりになると思いますが、そのためにまずタネを見つける必要があります。いろいろなことに触れ、経験し、人に出会う……。その行為自体が楽しくて、幸せじゃないですか。ただ伝えるのではなく、見つけたものの面白さを大きくしたいという思いでやっています。「良質なクレーマー」と僕は自称しているんですよ。

矢野
なるほど、とてもよくわかります。

小山
クレームも相手次第です。最初の経験は、日光金谷ホテルという、現存する日本最古の西洋式のホテルでした。そこに行った時に、社員の皆さんがいまひとつ楽しそうではなかった。社長から「何か気づいたことがあったら教えてください」と言われ、思ったことをズケズケと申し上げました。社長が「この人クレーマーだな」と思ったらそれでおしまいですが、「いいアドバイス」だと思ってもらえれば次に繋がります。それがきっかけで仕事を頂き、コンサルティングのようなことが増えて今に至るという感じでしょうか。

小山薫堂
1964年、熊本県生まれ。日本大学芸術学部在学中から放送作家のアルバイトを始める。「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「トリセツ」など、テレビ史に残る番組の企画構成を担当する。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第81回アメリカアカデミー賞外国語映画賞を受賞する。放送作家集団N35とブランドのプロデュースやデザインを担当するオレンジ・アンド・パートナーズの2社を経営する。また京都造形芸術大学副学長も務めている。「小山薫堂の幸せの仕事術」ほか著書多数。

矢野和男
1959年、山形県生まれ。1984年、早稲田大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程を修了し日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は2,500件にのぼり、特許出願は350件超。東京工業大学大学院連携教授。文部科学省情報科学技術委員。

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