株式会社 日立製作所 執行役副社長 德永俊昭/一橋ビジネススクール 客員教授 名和高司氏
2021年、『パーパス経営 30年先の視点から現在を捉える』を上梓され、多くの経営者に新しい視座をもたらした京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋ビジネススクール客員教授 名和高司氏。そして日立製作所 執行役副社長として、デジタル事業全般の取りまとめ役を担う德永俊昭。「パーパス経営」を軸に、社会課題の解決に取り組む日立を考察する二人の対談第4回は、女性の活躍について。

「第1回:“志”という視点から見た日立」はこちら>
「第2回:未来をストーリーで語れるか」はこちら>
「第3回:どこを拠点にするか」はこちら>
「第4回:女性の活躍について」
「第5回:パーパスの成果を測る2つの指標」はこちら>
「第6回:日系企業の2つの病」はこちら>

ジェンダーギャップという課題

德永
ここで少し話題を変えて、女性の活躍というテーマでディスカッションさせていただきたいと思います。2022年のジェンダーギャップ指数(※)で、日本は146カ国中116位というような状態にありますが、これに対する名和先生のご意見をお聞かせください。

※ ジェンダーギャップ指数:経済・教育・政治参加などの分野で世界各国の男女間の不均衡を示す指数。非営利団体の世界経済フォーラムが2006年から世界男女格差レポートで公表。

名和
これは日本固有の問題だと思います。日本全体が今までそういう環境ではなかったことは確かでしょうし、すぐに解決できることではないけれども、ビジネスの現場で活躍する女性は確実に増えています。日本はこれまでやれていなかった分、女性の活躍に対する期待は大きいはずなので、人事的にも経営的にもできる打ち手は多いと思います。

ただし、重要なのは数ではなく実態の方です。女性の役員が何人というよりは、実態として女性のパワーをどれだけうまく引き出せているか。それがこの問題の鍵だと思います。日立の取締役に女性は少ないかもしれませんが、私がお手伝いさせていただいたときには、日立ヴァンタラ社をはじめ女性が目立って活躍されていました。この状況をさらに広げていくことが日立にとっても日本にとっても重要なので、長期的な経営に読み込んでぜひ実行していただきたいと思います。

德永
日立がさらに変わるためには、ダイバーシティという旗印を掲げるだけではなく、事業を進める上で女性の力をしっかりと活用していくことが必要だと考えています。事業環境が複雑化している中、チームに男性だけでなく女性も、日本だけでなく外国籍の従業員も必要であるということを共通認識として確立しなければなりません。

ジェンダーギャップの解消へ向け、日立はいろいろなしくみや制度を整えてきていますが、依然として管理職が男性中心であるが故に、女性活躍の機会や女性の優秀人財を見逃してしまっているケースがあることもまた事実です。私自身、昨年度は約20回、延べ100人程度の若手従業員とのラウンドテーブルを実施しましたが、きらりと光る素晴らしい人財がたくさんいることに改めて気づかされました。

名和
そうでしょうね。よくわかります。

德永
この取り組みは続けなければいけないと思っていますし、光る人を見つけたらより活躍できそうなポジションに積極的に配置することを進めたいと思っています。まだまだやるべきことは多いですが、今回はじめて私の部門から女性の執行役CMOが生まれたのもひとつの良いきざしです。

同じようにこれから取り組みを強化しなければならないのが、海外の女性人財の活躍推進です。今のところ日立のデジタル事業の重心は日本になっていますから、海外で働く人財の顔がまだ見えにくい。このような理由だけで、優秀な女性人財を見逃してしまうのは、あまりに残念なことです。海外でも光る女性にはタフなポジションを用意する、あるいは日本に異動してもらって活躍のフィールドを広げてもらう、そんなことをどんどんやろうと思っています。

アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)

名和
德永さんはそういったダイバーシティ&インクルージョンを推進する立場にありますが、アンコンシャス・バイアス、無意識の思い込みで気をつけていることはありますか。

