地方創生が叫ばれるなか、山﨑氏は世界最大の人口を誇る東京圏にもさまざまな課題があると指摘する。出生率の低さに加え、国際会議の開催数や国際金融都市としての存在感などでも、東京はシンガポールやソウルなどのアジアの都市に劣り、そのポテンシャルを十分に活かしきれてない。その一つの要因が、羽田空港と成田空港のアクセスの悪さや、富裕層や企業のCEOなどを対象とするプレミアム戦略の不十分さにあるという。
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「第5回:地域と世界を結ぶモビリティの役割」
羽田空港と成田空港の利便性向上を
――世界最大の人口を抱えている都市圏である東京圏の課題については、どのように見ていらっしゃいますか?
山﨑
森記念財団都市戦略研究所の「世界の都市総合力ランキング」(2024)では東京は第3位ですが、スイスの国際経営開発研究所(IMD)のスマートシティランキングでは、東京は108位という残念な結果です(2025年の順位。2024年86位)。世界最大の人口を有する都市圏というポテンシャルを活かしきれていないと言わざるをえません。
特に私が課題だと感じているのが、やはりモビリティで、羽田空港の滑走路容量不足と羽田・成田空港へのアクセスを改善すべきでしょう。羽田空港は目一杯稼働している状況なので、本来ならもう1本滑走路がほしいところです。それが難しいことから現在、成田空港で滑走路の延伸と新設が進められているのですが、やはり羽田と成田のアクセスを改善しない限り、課題は残ります。現在構想中の羽田アクセス線に加えて、新幹線やリニアモーターカーの乗り入れを検討すべきでしょう。羽田と成田がリニアで十数分で結ばれたなら、世界へのアクセスは大きく向上するはずです。
当然、国際会議場や国際展示場などの充実も不可欠です。なお、ICCA(国際会議協会)によると、2024年の国際会議の都市別開催件数は、シンガポール(人口564万人)が世界3位の144件となっています。東京は16位97件です。
また、東京の国際金融都市化は東京圏だけでなく、日本政府の政策課題でしょう。英国の調査会社Z/Yenグループが発表している国際金融センター指標(GFCI)で東京は2013年に6位でしたが、2024年には22位に後退しています。東京の地盤沈下が日本全体の経済力を低下させ続けてきたことを考えれば、東京の国際金融センター化は、東京のみならず、日本再生の重要課題と言えるでしょう。
プレミアムな地域創生へ
山﨑
もう一つ、特に東京圏などの都市圏で検討すべきなのが富裕層や海外のCEOなどに向けた取り組みです。例えば、プライベートジェット機やチャーター便の受け入れも充実させていく必要があります。日本を含めて世界の富裕層の総資産額、人口ともに増加傾向にあり、2024年には過去最多となっていることを思えば、インバウンドにおいても富裕層をターゲットにしない手はありません。
なお、地域創生のためのプレミアム化というのは、自然や歴史、伝統・文化、産業集積、街並み、インフラ、人財など、地域資源や地域環境を包摂したものです。つまり、プレミアムな地域創生にとってもっとも重要なのは、地域資源の潜在的価値の発見です。
当然、それは都市圏だけでなく地方でも重要な戦略となります。例えばその成功例に、JR九州の「ななつ星 in 九州」があります。3泊4日なら、2人一室で最低でも160万円を超える金額ですが、抽選倍率は10倍を超えるほどの人気ぶりです。こうしたクルーズ列車は各地で運行されるようになりましたが、まだまだ地域ごとにさまざまなアセットがあるはずで、それぞれにプレミアムな価値を掘り起こしていくことが肝要だと思います。
居住地選択の自由や移動の自由が未来を拓く
――最後に、日本の企業経営者に向けて、地域創生に資するにはどうすべきかメッセージをお願いします。
山﨑
私が大切にしている信条は「自由」なんですね。思想・信条の自由、学問の自由、職業選択の自由、居住地選択の自由、そして移動の自由。地方創生のために、東京から地方に無理やり人を動かそうとする、あるいは本社があるから東京でしか働けないというのは不自由だと思います。東京一極集中を是正しようと国が企業の本社移転に補助金を出す、というのもやりすぎだと思います。
そういう意味では、企業は人を動かす媒介物としての役割を担い、地域に化学反応を起こす存在になるべきではないでしょうか。例えば第2回で、ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社が飲料原料として使うレモンを広島県大崎上島町で栽培していると述べましたが、これは輸入代替や耕作放棄地対策に資するだけではありません。実は同社ではこの場所に空き家を活用したサテライトオフィスを設置していて、社員のリモートワークの拠点としても活用し、社員がボランティアでまちおこしに参加したりしているのだという。こうした地域との連携活動は、企業のブランド価値向上や社会貢献にも通じる、「広義の新しい公共」と呼べるものだと思います。
2020年に居住地の自由とフルリモート、交通費の上限撤廃を宣言したヤフー株式会社(2021年よりLINEヤフー株式会社)は、残念ながら2025年4月からフルリモートを廃止しましたが、こうした取り組みも、もっと他の企業でも採用されてもいい話だと思います。
ちなみに、東京商工リサーチ(TSR)の調査によれば、2024年度に他都道府県に本社・本社機能を移転した企業は、専⾨サービス業、情報サービス業、飲⾷店を中⼼として、1万6271社に上り、前年度比で18.7%増となっています。とくに東京都は1158社の転出超過となっており、東京圏(1都3県)でみても544社の転出超過でした。地域ブロック別では九州の本社転⼊超過数がもっとも多く、148社の転⼊超過となっています。なお、情報通信業の本社の転⼊超過数1位は福岡県でした。九州は製造業の本社流⼊も⽬⽴っています。四国は3社の転出超過ですが、北海道は35社、東北(新潟県を含む7県)も29社の転⼊超過でした。こうした動きはまさに、地域創生の起爆剤となるのではないかと期待しています。
せっかく全国に港湾は993、空港は97あるわけですから、これらをもっと有効活用すべきではないでしょうか。そうすれば、従業員の移動はもとより、東アジアを中心にさらなる誘客や貿易促進も可能になって、地域創生に役立つはずです。
(取材・文=田井中麻都佳/写真=佐藤祐介)
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山﨑朗(やまさき・あきら)
1981年京都大学工学部卒業。1986年九州大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。九州大学助手、フェリス女学院大学講師、滋賀大学助教授、九州大学教授を経て、2005年より中央大学経済学部教授。
著書に『日本の国土計画と地域開発』(東洋経済新報社、1998年)、『半導体クラスターへのシナリオ』(共著、西日本新聞社、2001年)、『地域創生のプレミアム戦略』(編著、中央経済社、2018年)、『地域創生の新しいデザイン』(編著、中央経済社、2025年)など多数。