「地方創生」ではなく「地域創生」の理由
――2024年12月に国が「地方創生2.0」を発表し、都市・コミュニティへの取り組みを示しました。そうしたなか、山﨑先生はご著書『地域創生の新しいデザイン』や論文において、「地方創生」ではなく、「地域創生」という言葉を使われています。その意図を教えてください。
山﨑
それは私が、人口減少時代の国土形成において、東京一極集中の是正に代表されるような「都市と地方圏の格差是正」を最重要テーマとは捉えていないからです。地方創生をしようとすると、どうしても市区町村同士、都道府県同士の「敵対」を煽ることになり、同時期にいっせいに似通った自治体計画が策定されて、単に人口を奪い合うことになりかねません。
確かに、地域おこし協力隊といったかたちで、税金を投入して地方に人を送り出せば、一時的にその地域の人口が増え、(地方交付税交付団体であれば)人口増加に従って地方交付税も増えるでしょう。しかし、そうやって人口が増えた自治体が「奇跡の村」などともてはやされても、内実はその近隣にある中心都市から、地価の安い地域へ人が移動しただけであることが多いのです。つまりその都市圏全体で見ると、人口が増えたとか出生率が上がったとは言いがたいのが実情です。
また、課題を抱えているのは、いわゆる過疎地域だけではありません。例えば、住民基本台帳人口移動報告(2024年)の都道府県別転入超過数のデータによれば、海外からの移住者を除くと、近年、もっとも人口の社会減少数が多いのは広島県です。その次は愛知県であり、兵庫県、静岡県と続きます。これらの県はまさに日本の製造業を支えてきた太平洋ベルト地帯に位置している県ですよね。すなわち、日本の製造業の相対的な地盤沈下が工業地帯からの人口流出を招いていると考えられます。
世界最大の都市圏である東京圏にも課題があります。東京都では合計特殊出生率が2024年に0.96と、全国で最下位となっています。すなわち、子どもを産み育てやすい環境づくりが急務です。また、東京圏は世界最大の人口・企業・学術機関の集積ともいわれますが、その強みを付加価値に転換しきれていないなど、課題が山積しています。
2008年の1億2808万人をピークに日本の総人口は急激に減少し、2070年には8700万人(令和5年推計の中位推計)になると予想されるいま、自治体単位ではなく、都市圏も含めて国土全体でグランドデザインを描き直す必要があるでしょう。そもそも各地域には多彩な魅力や個性が存在しており、多様なポテンシャルを有しています。それらを最大限に引き出し、持続的に価値を創造する地域へ移行していく道を探るべきだと思います。
「二層の広域圏」という発想
――自治体の垣根を越えた地域単位で国土の新しいデザインを考えていく際に、何か拠りどころとなる考え方はあるでしょうか。
山﨑
以前、私は「二層の広域圏の形成に資する総合的な交通体系に関する検討委員会」の委員を務めたことがあるのですが、この中間報告書(2004年)が参考になります。この時の議論は、最近の「国土の長期展望」専門委員会の中間とりまとめ(2020年)にも生かされています。
二層とは、「地域ブロック」と「生活圏域」という二つのレイヤーのことです。地域ブロックとは、東アジアも視野に入れた国際・広域的な視点から、それぞれが自立した国際的な競争力を持ちうる広域的な圏域です。欧州の中規模国一国に匹敵するくらいの人口、600〜1000万人規模を想定して、全国を9つの広域圏に区分しました。
そして生活圏域とは、複数の市町村にまたがる、交通1時間圏、人口規模が30万人前後のまとまりのある82の圏域を指します。これは、森地茂さん(東京大学教授を経て政策研究大学院大学教授)が中心となってまとめた構想で、競争力とアイデンティティを持つ二層の広域圏が相互に連携し合う国土デザインを示しました。
ここで鍵を握るのは「モビリティ」であり、いまなお日本に残っている課題です。特に、地域ブロックごとに東アジアへのゲートウェイ機能を持ち、輸出促進やインバウンド需要に応えていく必要があります。現に、地方で唯一順調な成長を続ける福岡市の人口増加の要因の一つは、近隣のアジア諸国・地域との交流拡大など、グローバル化の成功にあります。
人口減には都市のコンパクト化を
――一方、人口減についてはどのように取り組むべきでしょうか。
山﨑
実はこの「二層の広域圏」の中間報告で世間に大きなインパクトを与えたのが、鎌倉幕府成立当時750万人程度だった日本の人口が、明治期から増え始め、戦後一気に急増して2000年代にピークを迎え、その後急激に人口減少へ向かうというグラフでした(2020年の「国土の長期展望」専門委員会の中間とりまとめでも、同様のグラフが掲載されている)。これにより、日本の人口がここ200年ほどでいかにダイナミックに変化しつつあるのか、そして今後、いかに急激に人口が減っていくのかを示したのです。
図 日本の総人口は2050年には約1億人に減少
また、日本列島37万平方kmを1平方km単位のメッシュ状にして調べたところ、2050年頃には居住地域の66.4%が2005年の⼈⼝の半分以下となり、21.6%のメッシュでは無⼈化する見通しとなりました。2014年に日本創成会議(座長:増田寛也氏)が「消滅可能性都市」リストを発表し、2024年にその更新版といえる、人口戦略会議(議長:三村明夫氏、副議長:増田寛也氏)による『令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート』が公表されて話題を呼びました。しかし、われわれはそれより前から、日本列島の各地で虫食いのように無人地帯が出現することを予想していたのです。
第三次国土形成計画(2023年7月)では、生活圏人口10万人程度以上を一つの目安として想定した地域づくりが謳われています。生活圏域を小さくすることで、できるだけ国土全体を広くカバーして維持しようという発想ですが、「まんべんなく」という発想自体、もはや無理があります。やはり都市のコンパクト化をするなどして、人口密度の高い魅力的なエリアを作り出すといった、メリハリのある政策が必要です。
第2回は、9月3日公開予定です。
(取材・文=田井中麻都佳/写真=佐藤祐介)
山﨑朗(やまさき・あきら)
1981年京都大学工学部卒業。1986年九州大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。九州大学助手、フェリス女学院大学講師、滋賀大学助教授、九州大学教授を経て、2005年より中央大学経済学部教授。
著書に『日本の国土計画と地域開発』(東洋経済新報社、1998年)、『半導体クラスターへのシナリオ』(共著、西日本新聞社、2001年)、『地域創生のプレミアム戦略』(編著、中央経済社、2018年)、『地域創生の新しいデザイン』(編著、中央経済社、2025年)など多数。