德永
女性の活躍ということを考えたとき、これまでの規定動作として、まず女性から意見を聞こうとしていました。私も、以前は女性だけを集めたタウンホールミーティングをやったことがありました。しかし、タウンホールミーティング終了直後にとある参加者からメールが飛び込んできまして、そこには「女性だけ集めてこういうことをやっても、何も変わりませんよ」と書かれていたのです。

私はハッとして、「確かにそうだ」と気づかされ、それからは男性にも積極的に働きかけを行う姿勢へと改めました。自分がどんなアンコンシャス・バイアスに支配されているのかは、このように誰かに指摘されるまで気づかないし、気づかない限り手を打つことができません。また、気づいたときには真摯に受け止め、思考と行動を変えることが大切だと思っています。

さらには、特に現在管理職に就いている男性が、「あ、そうか。これもいつの間にか染みついていた思い込みだ」という気づきを得られる機会をどれだけ用意できるか。あの手この手で気づきの機会をどれだけ用意できるかがすごく重要だと思っていまして、研修を含めたさまざまな取り組みを愚直にやっています。

名和
そうですね。アンコンシャス・バイアスに何か秘策があるわけではないので、まさに德永さんがおっしゃったようなことを地道に続けていくことが大事だと思います。

次世代のCEO育成

名和
例えばグローバルロジック社は、Z世代が活躍している。そこには、日立の従来のピラミッド的な組織の中では見逃されてしまうような女性や、能力を持った若者がいるかもしれません。そういう次世代のトップ候補を見つけ出し、育てるためのグローバルな施策というのは日立にはあるのですか。

德永
はい。日立全社で取り組みは進んでいまして、“Future 50”という施策があります。これは日立の次世代、次々世代のCEO候補を探し、育成する取り組みなのですが、今その層に入っている人は140人くらいです。日本人とノンジャパニーズの比率は、まだ7:3くらいですが、日本人以外の比率は増えてきています。

その人たちは、タフアサインメント(※)で若くして責任の重い役割を担うことになります。例えば私の部門にいた40代半ばの男性は、去年の4月から従業員数3,500名を有するグループ会社の社長として経営にあたっています。

※ タフアサインメント:現在の実力では達成が難しい課題をあえて課し、短期間での成長を促す人材育成の手法。

名和
なるほど、いいですね。そこに国内でも海外でも女性が増えてくると、本当の意味で“女性の活躍”が実現できますね。

德永
おっしゃる通りです。(第5回へつづく)

撮影協力 公益財団法人国際文化会館

「第5回:パーパスの成果を測る2つの指標」はこちら>

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名和 高司(なわ たかし)
京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋ビジネススクール 客員教授
1957年生まれ。1980年に東京大学法学部を卒業後、三菱商事株式会社に入社。1990年、ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得。1991年にマッキンゼー・アンド・カンパニーに移り、日本やアジア、アメリカなどを舞台に経営コンサルティングに従事した。2011~2016年にボストンコンサルティンググループ、現在はインターブランドとアクセンチュアのシニア・アドバイザーを兼任。2014年より「CSVフォーラム」を主催。2010年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任教授、2018年より現職。

主な著書に『10X思考』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023年6月23日出版予定)、『シュンペーター』(日経BP、2022年)、『稲盛と永守』(日本経済新聞出版、2021年)、『パーパス経営』(東洋経済新報社、2021年)、『経営変革大全』(日本経済新聞出版社、2020年)、『企業変革の教科書』(東洋経済新報社、2018年)、『CSV経営戦略』(同、2015年)、『学習優位の経営』(ダイヤモンド社、2010年)など多数。

德永 俊昭(とくなが としあき)
株式会社 日立製作所 代表執行役 執行役副社長 社長補佐(クラウドサービスプラットフォーム事業、デジタルエンジニアリング事業、金融事業、公共社会事業、ディフェンス事業、社会イノベーション事業推進、デジタル戦略担当)、デジタルシステム&サービス統括本部長