ミナトホールディングス株式会社 代表取締役会長兼社長 若山健彦氏/株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋俊英
若山社長が率いるミナトホールディングスは、現在、「デジタルコンソーシアム構想」を掲げ、デジタル分野の大小さまざまな企業を束ねている。その狙いは、持株会社であるミナトホールディングスに管理部門を集約させることで、それぞれの企業が得意分野に全力で注力できる環境を整え、効率的に成長を促すことにある。一方、若山社長はグループ各社に対して、会長として経営に携わるものの、基本的に社名変更や社長の交代はしないという。この新しいグループ経営のあり方は、現在注目のティール組織のごとく、目的に向かって進化しつづける次世代の企業体の理想の姿と言えそうだ。

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「第2回:国内で二番目のネット銀行を創業」はこちら>
「第3回:『デジタルコンソーシアム構想』とは」はこちら>
「第4回:グループ各社の強みを生かし、シナジーを追求」
「第5回:eスポーツやメタバースへ先行投資する」はこちら>

買収した会社の社名や社長を変えない理由

八尋
前回、御社のM&A戦略である「デジタルコンソーシアム構想」について伺いました。グループとして大小複数の企業が集まることの、一番のメリットは何でしょうか?

若山
M&Aによるシナジーにより、売上を合算した以上にできる。足し算ではなく、掛け算です。それに加え、コストを抑えることができるのが大きなメリットです。コストを抑えるというのは人を減らすということではなく、人事や経理、総務、企画、広報といった管理部門を一つに集約できるという意味です。そうした管理部門は基本的にすべてミナトホールディングスにまとめることで、グループ企業には営業や技術開発に専念していただきます。たとえば融資を受けている銀行の窓口も一つにできれば、担当者は一人で済みますからね。

八尋
なるほど管理部門を集約することで、トランザクションコストを大きく抑えることができるわけですね。そうしたことができるのは、業務システムをはじめ、ITのしくみがあればこそですね。

そうやって管理部門を集約しつつもグループ内に上下関係をつくることなく、社名を含めてそれぞれの会社の個性をそのまま生かしているというのは、いまの時代に非常にマッチしたやり方だと思います。

若山
買収した会社の社名も変えず、社長も継続してもらい、事業にもあまり口出しをしないというのは、その企業をつくられた方の思いや心意気を大切にしたいからなのです。したがって、社名に「ミナト」を冠するのは、新規につくった会社だけ。もちろん、私は会長として役員会にも出席するし、何か問題があれば一緒に解決します。いろいろな事情で株を売って引退したい、体調が悪いので辞めたいというのであれば、お辞めいただくケースもありますが、ほとんどの社長がそのまま経営を続けています。

むしろミナトホールディングスが大きな舞台を用意するので、そこでやりがいを持って飛翔していただきたいという気持ちでいます。

それぞれの企業が得意分野に注力

八尋
本社機能を集約することで、各社が本業に専念できるからこそ、急成長を遂げることができたということもあるのでしょうね。

若山
半導体の技術には詳しいけれど、銀行とのやりとりやIR、経理の仕事は苦手という経営者もいます。幸い私はファイナンスの出身なので、そうしたことはお手のものです。金融関係はすべてこちらで担当するので、事業に集中してください、とお願いして役割分担をしています。

2022年12月1日からグループ7社がこの新橋のビルに集結したので、これからはグループ会社間のコミュニケーションもさらによくなり、シナジーをより発揮できると思っています。

多様な連携形態で仲間を増やす

八尋
集まった企業はすべてデジタル系とはいえ、内容はさまざまですね。

若山
デジタル分野のソフトウェア、ハードウェアに絞ってはいるものの、あまり絞りすぎないようにしています。メモリを開発する会社、デジタル周辺機器の製造・販売会社、200名ほどのSEを擁するシステム開発の会社、ウェブサイトをつくる会社、システムのバックアップをする会社などさまざまです。2021年に加わったエクスプローラは函館に本社があって、半導体に関するハード、ソフト両方の技術を備えたエンジニアが50名ほどいます。当社の貴重なエンジニア部隊となっています。

八尋
ITソリューションの会社を買収されたのは、非常にいい選択だと思っていました。現在、急成長している会社というのは、優秀なシステム開発部隊を内部に持っていて、内製している企業がほとんどですからね。今後もまだまだ仲間を増やしていかれるのでしょうか?

若山
はい、デジタル分野の産業がこれからも日本を支えていくのは間違いないし、さらに大きく伸びていくと思っています。既存事業に関連する会社だけでなく、多少違う分野も視野に入れています。100%買収にこだわらず、マイノリティ投資やアライアンスも含めて、営業提携、業務提携、開発提携、技術提携など、さまざまな関係性でつながりながら、デジタルコンソーシアム構想に賛同する仲間を増やして、さらなる成長をめざしていきたいと思っています。(第5回へつづく)

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)

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若山 健彦
ミナトホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 社長。
1989年、日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)入行。外資系証券会社を経て、2000年 イーバンク銀行(現・楽天銀行)を設立して代表取締役副社長兼COOなどを歴任。その後上場企業での代表取締役社長等を経て、2012年にミナトエレクトロニクス株式会社(現・ミナトホールディングス株式会社)の代表取締役社長、2019年より代表取締役会長兼社長に就任。社内の構造改革を進めるとともに、M&Aや海外展開を通じてミナトホールディングス・グループの売上高・収益力の大幅な伸長を実現している。東京大学卒業、米国スタンフォード大学経営大学院修了(MBA)。

八尋 俊英
株式会社日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長。
中学・高校時代に読み漁った本はレーニンの帝国主義論から相対性理論まで浅く広いが、とりわけカール・セーガン博士の『惑星へ』や『COSMOS』、アーサー・C・クラークのSF、ミヒャエル・エンデの『モモ』が、自らのメガヒストリー的な視野、ロンドン大学院での地政学的なアプローチの原点となった。20代に長銀で学んだプロジェクトファイナンスや大企業変革をベースに、その後、民間メーカーでのコンテンツサービス事業化や、官庁でのIT・ベンチャー政策立案も担当。産学連携にも関わりを得て、現在のビジネスエコシステム構想にたどり着く。2013年春、社会イノベーション担当役員として日立コンサルティングに入社、2014年社長就任、2021年より東京工業大学 環境・社会理工学院イノベーション科学系 特定教授兼務、現在に至る。